自由研究発表地域福祉2  黒岩 亮子

施設退所者の地域生活の実態と支援の方向性
 -更生施設退所者の実態調査結果より-

○ 淑徳大学  黒岩 亮子 (会員番号4152)
キーワード: 《地域生活》 《施設退所者》 《社会的孤立》

1.研 究 目 的

 今日、地域福祉の推進が強調されている。その背景の一つとして、これまでの分野別 福祉では対応できない、制度の狭間にある人や複合的な問題を抱えた人達の存在を挙げる ことが出来る。たとえば、ホームレスや引きこもり、ゴミ屋敷などの社会的排除や社会的 孤立という問題が地域において深刻化している。また、精神障害者やホームレスだった人 の地域生活移行、認知症高齢者のグループホーム居住などが政策としてすすめられ、地域 にはさまざまな問題を抱えた人達が生活するようになった。このような問題を抱えた人達 を、地域社会としていかに支えていくかということが問われ、地域福祉への関心も高まって いると言えよう。
 地域福祉の推進を考える時、地域社会における「支え合い」や地域住民の支援活動に焦点 があてられることが多い。また、専門家と地域住民が共に問題を解決していくことを目指す コミュニティソーシャルワークへの注目も集まっている。しかし、このような解決方法を 考える前に、支援対象となる人びとの地域生活の実態や生活課題を明らかにすることは重要 であろう。そのうえで、地域社会としていかに支えていくかという解決方法が見出せるの ではないだろうか。
 本研究は、地域生活の実態や生活課題が十分に明らかにされていないと考えられる更生 施設退所者を対象としている。更生施設は、生活保護法に規定された「身体上又は精神上 の理由により擁護及び生活指導を必要とする要保護者を入所させて生活扶助を行う」施設 であるが、その数は非常に少なく大都市部にしか設置されていない。ここ数年はホームレス だった人の入所も増加し、入所期間を短期化し退所者の地域生活を支援する「保護施設 通所事業」も実施されるなど中間施設としての役割を果たしつつある。すなわち、ホームレス だった人を含む更生施設退所者が、地域生活への円滑な移行や継続をするための支援が なされ始めたと言える。
 本研究では、更生施設退所者の地域生活の実態と課題を明らかにすると同時に、更生施設 の支援の有効性について検討することを目的とする。それをふまえ、どのような社会資源 をどのように生かせばこのような対象者を地域社会として支えることができるのか、今後 の支援の方向性についても考察する。

2.研究の視点および方法

 上記の目的を達成するために、A市B更生施設の退所者を対象にしたアンケート調査 を実施した。具体的には、保護施設通所事業の利用者とOB会に参加している70名に郵送 調査(通所事業利用者については一部手渡し)を実施した。実施期間は2009年11月2日から 12月22日である。回収数は53票、回収率は75.7%であった。アンケートに先立ち、B更生 施設職員に利用者の実態や保護施設通所事業についてヒアリングを行った。B更生施設の 特徴を明らかにするために、同じA市のC更生施設の職員にも同様のヒアリングを行った。 また、東京都23区内の更生施設退所者のデータ等も参考として用いた。

3.倫理的配慮

 B更生施設職員に調査票の内容を検討・訂正・追加をしてもらい、同意を得たうえで アンケート調査を実施した。また、対象者には個人を特定するデータは一切公表しないこと を確認し、調査に協力してもらった。アンケート調査の結果は個人を特定するデータを加工 したうえで、B更生施設に公表している。

4.研 究 結 果

 アンケート調査の結果を以下に簡単にまとめる。
 まず、現在も生活保護を受けているのは90.6%であった。これは、保護施設通所事業が 生活保護受給者をおもな対象としていることが理由であろう。しかし、ヒアリングからは、 退所者の多くは就労による「自活退所」ではないことが明らかになった。現在就労している のは64.2%であったが、そのうちの7割は更生施設や作業所ないでの作業に従事しており、 自活するほどの収入は得ていない。現在の居住場所は民間賃貸(アパート)が71.7%と最も 多いが、特徴的なのはグループホーム入居者が13.2%存在することである。年齢は、55歳未満 が41.5%、55歳以上65歳未満が43.4%、65歳以上が15.1%であった。更生施設入所期間は1年 以上3年未満が52.0%と最も多い。ヒアリングからも、近年になり入所期間が短期化してきた ことが明らかになったが、一方で10年以上入所していた人も8.0%存在した。当然ではあるが、 年齢が高くなるほど10年以上入所の割合が高かった。更生施設入所前の居場所として最も 多かったのが病院で51.1%であった。ホームレス自立支援センターからの入所が次いで多く、 20.0%であった。前の居場所が病院であることからも分かるように、病気を抱えている人が 多く、現在通院をしている人は88.7%にものぼる。年齢が高くなるほどその割合は高かった。 また、何らかの福祉サービスを利用しているのは64.2%であった。地域での人間関係に目を 向けると、近所とのつきあいがほとんどないのは30.2%、親しい友人がいないのは26.4%、 家族との連絡を取っていないのは30.2%であった。ここから、7割以上の人は何らかの人間 関係を持っている一方で、残り3割の人には社会的孤立の傾向が見られ、生活課題として挙げ られることが明らかになった。

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