地域を基盤としたソーシャルワークと地域福祉の接点
-「地域福祉援助」という概念の構築に向けて-
○ 大阪市立大学大学院 岩間 伸之 (会員番号1858)
日本福祉大学 原田 正樹 (会員番号2072)
キーワード: 《地域を基盤としたソーシャルワーク》 《地域福祉》 《総合相談》
本研究の目的は、「地域を基盤としたソーシャルワーク」と「地域福祉(地域福祉の基盤づくり)」との接点について明らかにすることによって、「地域を基盤としたソーシャルワーク」の特性及び両者間の関係や位置づけを明確にすることにある。
「地域を基盤としたソーシャルワーク」は、地域において本人の側に立った援助システムを構築すること、さらに住民・市民の参画を強調する点に大きな特徴がある。この概念は、概念的には地域福祉と深く重なり合う部分があることから、この両者の関係を整理して一体的にとらえることで双方に相乗効果をもたらし、さらには重層的な地域福祉実践のあり方を提示することを意図している。
「地域を基盤としたソーシャルワーク」の機能と「地域福祉(地域福祉の基盤づくり)」 との整合性を検証し、「地域福祉援助」という概念構築の作業をとおして、両者間の接点 及び関係を明確にした一体的概念として提示する。
3.倫理的配慮理論的検証及び概念構築が主たる作業であり、個別事例や個別地域を取り上げるもの ではないが、その過程及び発表においては十分に倫理的配慮を行ったうえで取り組んだ。
4.研 究 結 果1)「地域福祉援助」の全体像
「地域福祉援助」とは、2つの概念を含んでいる。それは、「地域を基盤としたソーシャル
ワーク」と「地域福祉の基盤づくり」とを相互に関係のあるものとして一体的に捉えて展開
しようする実践概念である(図1)。こうした地域福祉援助が求められる背景には、この
両者が理論的にも実践的にも今や切り分けができない未分化な状況にあることが関係して
いる。つまり、近年求められるソーシャルワーク実践と地域福祉の推進とは深く重なる実践
概念であり、また両者を一体的にとらえることで、より効果的な取り組みにつながること
になる。
2)「地域を基盤としたソーシャルワーク」の特質
地域を基盤としたソーシャルワークは、「個を地域で支える援助」と「個を支える地域を
つくる援助」という2つの機能を含んでいる(図2)。これは、「点」(個人等のクライエント)
と「面」(クライエントと取り巻く地域)とを同時に視野に入れながら、「点」を「面」
で支える援助と「点」を支える「面」をつくる援助とを同時並行で進めることと説明できる。
クライエントへの支援にあたっては、近隣住民等の地域との相互作用関係を重視しつつ、
同時並行でその地域の福祉力を高める取り組みにも力を注いでいくことである。人が地域生活を送る限りにおいて、周囲の近隣や諸機関・施設等と無関係ではありえず、何らかの関係をもちながら生活している。クライエントを地域から切り離して援助するのではなく、
生活の場である地域で周囲との相互作用関係をもちながら生活していることを絶えず視野に入れながら援助を展開する点に特徴がある。
3)「地域福祉援助」に含まれる3つの機能の整理
「地域福祉援助」に含まれる3つの機能、つまり前述の「個を地域で支える援助(A)」と
「個を支える地域をつくる援助(B)」、そして「地域福祉の基盤づくり(C)」の三者関係
について図式化して示した(図3)。地域を基盤としたソーシャルワークは、(A)と(B)を
射程に入れた実践であり、地域福祉の基盤づくりは、(B)と(C)をカバーする概念として
位置づけている。
図中の横U字型の矢印は、地域福祉援助において重要な意味をもっている。地域を基盤
としたソーシャルワークにおいては、日常生活圏域における「個を地域で支える援助(A)」
と「個を支える地域をつくる援助(B)」を同時並行で取り組む点に特徴があるが、さらに
複数の地域における実践を束ねていくことで、広域を視野に入れた地域福祉の基盤づくりに
つながるという側面がある。さらに、その地域福祉の基盤づくりは地域における個別支援に寄与もしくは強化することになるという円環的な関係にある。
「地域を基盤としたソーシャルワーク」と「地域福祉の基盤づくり」は、焦点を当てるシステムの大きさの違いあっても、いずれも地域の諸問題の解決に際し、専門職のみならず当事者を含めた地域住民が主体的に関与するという地域福祉の基本的な考え方に基づいて
いる。さらに、その延長線上に、市民・住民が主体的に地域社会に参画していくという成熟
した市民社会の創造が位置づけられることになる。