自由研究発表地域福祉2  森 明人

コミュニティソーシャルワークにおける予防的機能の考察
 -2000年以降における諸説の比較検討を通して-

○ 東北福祉大学  森 明人 (会員番号5709)
キーワード: 《コミュニティソーシャルワーク》 《予防的機能》 《個別相談支援》

1.研 究 目 的

 現在ソーシャルワーク機能は地域の中で領域別に分散しており、地域単位の一体的な 問題解決に向けた構造化の程度は、地域により取り組み格差が大きい。顕在化した社会問題 をみると、制度的な対応が困難であったり、地域住民が事態を感知していても、個人による 介入の判断が難しいといった共通点があり、事態の深刻化ないし問題回避を効果的に図る には、なんらかの予防的な仕組みが必要になる。そのような事態に対するソーシャルワーク の展開とは、短期的にはきめ細やかで個別具体的な相談支援を行いながら、中長期的には 予防的な生活環境づくりを含めたより包括的な予防を可能にするものであり、早期発見・ 早期介入を仕組み化する必要がある。従来から、社会福祉ではニーズ充足論に基づいた研究 が主流であり、ソーシャルワークの予防的な機能に関する研究は、その重要性は認められて いるものの、十分な発展を見せていないのが現状である(岡村1973,大橋2000,宮城2000, 岡本2002,渡辺2001、岩間2008)。清水(1994)は、伝統的ソーシャルワークの特徴が 「事後反応的、手近なサービス、クライエント個々への対応」であるとし、コミュニティ・ アプローチ、コミュニティソーシャルワークの特徴を「予防的・事前反応的、コミュニティ に結びついたサービス、ソーシャルネットワークへの関心」としている。問題は、現在の 社会福祉システムがニーズ充足を優先する事後対応的な枠組みにもとづいたシステム設計に なっているということであり、予防的な機能を埋め込んだ地域包括型のケアシステムの構築 に向けて、既存のソーシャルワーク機能における理論的検討が必要になる。近年の社会疫学 やヘルスプロモーションにおける「健康」「予防」概念の改鋳にみる研究動向からも、従来 の医学モデルから生活モデルへの機能移行は自明となっている。さらに、海外の先進事例等 においても、それを支える基盤やサービスの枠組みにおいても新たな生活モデルに立脚した 包括的な予防モデルが主流になりつつある。そのような中で、地域での自立生活支援の場面 で、より個別具体的なカウンセリング・相談支援機能、また地域資源の組織化等、地域の 安心・安全を含めた生活環境を予防的な観点から再検討し、新たなソーシャルワーク機能の 展開に繋げていくことが重要となっているのである。以上の問題意識から、本研究では地域 における予防的なコミュニティソーシャルワーク・モデルの構築に向けて、既存の地域を 基盤としたソーシャルワークモデルの予防的機能に焦点をあて理論的な検討を行いながら 若干の考察を行う。

2.研究の視点および方法

 本研究では、2000年以降の地域を基盤として展開するソーシャルワークの研究動向に 主眼を置きながら代表的なソーシャルワーク研究の諸説における理論的検討及び構成要件に ついて比較検討を行う。また、それらの検討を踏まえた上で、個別支援を基盤とするコミュニティ ソーシャルワークとコミュニティオーガニゼーション理論を支柱におくコミュニティワーク を中心に、予防的機能に照射しながらマクロ・メゾ・ミクロの観点から特徴を抽出し考察を 行う。特に、理論的検討課題とするのは、大橋等を中心とする2000年代以降の論文であり、 これまでの地域福祉論における諸理論の検討も踏まえながら、現代の地域社会が抱える 複合的・学際的な問題解決に対して求められるソーシャルワークの予防機能について考察を行う。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会の倫理規定にもとづき、倫理的な問題が生じないよう配慮をして 研究を実施した。

4.研 究 結 果

 現在の地域を基盤としたソーシャルワーク機能の捉え方において、それぞれの立場 からの具体的なソーシャルワーク機能における分類及びソーシャルワーク実践が内包する 予防的機能が明らかになったといえる。以下、マクロ・メゾ・ミクロレベルからの考察に ついて報告する。
 ミクロレベルでは、サービスを要する当事者、家族に対する働きかけを中心とするもの である。早期のニーズ発見・介入に始まり、サービスを要する当事者、家族のエンパワメント を促し、継続的な支援の展開を通じて、問題の発生や、可能な限り早期に対応することに より問題の発生や深刻化を防ぐというものである。
 メゾレベルでは、個人、家族が有する個別問題を広く共有化、普遍的な理解を通じ、同様 な問題の発生を未然に防ぐことや、問題が発生した際の解決に向けた取り組みや対応をある 程度システム化していくことである。ICFに基づく問題状況の理解や、対応の検討を行って いくことなどが考えられる。
 マクロでは制度、政策的な対応や、地域の組織化の推進、福祉制度、サービスに関する 理解の普及を通じた取り組みが挙げられる。その対象は、当然福祉サービスの利用対象と しての当事者や、その家族に限定されるものではなく、地域住民全体を視野に入れたものと なることが求められる。また、その際、予防的な観点に基づく対応としての情報の収集や 提供のみならず、啓発的な活動、組織化を通じた取り組みも含め、より広範な対応が求め られることになる。
 本報告は、平成22年度文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)「CSWの展開に資する 地域包括型予防システムの構築」の研究成果の一部である。

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