自由研究発表地域福祉1  南後 仁香

ネットワーク構築のための実践のプロセスに関する研究
 -社会福祉協議会のコミュニティワーカーに対するインタビュー調査
   をもとに-

○ 大阪市立大学大学院前期博士課程  南後 仁香 (会員番号7794)
大阪市立大学大学院後期博士課程  増田 和高 (会員番号6310)
大阪市立大学大学院後期博士課程  畑 亮輔 (会員番号6695)
大阪市立大学大学院  岡田 進一 (会員番号1746)
大阪市立大学大学院  白澤 政和 (会員番号769)
キーワード: 《ネットワーク構築》 《コミュニティワーカー》 《M-GTA》

1.研 究 目 的

 地域におけるさまざまな課題に対応するためには、専門職だけでなく、地域に存在する 多様な社会資源を含んだネットワークが必要であると言われている。しかし、このような ネットワーク構築の必要性が指摘されているものの、そのプロセスや方法論は明らかに されておらず、実践に移すのが難しいと感じている専門職が多いのが現状であると考えられる。 今後のネットワーク構築のための実践の向上のためには、具体的なプロセスや方法論を提示し、 専門職にとって実践の指針となるようなマニュアルを作成することが求められているといえる。 そこで本研究は、ネットワーク構築のための実践のマニュアル作成に向け、地域における ネットワーク構築のための実践の詳細なプロセスとその各段階で専門職に求められる具体的な 実践内容について明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法

 地域福祉の研究者の推薦により選出した8か所の社会福祉協議会のネットワーク構築 のための実践に関わっているコミュニティワーカーに対してインタビュー調査を行った。 調査期間は、2010年1月12日から2010年2月10日までであった。インタビューは、先行研究、 文献をもとに作成したインタビューガイドを用いて半構造化面接を行い、インタビューを 録音し作成した逐語録をもとに、ネットワーク構築のための実践のプロセスとその各段階 で必要とされるワーカーの実践内容に焦点をあて、M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・ アプローチ)の手法を用いて分析を行った。なお、妥当性を確保するため、カテゴリーや 概念の精査にあたっては、複数名でレビューを行った。

3.倫理的配慮

 インタビュー実施にあたり、調査対象者には本研究の目的・主旨を説明するとともに、 参加協力は本人の自由であり、参加協力しない場合にも一切の不利益を受けないこと、また 対象者の個人を特定できないよう倫理的な配慮を行うことを説明した上で、同意を得た。

4.研 究 結 果

 分析の結果、ワーカーが取り組んでいるネットワーク構築のための実践に関する13の カテゴリーと47の概念を生成した。また、それぞれのカテゴリーと概念の関連を検討した ところ、ネットワーク構築のための実践を「ネットワーク構築のための実践の基盤作り」、 「地域アセスメント」、「プランニング」、「地域福祉活動展開」という4つの段階に 整理することができた。以下、カテゴリーを【 】、概念を<>で示す。
①ネットワーク構築のための実践の基盤作り
 ネットワーク構築のための実践において、まずワーカーは、ネットワーク構築のための 実践の基盤作りに取り組んでいた。ワーカーは、地域との<顔の見える関係>の中で、 <ネットワーク構築のための実践の基盤となる信頼関係>の構築を目指して一連の実践を 行っていた。
②地域アセスメント
 ワーカーは、ネットワーク構築のための実践の基盤作りと同時に、地域アセスメントに 取り組んでいた。ワーカーはまず、資料・引き継ぎ等による【事前の地域情報把握】と 地域に出向くことによる【ネットワーク構築のための実践に必要な情報収集】によって 地域の人・資源の存在や特性、問題状況といった様々な情報を集めていた。そして、それら を整理・統合化する<地域情報の精緻化>により、専門職としての視点から多角的に地域の 実情を把握し、その実情における<地域の問題状況と社会資源のすり合わせ>を行うことで 地域のニーズを析出していた。
③プランニング
 地域のニーズを析出した後、ワーカーはその地域のニーズを充足するための地域福祉活動 を計画していた。ワーカーは、地域アセスメントで析出された地域のニーズをもとに、 その地域のニーズの充足と地域のネットワークの構築という2つの側面から、地域福祉活動 の“目的”、“内容”、“担い手”、“規模”をプランニングしていることが示された。
④地域福祉活動展開
 プランニングした地域福祉活動を実施していくにあたり、ワーカーはまず、【地域への 地域福祉活動の提案】を行っていた。その際、ワーカーはしばしば地域住民の拒否や不賛同、 警戒といった<地域の壁(巻き込み時)>に直面することがあるが、それを克服し、地域 福祉活動を円滑に実施する準備を行う【地域福祉活動の準備期】、具体的な地域福祉活動を 地域で実施していく【地域福祉活動実施期】に移行していた。そして地域福祉活動を実施 した後、<地域福祉活動の評価>を行い、<評価に基づくプランの修正>、<地域福祉活動 におけるフィードバック>、<地域福祉活動から新たな地域福祉活動への展開>を行って いることが示された。
 このような地域福祉活動の影響として、活動に参加した地域住民の福祉に対する意識の 向上、活動参加者同士のつながりの形成がみられた。つまり、地域のニーズに即した地域 福祉活動を媒介としてネットワークが構築されていたといえる。
5.結語
 ワーカーは、地域との関係を構築しながら、またその関係を基盤として、地域アセスメント によって析出した地域のニーズをもとに、それを充足するような地域福祉活動を計画し、 住民とともに実施していくことを通してネットワークを構築していることが示された。 専門職は、ネットワーク構築のための実践にあたり、地域との関係の構築、地域アセスメント、 地域福祉活動のプランニング、実施という一連のプロセスを展開していくことが求められる といえるだろう。
 本研究は平成21年度日本学術振興会科学研究費補助金:基盤研究A(主任研究者:白澤政和) の研究の一部である。

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