地域福祉の実効性を高める「地域社会」の捉え方
-「地域社会」と「生活問題」・「住民参加」-
○ 日本福祉大学 江原 隆宜 (会員番号3816)
中部学院大学 平野 華織 (会員番号4323)
首都大学東京非常勤講師 小田川 華子 (会員番号3221)
日本社会福祉士会 荒木 千晴 (会員番号3711)
日本福祉大学 大濱 裕 (会員番号3519)
キーワード: 《実効性》 《自立性》 《持続性》
社会福祉法では,「地域における社会福祉」=「地域福祉」と位置づけた.また,
2008年3月「地域における『新たな支え合い』-住民と行政の協働による新しい福祉-」
の報告では,「地域社会」という生活の場において住民と行政,専門家が,「参加」「協働」
して創造する「新たな支え合い」を目指して,「地域福祉は,地域社会を再生する軸」
として期待されている.その地域福祉は,「地域の福祉」ではなく「あらたな質の地域社会
を形成してゆく内発性を基本要件」とする「地域福祉」である.しかし,「地域福祉」を
目指す実践が,必ずしも実効性を高めているとは言い難い状況があるのではないだろうか.
振り返ってみると地域福祉において地域社会は,常に議論の対象となってきた.地域社会
は,住民が参加,協働しつつも生活問題が発生し問題解決活動が展開される場である.
これまでの多くの地域福祉論では,地域社会の重要性は認識しつつも,実は地域社会を
「ブラック・ボックス」として扱ってきたのではないだろうか.地域社会は,地域住民の
日々の生活が営まれる場である.その日常的な生活の仕組みの現状及び変化の過程を,住民
を主体として理解することなしに,地域福祉を論じてもそれは「外発的なあるべき論」に
なってしまうのではないだろうか.「地域福祉」の実践において「地域社会」をどのように
捉えるのかは,「実効性」「自立性」「持続性」を目指す上で極めて重要なことと考える.
地域社会には,住民自身の伝統的な生活の仕組み,知恵があり,様々な経験の積み重ね
による社会的能力の蓄積がある.このような地域社会の潜在的な力を,さらに高め,より
自立的,持続的な地域社会へ向う実践活動,協議・協働の仕組みづくりやそれを可能とする
制度・政策を整えること,つまり地域社会のエンパワーメントが,今日の地域福祉の課題
ではないだろうか.しかし,実際の地域社会はそれぞれ固有な生活の仕組みの中で,生活
問題が発生し,住民参加のありようがある.したがって,実践の実効性を高めようとする
ならば,「地域社会」と「生活問題」・「住民参加」を,どのように関連づけ捉えている
のかが問われるのであろう.
そこで本研究では,地域社会の自立的・持続的発展を目指す地域福祉実践の実効性を
高める「地域社会」の捉え方及びそれと「生活問題」・「住民参加」の捉え方との有機的な
関連を考えたい.
地域福祉実践の実効性を高めるには,まずは住民の暮らしを理解することが必要である.
住民の暮らす地域社会には,地域住民が生活している仕組みがあり,その活動経験の積み
重ねと社会的能力の蓄積がある.これらは,どの地域も同じではなく,その地域ごと固有な
ものである.これら地域社会の固有性の中で住民参加のありようがあり,それが生活問題の
発生とも関連している.生活問題と住民参加は,地域社会の構造的・機能的特性から生まれる
具体的現象と捉えることも出来るのである.そこで、地域福祉実践をより効果的に展開する
ために先行研究では,「地域社会」,「生活問題」,「住民参加」をどのように捉えている
のか分析・整理し,今後の地域福祉実践の手がかりを得たいと考える.
研究対象とする地域福祉理論は,地域社会のあり方と住民主体,住民参加に力点を置く
代表的な論のうち「コミュニティ重視志向の地域福祉論」岡村重夫(1974)『地域福祉論』
光生館,「自治型地域福祉論」右田紀久惠(2005)『自治型地域福祉の理論』ミネルヴァ書房,
「住民の主体形成と参加志向の地域福祉論」大橋謙策(1999)『地域福祉』放送大学教育振興会
を取り上げ,文献調査を行う.
本研究は,日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守するものである
4.研 究 結 果 先行研究の三つの理論を検討して,二つのことが明らかになった.第1には,地域社会
の捉え方についてである.三つの論に共通することとして「地域社会」の固有性について
論じられていないことである.地域福祉にとって地域社会を主体として認識し,地域社会の
場が,住民の生活にとって重要であるということは論じられているが,その地域社会の能力,
経験,仕組みをどのように捉え,どのように働きかけていくのかという具体的な分析視点や
枠組み及び方法に関しては知ることができなかったのである.第2には、地域社会と生活
問題,住民参加の関係性についてである.第1の点とも関連して,地域社会の機能的,構造的
特性と生活問題の発生,住民参加のありようを理論的に関係づけ論じられているものは
なかった.特に住民参加に関しては,三つの論において参加の必要性について論じられては
いるが,住民の日常生活における参加の現状をどのように捉え,それに対してどのように働き
かけていくのかという具体的な分析視点や枠組み及び方法に関しては知ることができなかった.
従来,地域福祉の理論と方法とは別に論じられてきた.そもそも,具体的方法論は地域
福祉理論に含まれていないということもできる.しかし,今求められるのは,理念を,
具体的な「策」として設定できること,具体的方法として実践できること,及びより実効性
を高めることであろう.今後もこれらの課題に取り組んでいきたい.