地域福祉に関する計画策定のための課題把握方法について
-住民座談会および各種調査結果の活用のあり方について-
○ 岩手県立大学 都築 光一 (会員番号119)
キーワード: 《地域福祉計画》 《社会福祉調査》 《課題の把握方法》
近年、地域福祉計画をはじめ、社会福祉にかかる計画策定に際して、種々の調査が
実施されている。またこれを推奨する形で、国からも計画策定に際しては、住民のニーズ
把握、あるいはその意思を尊重して計画策定に当たるようにガイドラインを示している
ところである。一方で社会福祉法第4条に規定されているように、「福祉サービスを必要
とする住民が、地域社会を構成する一員として日常生活を営」むことができるように地域
福祉の推進を図るために、当事者の声が必要とされるのも事実である。
しかしこの両者の声を反映した調査を実施できている事例は、ほとんど聞かれない。通常
の社会調査の手法で自記式調査を実施した場合、要介護者や視聴覚および上肢機能が不自由
な方は回答が困難である。また面接調査を行うと、拒否されやすいことも事実である。発表者
の経験においては一般的に回収率が低かった。地域福祉計画策定のために、住民座談会も
よく開催されるが、会場まで移動が可能で、会場で発言・討論が可能な地域住民に限定される。
これらの手法は確かに今後も必要な手法ではあるが、この調査や座談会結果のみで計画策定
を行うことは、地域福祉の推進を十分な形で可能にするものとは思えない。
そこで、地域福祉計画及び地域福祉活動計画の策定のために必要とされる、従来の調査
の手法に加えて、従来の調査の手法においてやや不足気味であった「福祉サービスを必要
とする住民」のニーズや地域福祉推進のために必要な要素の把握方法に関し、これまで
実施した各種調査の事例をもとに検討し、その可能性を探ることを目的とする。
過去の調査結果から、社会福祉に関する計画や事業のために実施する調査は、住民 座談会や通常の社会調査の手法のみでは有益な情報や調査結果を確実に得ることが十分には できないという点に着目し、福祉サービス利用者のニーズ等を的確に把握するために、福祉 サービスを必要とする住民やその家族、さらには十分な情報を提供頂ける対象集団を特定 する必要がある。こうした点を踏まえ、通常の社会調査の手法で実施した調査と、同様の 地域内で福祉サービスを必要とする住民やその家族、さらには十分な情報を提供頂ける対象 集団を特定して実施した調査結果などについて、主として3自治体の調査結果やヒアリング 結果をもとに、福祉ニーズや地域福祉推進のために必要な要素の把握方法に関し、その 可能性を検討する。
3.倫理的配慮日本社会福祉学会研究倫理指針にもとづき、対象者との間で合意を得た範囲内にて データを処理し、個人名、地区名、市町村名が明らかにならないようにした。
4.研 究 結 果 2006年にA県B市において、40歳以上80歳未満の一般住民2000人を対象に、社会福祉
関連についての意識調査を配票留置方式にて実施した。その際には、回収率が67.5%で
1350票であった。回答者中、身体障害者手帳所持者は0.9%の12人、要介護認定を受けていた
方は3.8%の51人であった。このときの回答者における65歳以上の高齢者は、785人で、この
中に占める認定者比率は6.5%となる。調査時点のB市における身体障害者手帳所持者の比率
は、市全体でも4.2%である。また認定率は22.5%であるので、身体障害者手帳所持者に
おいても、要介護認定を受けた人においても、全市におけるそれぞれの該当者の半数以下
ということになる。加えて身体障害者手帳所持者の回答者の内訳には、視聴覚や上肢の不自由
な障害者手帳所持者は含まれていない。また要介護認定を受けている人の回答者の内訳には、
要介護2の人が最重度という実態であった。なお調査は、市の意向によって80歳未満に限定
されている。
また、社会福祉関係の設問の内容によって、一般中高年者と民生委員では、回答の傾向が
異なる部分がある。これについては、対象人口33万人の広域圏において実施した一般中高年者
(1239人)と民生委員(609人)調査において「今優先すべき生活上の福祉の課題は何かに
ついて、13項目から選択してもらったところ、χ二乗の独立性の検定結果において1%水準
で有意な差がみられた。
一般中高年者は、屋外の生活条件を重視しているのに対して、民生委員は個々人の生活
問題を重視する傾向がみられた。
また、一般中高年者と民生委員の回答の違いは、2005年から2009年まで実施した5自治体
に置ける調査結果でも回答に違いが見られた。この調査結果のデータに関しては、いずれの
当該社会福祉協議会や行政担当者からも、地域福祉課題の把握においては、民生委員の調査
結果が有益である結果が得られている。さらに三自治体における地域福祉活動計画策定の際、
住民座談会結果から福祉課題を明らかにしたが、そもそも住民座談会に参加している地域
住民は福祉サービスを必要としている住民の参加が極めて乏しく、住民座談会における意見
の集約結果は地域福祉推進の上では必要であるとはいえ、その結果だけで計画策定に至ること
は、福祉サービスを必要とする住民のニーズが反映されていない点から適当ではないと
思われた。
このため、①調査設計の段階で福祉サービス利用者をメンバーに加える ②総合的な調査
と個別的な調査、あるいは量的調査と質的調査などの組み合わせ方法の考え方を検討する
③調査結果集計後の課題抽出から活動内容の設計プロセスに福祉サービス利用者の声を反映
させる 等などの工夫が必要と思われた。