DV被害当事者の暮らし復興までのプロセスと支援課題
-DV被害当事者へのインタビュー調査から-
○ 愛知県立大学 山口 佐和子 (会員番号5245)
キーワード: 《DV》 《自立》 《支援》
2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が我が国において 成立し、DVは社会問題として認知されることとなった。そして当法の規定により県婦人 相談所は、配偶者暴力相談支援センターの機能を担い、DV被害当事者の相談から脱出後の 一時保護までを業務とするようになった。2004年の改正法では、DV被害当事者の自立の 必要性が初めて明記された。それと前後し、2002年には母子世帯の自立を促す「母子及び 寡婦福祉法等の一部を改正する法律」が制定され、2005年には厚生労働省から「自立支援 プログラムの基本方針について(被生活保護世帯対象)」が通知されている。いまや、 DV被害当事者を取り巻く状況は、保護に留まらない、自立を基本とした生活の復興という 流れに変化したといえる。しかしながら、DV施策の方向性はともあれ、被害当事者の現実 は厳しい。内閣府のデータによれば、平成20年度の配偶者暴力相談支援センターへの相談 件数は、68,196件、一時保護件数は4,666人である。相談者全員が公的一時保護所に行く わけではないが、暴力的環境からの脱出率は単純に計算して6.8%と少ない。脱出した後は どうなのか。内閣府から出された『配偶者からの暴力の被害者の自立支援等に関する調査 結果』(2007年)によれば、①生活に必要なお金がない、②体調や気持ちが回復しない、 ③住民票が移せないという問題を2人に1人が抱えており、その他、どうすれば自立できる のか情報がない、相談できる人がまわりにいない、新しい環境になじめないといった回答 がある。このような現状をふまえ、本研究では、DV被害を経験し現在暮らし復興を成し 遂げたあるいは成し遂げつつある女性たちに聞き取りを行い、どのような支援を受けて暴力 的環境から抜け出すことができ、そして暮らし復興を成し遂げた、もしくは成し遂げつつ あるのかを探るとともに、今後の支援策の課題を導くことを目的とする。
2.研究の視点および方法本研究は、社会において被害当事者の自立が当たり前のように捉えられつつある現状 と、自分の暮らしを復興させるために苦闘している実際の被害当事者たちの現状との間に ある大きな溝を可視化するとともに、その溝を埋めていこうと試みる視点で行ったもので ある。本研究は、インタビュー調査を基としている。2009年7月、インタビュー調査協力者 を得るため、調査依頼文を作成し、地方自治体男女共同参画室、地方自治体相談室、A市 配偶者暴力相談支援センター、B県配偶者暴力相談支援センター、民間シェルター、母子 生活支援施設、各種女性団体などに配布した。直接電話やEメールでの依頼も行った。 その結果、10名のインタビュー調査協力者を得ることができた。調査は2009年10月に5回に 分けて実施した。最初の3回はNPO法人参画プラネット事務所で行い、残りの2回はC市 男女共同参画センター相談室で行った。具体的には、事前に質問票を送付し、当日は一部屋 を貸切り、筆者がインタビュー調査協力者に質問票をもとに質問を行い、参画プラネット スタッフが筆記を担当した。インタビュー録音は許可の取れた人のみとし、9名の録音を 行った。なお、本研究は公益信託愛・地球博開催地域社会貢献活動基金助成事業による ものである。
3.倫理的配慮本調査は充分な倫理的配慮のもとに計画され、調査の実施にあたっては調査協力者の 同意を得て実施された。また調査の結果報告に関しては、個人が特定されないための配慮を 行った。
4.研 究 結 果 調査項目は、1)基本的属性①年代②学歴③居住形態④年収、2)家族①子どもの有無
②子どもの年齢③他の同居者④他の同居者の年齢、3)就労体験、4)取得資格、5)これまでの
暮らしについて、6)今現在心配なことや困難なこと、7)地域とのつながりについて①地域
とのつながりの程度②地域とのつながりを作るために必要なこと、8)自由意見、例えば
自分にとっての回復や成功、である。
この調査のなかで、さまざまな事柄が被害当事者によって語られた。それらをまとめると、
a.DVを受けていると気づく難しさ、b.DVを受けていると気づけば安全確保策と経済的
自立の準備に入れること、c.脱出経路はさまざまで、それを決定するのは、脱出後に子ども
といられるか、危険度はどうか、経済的余裕はあるのか、親族の援助を当てにできるのかの
4要因であること、d.二次被害の多発(区役所・公的一時保護所・警察・病院・裁判所)、
e.公的機関の人事・経済支援・住宅支援・住民票関連の制度上の不具合、f.役所や公的一時
保護所の設備やサービスの不具合、g.民間機関の支援拠点の地域格差、h.住居の得にくさ、
i.DVを理解してくれない親族、j.子どもへのDVの影響(登校拒否・引きこもり・体調
不良・自傷行為)、k.地域とのつながりの難しさ(安全確保・就労による時間のなさ・自分
は世間体が悪い人間だという考えによる)である。
このような被害当事者の暮らし復興への道筋を厳しくしている現状を打破するためには、
[1]住宅支援策充実、[2]情報のシェア、[3]支援組織の多様化、[4]DVサバイバーの活用、
[5]子どものための全国ネット結成、[6]研修の法的義務化、[7]警察の体制作り、[8]社会
への啓発活動、といった課題を着実に達成していく必要がある。