韓国における地域児童センター実践とリーダーシップ
-フェミニスト・ソーシャルワークの視点-
○ 武庫川女子大学 前田 美也子 (会員番号2937)
兵庫大学 Sung Lai Boo (会員番号3853)
キーワード: 《フェミニスト・ソーシャルワーク》 《リーダーシップ》 《女性保護者》
本研究は、筆者らがコミュニティ・アクションを通して、韓国のA市B区において、
2005年に設置した児童福祉法に基づくC洞地域児童センター(以下、センターとする)の
2010年までの5年間の実践過程を検討するものである。C洞地域児童センターは、低所得家庭
の児童、また、ひとり親や祖母と孫世帯など、保護者の事情により、放課後の家庭での養育
が難しい小学生と中学生(29名定員)が利用している放課後児童通所施設である。
週6日間、学校が終わると児童はセンターに来所し、学習支援、食事サービス、生活・
衛生指導、文化活動サービスなどを利用する。また、保護者の長時間勤務などにより、家庭
での世話が難しい児童に対しては、夜間サービスを提供している。さらに、保護者の失踪や
虐待などの緊急時には、職員が泊まり込んで児童を守る一時保護サービスを提供することも
あり、宿泊できる部屋も備えられている。B区の中でも特に生活保護世帯、ひとり親世帯が
多いC洞では、センターは待機児童の絶えない重要なひとつの社会資源である。
ところで、コミュニティ実践の評価方法は、日韓においては未だ発展段階にあるといえる。
筆者らが設置から3年目に実施したアンケート調査結果では児童、保護者ともにセンター利用
に満足していることが明らかになった。しかし、センターの固有の存在意義とサービス実施
効果については、児童の成長過程の観察とともに多面的に評価する必要がある。
そこで、5年目を迎えた今、3代目の女性センター長がリーダーシップをとっているが、
それぞれの女性リーダーシップのスタイルが、児童と女性の保護者の自立支援にどのような
影響を与えているのかを関係者の面接調査を中心に検討することを本研究の目的とする。
その上で、女性の組織者と女性の保護者、さらには地域コミュニティが協働してマネジ
メントしていく新たな地域児童センターの実践モデルの方向性を提示する。
センター設置以来、3名の女性センター長が運営のリーダーシップをとっているが、
そのスタイルをフェミニスト・ソーシャルワークの視点による女性組織化の原則に基づいて
検討する。検討内容は、女性センター長のリーダーシップのあり方が、①児童と女性の保護者、
②サービス・プログラム内容、③管理・運営方法、④地域コミュニティとの連携に与えた
影響についてである。加えて、児童の成長と変化を示す学習の結果も検討する。
方法としては、2010年4月29日~5月4日までの間、センター会議室、事務室、ダイニング
において個別面接調査を実施した。対象は日常的なセンター活動にさまざまな形でボランタリー
に関わっている児童の母親、祖母などの保護者7名、センター長1名、専任ソーシャルワーカー
1名、児童14名、運営委員長1名、後援会長1名の計25名である。
さらに、児童のケース記録、活動記録、財務資料、監査資料なども合わせて検討した。
本研究における実践事例調査および面接調査の結果の公表にあたっては、日本社会福祉 学会における研究倫理指針を遵守し、施設管理者、当事者・家族の承諾を直接得ているほか、 本人が特定できないように匿名化している。加えて、日本学術振興会による科学研究費補助金 研究に関する諸規定に基づき、個人情報の保護を含む倫理的配慮をしている。
4.研 究 結 果 フェミニスト・ソーシャルワークの視点による検討の結果、女性センター長のリーダー
シップのスタイルは、①強力な主導的活動者としてのスタイル、②冷静な教育者としての
スタイル、③保護者との相互依存的な養育者としてのスタイルに分けられた。これらの3つの
スタイルの中で、児童と女性保護者に最も強い影響を与えたのは、①の強力な主導的活動者
としてのスタイルであった。他方、地域との連携や地域住民のリーダーによって構成されて
いるセンター運営委員会や後援会、行政との間で最も良好かつ協力的な関係づくりができた
のは、③の相互依存的な養育者としてのリーダーシップのスタイルであった。
また、センターの人事管理・運営、児童・保護者との関係づくり、地域コミュニティとの
関係、財務状況、サービス・プログラムなどのいずれの点においても、問題が生じていた
のが、②の冷静な教育者的リーダーシップのスタイルであることがわかった。
女性組織化におけるリーダーにはミクロからマクロレベルまで、多様な役割/機能が求め
られ、積極的・肯定的な側面がある一方で、陥りやすいジレンマもある。必要な専門知識・
技術とともに葛藤解決とバランスのとれた働きかけが課題といえる。特に、センターの保護者
会の活発なメンバーの大部分は、ひとり親(祖母)の女性の保護者であり、生活が経済的、
心理・社会的に長期間、不安定な環境に置かれている。よって、このような組織における
実践は、フェミニスト・ソーシャルワークのアプローチを基盤として、①コミュニティへの
参画促進、②強み・長所の活用と保護者との集団的・共有的問題解決、③サービス目標・
成果の共有と支援過程の重視、④秘密保持による信頼と自尊感情を高めることによる自立
への意識化、⑤保護者とセンタースタッフによる合意形成、協働、連携関係の構築が必要
であるといえる。尚、本研究は日本学術振興会平成21―23年度科学研究費補助金(「韓国
地域児童センター実践による地域福祉力形成と貧困脱却・自立支援モデルの開発」、研究
代表者:前田美也子、連携研究者:Sung Lai Boo)による研究成果の一部である。