特定課題セッションセッションⅢ: 地域・『当事者』が参加・参画する社会福祉専門教育  嶌末 憲子

地域と連携・協働したInterprofessional Educationの展開
-地域の評価と学生の学びに関する検討-

○ 埼玉県立大学  嶌末 憲子 (会員番号3901)
埼玉県立大学  新井 利民 (会員番号4651)
埼玉県立大学  小川 孔美 (会員番号4527)
埼玉県立大学  佐藤   進 (会員番号3596)
キーワード: 《Interprofessional Work(IPW)》 《連携・協働》 《社会福祉士教育》

1.研 究 目 的

 本研究では、2006年から2008年に地域と連携・協働して実施した4学科4年生(看護・理学・作業・社会福祉)合同の インタープロフェッショナル演習(以下、IP演習とする)における学生の学びを分析し、社会福祉教育との連続性の観点 から意義と課題を検討することを目的とする。また、IP演習にかかわった施設や機関、ファシリテータや家族からの評価 をふまえ、地域と連携・協働したIP演習の今後の展開について示唆を得たい。

2.研究の視点および方法
1)学生個人(2007:42名)の振り返り記述をKJ法により分析した全体像について、社会福祉士教育との連続性や地域・ 現場との関係について検討する。
2)A県B地域における3パターン(個人・集団・地域)の担当事例(自己による記述・参与観察データ)より、社会福祉 学科学生の関わりについて専門教育の観点から検討する(2006~2008)。
3)IP演習を受け入れた施設ファシリテータ(2008:18名)の振り返り記述より、現場や地域のメリットを整理する。
4)地域課題をもとに展開したIP演習報告会と専門職連携推進会議(地域拡大版)のアンケート結果(2008:16名)より、 地域で展開する意義について検討する。

3.倫理的配慮

 学生や利用者、施設には事前に説明し、承諾を得てインタビュー等を実施した。報告会や報告書作成、研究発表に おいても、個人情報保護を遵守した。

4.研究結果及び考察
1)学生の学び(変化)の全体像
  【チーム】【自他の専門的特徴の理解】【利用者中心】【利用者理解と支援計画】【施設にみる連携の姿】【専門教育】   【振り返ったこと・その他】の7カテゴリーが抽出された。これらのうち【利用者中心】が軸となり、【利用者理解と   支援計画】【チーム】【自他の専門的特徴の理解】の3カテゴリーが関連し、利用者(個別と集団)の支援計画検討に   よる変化を示しており、各々の連続性を示唆する「接点」カテゴリーが存在している。
  また、IP演習が専門教育との連続性の上に成り立つことを意味する【専門教育】は<専門学習との連続性><これまで の経験実習>に分類される。IP演習を現場にて実施することを意味づける【施設にみる連携の姿】が得られ、現場職員への インタビュー等を通じ、利用者中心の支援を目指す思いに触れる体験は、チーム形成の動機を高め、チームケアの理想的援助 を実感する貴重な機会として捉えていることが分かった。さらに、学生自身の変化として、【振り返ったこと・その他】が 確認された。
2)①個別利用者の支援計画への取組では、利用者へのインタビューを自然に実施し、地域を生活レベルで把握すること等を 提案できていた。②介護予防事業に参加する集団への支援では、混迷するメンバーを支援したり、見えにくい利用者のニーズ に着目し、インフォーマルケアラーや市民にまで視点を広げることができていた。③認知症高齢者に関する地域課題をテーマ とした展開(福祉保健総合センター)では、社会資源を理解して家族インタビューを実施し、見えにくい利用者のニーズを 理解する必要性について提案できていた。④共通して不十分であったのは、介護職の役割やケア内容に関することであった。
3)現場や地域のメリット
  IP演習を引き受ける意義・メリットは①利用者・家族、②施設ファシリテータ、③現場、④地域の4つに分類された。 ①では、学生との交流を通じた感謝や喜びが表現されていた。長期的には現場が変わることが利用者のメリットであるという 回答も見られた。②では、「事前調整による刺激」、「連携・協働の必要性の認識化」、「チーム形成のプロセス理解」、 「受けた研修の現場活用」等、前向きなものが多かった。③では「インタビュー時の多職種理解促進」、「利用者中心の支援 への刺激」、「施設内報告を通じた連携・協働の認識共有」、「プランの活用」等が確認された。④については、地域課題を テーマとした機関以外は少なかった。
4)地域課題をテーマにした場合の意義
  家族会の発言や学生の支援計画を今後に活かすことや、IP演習への期待が多かった。学生は、報告会にて曖昧であった 地域を実感し、意義を再確認できていた。

5.結論
1)学生にとってIP演習の体験は多職種理解を促進しており、IPWの原体験となる可能性が見受けられる。
2)IP演習では、社会福祉教育で培ってきた理念や知識・技術等を活かすことができた。
3)ファシリテータが核になり、現場で連携・協働が進むことが確認された。利用者や地域への意義は、長期的展望をもつ 必要がある。
4)地域課題をテーマとしたIP演習は、学生のみならずファシリテータや利用者・家族の参加意欲を高めていた。地域での IPWを促進すべく、今後も地域課題を継続して取り上げていくことが重要である。
・本研究は文部科学省現代GP「保健医療福祉の専門職連携教育」(2006~2008)の成果の一部である。
・他の共同研究者:杉山明伸・朝日雅也、KJ法の検討は大塚真理子・國澤尚子・田野ルミと共に分析した。2008年の A地域福祉保健総合センターは、木下聖も担当した。
・参考文献:埼玉県立大学編『IPWを学ぶ~利用者中心の保健医療福祉連携~』中央法規、2009年

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