特定課題セッションセッションⅠ: ソーシャルワーク実践としての権利擁護  小西 加保留

ソーシャルワーク実践としての権利擁護
概念の理論的整理により研究と実践の接点を問う

関西学院大学  小西 加保留 (会員番号0983)
キーワード: 《権利擁護》 《概念整理》 《重層的課題》

1.研 究 目 的

ソーシャルワークにおける「アドボカシー」(本報告では、=権利擁護とする)は、その歴史の中でたえず強調され、 専門職実践の核であり続けているとされている(Mickelson ,1995)。しかしながら、実態として「アドボカシー」は、 「原則として容易に主張できるが実践では実行困難な状況」(Kemp, Whittaker &Tracy,2000)にあり、「その曖昧さ がソーシャルワーク・アドボカシーへのコミットメントを弱くしている」(Schneider&Lester,2001)と評されている。
  日本においても1990年代以降,社会福祉基礎構造改革の議論が活発となり,制度としても介護保険,成年後見制度 の導入などの種々の法の制定や改正が行われ,「権利擁護」の考え方や取り組みが強調されるようになった。同時に 関連する論文や事例なども多く報告されてきた。しかしながら,そうした文献に見られる「権利擁護」の概念の内容は 実に多様であり,一定の合意に至っていないのが現状である(小西,2007)。
  本研究では、本質的に法学等との学際的な概念である「権利擁護」に関する理論上の議論は、先に述べたソーシャル ワーク全体の歴史に反して、社会福祉の立場からはいわば入り口に立ったばかりであるとの認識に立ち、その課題を 整理することを目的とする。単に制度に関わる議論や「権利擁護」の理念やミッションに基づく実践を報告するだけ でなく、学際的な領域であるが故の重層的課題を整理した上で、改めてそれらをソーシャルワークの側から捉えなおす ことによって、理論的な課題と共に、実践現場と教育・研究との実質的なパスを探ることを試みたい。

2.研究の視点および方法

報告者は、ソーシャルワーク分野における「アドボカシー」に関する先行研究、ならびに20年間に亘るHIVソーシャル ワーク実践の内容とリサーチを踏まえて、「アドボカシー」の概念を検討し、『ソーシャルワークにおけるアドボカシー』 (ミネルヴァ書房,2007)を出版した。そこでは、先ず「アドボカシー」には対象となる「環境」のアセスメントが 必要という前提を導き、HIV感染者とソーシャルワーカーを取り巻く「環境」を総合的に捉え、多様な重層的要因の整理を 試みた。また結果として「ソーシャルワークのアドボカシー」とは,「ソーシャルワーカーが,専門家として,クライ エントの権利侵害の状態に対して支援する際に行う活動,用いられる技術であり,どのような目標を持ち,どのような 介入を誰と共に行うかは、環境アセスメントによるものである。」という結論を導き出した。
  しかしながら、そこでは日本における法制度体系の現状と照らし合わせて学際的な視点から具体的な課題を提示し、 ソーシャルワークとしての捉えなおしやその技術を提示するところまでを目的としなかった。そこで、今回は学際的な 観点を含め、「権利擁護」に関わる概念の理論的構造を整理し、その上でソーシャルワークの本質と任務の観点から検討 を加えることによって、概念上の論点や実践に繋がる課題の抽出を行った。

3.倫理的配慮

 本研究は、報告者の先行研究に加えて、学際的な視点による先行文献、資料により考察を加えたものであり、 学会研究倫理指針に則して行われたものである。

4.研 究 結 果
① 議論の対象となる「権利」のレベルが、憲法上、実定法上、理念・思想上、また契約による「債務・債権」の、 どのレベルであるかを区別して検討することの必要性。
②「権利」の救済、確保、侵害の予防の、どのレベルの議論であるのかを区別する。救済への関与と、確保、予防 に関わるソーシャルワークの関与とを分けて検討する必要性。
③人権としての自由権と社会福祉は基本的に緊張関係にあることを前提に、政策レベル、法律レベル、実践レベル でのこれまでの動向や課題を抽出し、検討することの必要性。
④権利擁護に関わるソーシャルワーカー、または対人援助職に付与される権限と法的根拠の検討。
⑤特に専門職後見人と身上監護に関わる実践における法的課題とソーシャルワーカーとしての業務との関連を考察 するところから見える課題の学際性の検討。
⑥ソーシャルワークの哲学的理念的ミッションとしての「権利擁護」と、協働性、当事者主体、エンパワメント概念 が展開される場としてのミクロ、メゾ、マクロ実践の考え方を重層的、段階的に検討すること。
⑦ソーシャルワーカーのいる位置に関する環境アセスメントと、その方向性に関する重層的課題とその役割の確認に おいて、現状で出来ることと創出の双方の視点を持つこと。
⑧具体的援助技術としてのアドボカシーの獲得についての研究(翻訳を含む)の必要性。
  以上、①から⑧の論点を踏まえて、ソーシャルワークとしての「権利擁護」の意味と内容に関する今後の理論的 実践的課題の方向性の提示を試みる。

【文献】
・Kemp, S. P., Whittaker, J. K., & Tracy, E. M. (1997) Person-Environment Practice:The Social Ecology of Interpersonal Helping, Gruyter, Inc.
・Mickelson, J. S. (1995) Advocacy. In National Association of Social Workers, Encyclopedia of Social Work, 19th. Washington, DC.
・Schneider, R. L., & Lester, L. (2001)Social Work Advocacy: A New Framework for Action. Canada: Brooks/Cole.
・小西加保留(2007)『ソーシャルワークにおけるアドボカシーHIV/AIDS患者支援と環境アセスメントの視点から』 ミネルヴァ書房.

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