特定課題セッションセッションⅠ: ソーシャルワーク実践としての権利擁護  岩崎 香

人権を擁護するソーシャルワーカーの機能と役割に関する研究
-精神保健福祉領域における実践過程を通して-

早稲田大学  岩崎 香 (会員番号4603)
キーワード: 《アドボカシー》 《ソーシャルワーク機能》 《精神保健福祉》

1.研 究 目 的

本研究はソーシャルワーカー(以下SW)の人権を擁護する機能と役割を明確化し、機能が発揮されるための実践的な モデル提示を行うことを目的としている。研究の背景として、社会福祉基礎構造改革における福祉サービス供給システム の転換が行われ、契約の時代を迎えたこと、その結果、判断能力が不十分な認知症高齢者、障害者等の人権という課題が 注目されたとことが挙げられる。対等性の担保、パートナーシップの形成は共生社会を志向する現在の国際的な潮流の中 でも強調されており、国連における障害者の権利条約の採択といった動きに呼応するものでもある。
  近年、権利を擁護するということの内実が議論されるようになり、人権を擁護する機能はソーシャルワークの統合的 な側面として理解されるようになった。しかし、理念や理想として人権尊重が謳われていることと実践がどう結びついて いるのかは判然としない。本論文では、マイノリティの中でも、人権上の課題を多く残している精神障害者を対象とした ソーシャルワークに焦点化し、実践の中で発揮される人権を擁護する機能を明確化したいと考えている。人権を擁護する ソーシャルワーク機能とその実践モデル化は専門性の向上やセルフ・アドボカシーに寄与するという点でも啓発的な意義 があると考えられる。

2.研究の視点および方法

研究方法としては、第一次調査では,先行研究、個別インタビューの結果から人権擁護にかかわる機能に関する整理 を行った。その結果、導き出された6つの機能に関して、第二次調査として、フォーカス・グループインタビュー法を用 いて調査を実施した。調査対象者は医療機関、地域の福祉サービス事業所、公的機関などに勤務するSWで、9グループ、 51名の協力を得た。分析の結果、人権を擁護するソーシャルワーク機能として7つの機能を確認した。さらに、それらの 機能を検証するために、障害当事者3グループ、17名を対象としたフォーカス・グループインタビューを実施し、人権を 擁護するSWの機能と役割に関する実践モデルを提示した。

3.倫理的配慮

 事前にインタビューの目的,倫理的配慮について説明し,その内容を明文化した文章を提示した上で、インタビュ ー当日再度、目的以外の使用、個人が特定されるような使用を行わないことを前提にインタビューへの協力を得た。

4.研 究 結 果

先行研究の検討、第一次調査、第二次調査の分析結果から,アセスメント,情報提供,調整,代弁・代行,教育・啓発 ,ネットワーキング、ソーシャルアクションという7つの人権を擁護するソーシャルワーク機能を抽出した。
  機能を発揮する前提として共通していたのは,専門職としての視点や姿勢,SWの立ち位置に関する発言であった。 日常業務の中で,前述したようなSWとしての視点や,姿勢,立ち位置を意識させられるような場面に遭遇したときに, 人権に関する「発見」が内発的動機となって,他のさまざまな機能を活用しながら,実践が展開されていると考えられる。 また,「発見」は権利への「気づき」であると同時に,環境や当事者ニーズに関するアセスメント機能でもあることが 確認された。SW自身もまた、人的環境であるがゆえにアセスメントの対象であり、精神科医療という特殊な環境下での 実践では、「人権に敏感な職種」でありながらも,同時に「権利を侵害する可能性」が語られ、内省する傾向が見られた。
  情報提供機能は、個別の価値に寄り添いながら、そのニーズに応じて情報を提供する機能であり、アクセス権の保障、 情報の取り扱い等に関する倫理を含むものでもある。代弁・代行機能は、クライエントの主張を支援する機能であり、 調整機能は、機関内外の人的・物的資源を活用し、クライエントのニーズに添う状況を創り出す機能だと位置づけられる。 代弁・代行、調整の二つの機能は、先行研究でも従前から人権擁護機能として採り上げられており、個別の支援を中心に 発揮される。教育・啓発機能は、PSW、クライエント、家族、機関内の専門職種、地域の関係機関や市民、ボランティア など、多様な対象に対して障害の理解、人権への配慮を求める機能であり、個別に働きかける機能と,集団や地域を対象 とする機能を結ぶ働きをもっていると考えられる。ネットワーキング機能はSWが所属する機関内外を繋ぎ、コーディネート していく機能であり,フィールドによる違いがより明確に現れていた。二次調査において、地域のSWから語られる創造的 な実践の中で、ネットワーキングという機能におさまらない部分をソーシャル・アクションという形で整理した。ソーシャル アクション機能は、法制度の変革を求め,新たな資源の創出を試みることなどを通して,地域で暮らす障害者の権利を保障 する積極的な機能だといえる。以上の結果から、SWの人権を擁護する機能は,フィールドによって制約される側面を持ち ながらも,当事者のニーズに添うべく多様な形で発揮されていることが明らかとなったのである。
  つまり、SWの発見(アセスメント)は人権を擁護する実践課題へと結びつく入り口の機能であり、そこを起点に、個別 の人権を支援する機能と、地域社会を結び、変えていこうとする機能が発揮される。その双方を取り結び、人々の意識変革 や当事者のセルフ・アドボカシーの実現に働きかける機能が働くことによって、最終的に、7つの機能が循環し、SWの人権 を擁護する機能が果たされると考えられるのである。

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