特定課題セッションセッションⅠ: ソーシャルワーク実践としての権利擁護  水上 然

市町村高齢者虐待対応評価ガイドの開発
-評価ガイドの開発において実務者は何を重視したか-

○ 大阪府立大学人間社会学研究科博士後期課程  水上 然 (会員番号6966)
大阪府立大学  黒田 研二(会員番号2797)
キーワード: 《高齢者虐待》 《評価》 《市町村》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、市町村が高齢者虐待への取り組みを自己評価できるような方法(評価ガイド)の開発を市区町村職員 と共におこなうこと、また、平行して市区町村職員が虐待防止の取り組みの評価においてどのようなことを重視しているのか を検証することである。ここでの「取り組みの評価」とは、個々のケースへの対応状況を評価するだけでなく、市区町村内で 把握されたすべての虐待ケースへの対応をレビューし、そこから地域課題や政策課題の評価を行うことまでをさす。

2.研究の方法

(1)市町村の現状および意見の調査
  高齢者虐待対応評価ガイド(パイロット版、以下、評価ガイド)の開発にあたり、市区町村の評価の現状および評価に 関する意見を知るため、近畿2府6県の302市区町村の高齢者虐待防止担当主幹課長を対象に郵送法による質問紙調査を実施 し、157市区町村より回答を得た(回収率52%)。また、市町村の現状を把握するため、5市町村の役所を訪ね虐待防止体制 に関する聞き取りを実施した。
(2)実務者ワーキングと専門家アドバイザー会議の議論を基にした評価ガイド開発
  実務者ワーキング会議(5市区町村職員を中心に構成:6回開催)とアドバイザー会議(弁護士、精神科医、社会福祉士を 含む専門家6名で構成:3回開催)を組織し、実務者ワーキング会議で評価ガイドの基本的構成の素案を作成し、それに対し アドバイザー会議から助言を得ながら、会議での議論を基に評価ガイドを開発した。会議の開催期間は、平成20年10月~21年 3月であった。実務者ワーキング会議、アドバイザー会議での発言は、参加者の同意のもとICレコーダーに録音し、後日、 参加者に記録を配布し内容の確認を求めた。その記録を分析し、評価において市町村職員が重視した項目を整理した。さらに 人口20万人規模の2つの市町村で評価ガイド試用に関するプレテストを実施した。

3.倫理的配慮

質問紙調査と聞き取りについては、市町村の施策、評価などで質問項目を構成し、プライバシー情報が入らないよう配慮 した。また、質問紙の調査データは統計的な処理を実施し、市町村の個別名を記さないこととし、回答者の同意のもとに調査 を行った。聞き取りの内容や会議の記録についても、プライバシー情報が入らないよう留意した。

4.研 究 結 果

(1)市町村の現状と評価に関する意見
  質問紙調査の結果では、適切な評価を実施している市町村は16%であった。評価シートを有している市町村は13%に過ぎ ず、評価シートの開発の必要性が確認できた。また、「個別ケースの課題が把握できる」「チームとしての援助介入の適切さ を評価する」「評価のための書式の記入が容易である」「他の機関との連携内容を評価する」「取り組むべき課題の優先順位 をつけることができる」の項目について、他の項目よりも重視すると答えていた。
  評価ガイドの開発において、市町村の職員が重視していたのは次の7点であった。第1に、すべてのケースを一定期間 ごとにフォロー(評価)し、ケースそのもの、もしくはケースの重大な変化を見落とさない仕組みを構築すること。第2に、 評価に客観性を持たせること。第3に、評価を通し職員の力量を高められること。第4に、評価結果を地域の関係者にフィード バックし、関係者の虐待防止に向けた理解を促進することで、地域の機能を高めること。第5に、データの整理が簡単で統計的 な処理が早く様々な報告に利用できること。第6に、評価にかかる負担と効果のバランスがとられていること。第7に、誰も が実施でき続けられる評価であること。
(2)評価ガイドの開発
  評価ガイドは、①評価ツール(評価シート)、②評価手順、③データの処理方法、④評価結果の活用例を含むこととした。 評価ツールはエクセル仕様で作成し、クリックで入力できる項目を多く設定し、誰でも簡単に利用できるよう工夫した。評価 ツール(評価シート)には、個別事例の評価(初期介入の評価、継続した評価)、及びにケース全体の評価(台帳を利用した 全ケースの状況確認、統計データの収集)ができるような仕組みを取り入れた。評価結果を地域づくりにつなげることが出来 るよう、評価ガイドには細かい解説を入れることとした。
  評価ガイド作成における議論では、評価における支援計画の扱い、評価指標、評価ツール(シート)の内容と量、評価の スパン、評価シートの記入者(入力者)等が話し合われた。個別支援計画の扱いでは、市町村によって作成実績にばらつきが あり、個別支援計画に基づく評価をした場合、評価を行えない所が出てくることが予測された。評価指標では、項目別の細か い指標は記入に手間がかかるため、全体を大きく捉えることのできる指標として、虐待の要因、虐待のレベル、介入の成果の 3つが採用された。評価ツールの分量については最低限であることが求められた。評価のスパンは3ヶ月毎という意見が多 かった。評価シートの記入者は、圏域内でおこった虐待ついては地域包括支援センターが把握しておく必要があるため、地域 包括支援センターの担当者が望ましいという意見が出された。

5.おわりに

 今後、開発した評価ツールを複数の市町村で使用してもらい、評価ガイドの改訂を図っていきたい。また、実際に実施 された評価結果をもとに虐待の対応状況や、効果的な施策のあり方を検証していきたい。なお、本研究は大阪府からの委託 研究「市町村の高齢者虐待防止対策につなげる方策の検討及び支援方法の開発」の成果の一部である。

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