自由研究発表高齢者福祉4  住居 広士

新版要介護認定に対する時間研究と動作研究
-介護時間による科学的管理の検証-

県立広島大学大学院 住居 広士(会員番号2099)
キーワード: 《要介護認定》 《介護時間》 《タイムスタディ》


1.研 究 目 的
 要介護認定は、時間研究(タイムスタディ)と動作研究によって、介護時間量から要介護度と介護報酬を決める科学的管理法である。新版要介護認定の高齢者介護実態調査による1分間タイムスタディを再現して新版要介護認定を検証した1)

2.研究の視点および方法
 介護老人福祉施設2施設の要介護者数102人と介護職員60名に対する時間研究(タイムスタディ)と動作研究を、新版要介護認定の他計式1分間タイムスタディを再現して検証した2)。要介護者の要介護度は平均3.8±1.1、年齢は平均83.7±8.2歳で、性別構成は男性25.5%、女性が74.5%である。さらに介護老人福祉施設6施設とその付属の事業所(通所介護、短期入所生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護支援事業所、地域包括支援センター)の全職員878人の自計式タイムスタディして、全職員の労働時間とその内容を検証した3)。全職員1人一日あたりどのような介護サービスを何分間提供して、要介護者1人一日あたりどのように受給したかを集計して統計学的(SPSSV16.0)に解析した。

3.倫理的配慮
 社会福祉調査・研究過程にて老施協総研内で協議の上、介護老人福祉施設2施設にて説明会を実施し説明と同意を求めて利用者の人権を尊重し倫理性を確保した。

4.研 究 結 果

1.新版要介護認定の基準時間と介護実態時間の乖離

 新版介護実態時間では、要介護者が軽介護・中介護・重介護の三峰性に分布していた。介護保険実施前の旧版介護実態時間では軽度者と中重度者の二峰性であり、新版では重度化が進展して介護時間が約30分以上も延長していた(図1)。旧版要介護認定では、要介護5の基準時間は110分以上から構成されている累積人数比率から決定され、新版では介護実態時間では要介護5は、累積人数比率が89.2%となる140分前後がその基準時間と想定された。しかし、新版要介護認定の要介護5の基準時間は、従来通りの110分以上となり、従来通りの基準時間の区分であり、介護実態時間と乖離している。
2.新版要介護認定の樹形図時間と介護実態時間の乖離
前版と新版要介護認定の樹形図時間を検証すると、新版では特に清潔保持と間接介助、次いで排泄と移動が減少して、問題行動BPSDが特に増大して、統計学的に有意な平均値の差を認めた(図2)。特に間接介助の樹形図時間が減少して、問題行動BPSD時間が増加していた。介護実態時間の問題行動(1.5分)、生活自立支援(6.8分)、社会生活支援(1.3分)を総計すると、BPSD樹形図時間(8.6分)と類似した。

間接介助の介護実態時間(18.1分)から生活自立支援と社会生活支援を削減すると、間接介助の樹形図時間(11.3分)と類似した。間接介助の樹形図時間が減少したのは、生活自立支援と社会生活支援にかかる介護時間を、行動上の問題の介護時間に加算することで、問題行動BPSDの時間が増加したことが想定できる。BPSD関連行為の時間を延長することで、認知症の介護時間は若干増えるが、逆に寝たきりなどの身体介護の介護時間が短縮して要介護度が低減される。

3.介護から介助時間による新版要介護認定
 排泄・移動・清潔保持の樹形図時間の平均値にも統計学的な有意差を認め、樹形図時間が介護実態時間と比較しても減少していた(図2)。介護実態時間をケアコード小分類の介助時間の割は、排泄(72.1%)・移動(80.9%)・清潔保持(68.7%)の介助実態の割合となる。それらの介助実態時間(排泄16.6分・移動12.7分・清潔保持15.3分)は、新版要介護認定の樹形図時間(排泄17.9分・移動12.1分・清潔保持13.8分)と類似した時間となる。新版要介護認定では、身体介護の一部を、全体の介護時間ではなく、介助時間だけに限定して樹形図を構築されたことが想定できる。
介助時間だけに限定すれば、前版と新版要介護認定が同一の基準時間で区分できるように構築できる。しかし、それ以外の介護時間が削減されることで、要介護認定の介護時間が全体的に減少することになり、要介護者の要介護度が低下することに繋がる。介助時間では、準備・言葉による働きかけ・見守り・後始末などの認知症介護はほとんど評価されないことになる。介護給付の中度者が、要支援の軽度者に認定されて、介護予防されることにもなる。新版要介護認定システムで、さらに要介護度の低減を伴うので、介護から介助時間による新版要介護認定の妥当性が乏しくなる。

4.要介護度と介護実態時間の相関性
 要介護度と介護実態時間の相関係数は0.312(Spearman, p=0.01)で、とても弱い(図3)。要介護度の有効期間は12か月から24か月間にも関わらず、要介護認定を経た要介護度が介護実態時間とかなり弱い相関性しかないことは、そもそも介護時間だけで要介護度を区分して判定するのはほとんどできないとも言える。

しかし、これに逆行して、新版の要介護認定で、厚生労働省は「時間を基準とする原則に立ち返る」として、2次判定でそれ以外の変更指標を削除した。介護時間以外では、変更の目安になりうるのが、日常生活自立度だが、日常生活自立度と介護実態時間の相関係数は、障害高齢者が0.389、認知症高齢者が0.367と、要介護度と同様に弱い相関である。介護時間や日常生活自立度を主な根拠にして、介護認定審査会で要介護度を判定する妥当性は非常に乏しい。
参考文献1)住居広士『介護保険における介護サービスの標準化と専門性』大学教育出版2007年 2)老施協総研「新版要介護認定に関するタイムスタディによる調査研究-1分間タイムスタディ調査分析事業」2008年 3) 老施協総研「介護老人福祉施設職員の業務量に関するタイムスタディによる調査研究」2009年

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