家族介護者の抑うつと死亡・要介護状態発生(健康寿命喪失)との関連
○ 名古屋医専 平松 誠 (会員番号6220)
日本福祉大学 近藤 克則 (会員番号3953)
キーワード: 《家族介護者》 《抑うつ》 《生存分析》
1.研 究 目 的
高齢社会が到来し,介護を必要とする高齢者の人口が急速に増加している。このことに伴い家族介護者も増加している。これまでの研究では,家族介護者の介護負担感や抑うつを軽減する適切な支援を探るために,関連する因子の検討(要介護者の認知症の程度や要介護度,ソーシャルサポートや副介護者の有無,ストレスコーピングなど)が,多く行なわれてきた1)2)。
しかしながら,介護者の抑うつ状態と,介護者の死亡や要介護転落(健康寿命喪失)との関係の検討は少ない3)4)。そこで,本研究では介護者の抑うつと死亡・要介護転落の関係について研究を行った。
2.研究の視点および方法
AGES(Aichi Gerontological Evaluation Study,愛知老年学的評価研究)プロジェクトのデータを用いた。A県下3介護保険者において,2003年5月1日時点で,要介護認定を受け,かつ在宅介護サービスを利用していた人の介護者を対象とした。自記式調査票を用いて,担当の介護支援専門員を通じて配布し,留め置き郵送回収法で調査した。回収数556名,回収率50.6%である。
また,保険者から個人情報を保護した上で提供された要介護認定データを用い,2003年から1461日(4年)間の死亡,要介護(要支援以上)認定の発生を追跡した。追跡データとの結合には,性別,生年月日,郵便番号をキー変数として結合し,同一のキー変数となったデータは削除した。結合できた108名のうち分析に用いた設問で回答に欠損のない87名を分析対象とした。
目的変数(エンドポイント)は,死亡または要介護認定(健康寿命喪失)とし,説明変数には,GDS(Geriatric Depression
Scale-15項目短縮版 うつなし:0~4点,うつ傾向:5~9点,うつ状態:10~15点)と,介護者の年齢を用いた。分析には,GDSと介護者の年齢を同時投入し,Cox比例ハザード分析を用いて年齢調整ハザード比(HR)を求めた。
3.倫理的配慮
各保険者と日本福祉大学とは政策評価分析に関する総合研究協定を結んでおり、データは政策評価分析の目的のみに使用し個人情報の取り扱い特記事項を遵守した。
4.研 究 結 果
性別や年齢などの基本属性の度数分布は次のようであった。男性42.5%(n=37),女性57.5%(n=50),65歳以上75歳未満63.2%(n=55),75歳以上36.8%(n=32)。GDSが0~4点は51.7%(n=45),5~9点は31.0%(n=27),10~15点は17.2%(n=15)であった。4年間の死亡者は3.4%(n=3),要介護認定を受けた者は,9.2%(n=8)であった。
年齢を調整し,GDSと死亡・要介護状態発生との関連を分析した結果,GDS得点が低い者(0~4点),うつ傾向のある者(5~9点)のハザード比は0.738(n.s.),うつ状態のもの(10~15点)のハザード比は6.919(p<0.05)であった。GDSの得点が高いうつ状態の介護者(10~15点)は,GDSの得点が低い介護者(0~4点)にくらべて死亡・要介護度状態に陥る割合が6倍も高いという結果が示された。
5.考 察
海外では、Schulzら (1999)によって、平均4.5年間追跡した前方視的縦断対象比較研究で、介護の精神的負担は介護者の死亡率を1.63倍に高めるという研究があるが,本研究ではより高い値が示された。介護者の精神的なストレスは介護者自身の健康状態を悪化させる可能性が示唆された。
6.参 考 文 献
1)平松誠・近藤克則・梅原健一ほか.家族介護者の介護負担感と関連する因子の研究(第1報)-基本属性と介入困難な因子の検討-
厚生の指標53(11):19-24,2006
2)平松誠・近藤克則・梅原健一ほか.家族介護者の介護負担感と関連する因子の研究(第2報)-マッチドペア法による介入可能な因子の探索-
厚生の指標53(13):8-13,2006
3)Yoshihisa Fujino,Shinya Matsuda Prospective study of living
arrangement by ability toreceive informal care and survival among
Japanese elderly.Preventive Medicine2007;48:79-85
4)Schulz R,Williamson
GM.2-year longitudinal study of depression among Alzheimer's caregivers.Psychology&Aging1991;6(4):569-78