自由研究発表方法・技術5  裵 瑢俊

社会福祉の運営管理とコミュニティソーシャルワーク
-社協版バランス・スコアカードの開発のためのパイロット研究(中間まとめ)-

長崎ウエスレヤン大学  裵 瑢俊 (会員番号6135)
キーワード: 《社会福祉の運営管理》 《コミュニティソーシャルワーク》 《バランス・スコアカード》

1.研 究 目 的

 少子・高齢化や低成長経済への移行、規制緩和への推進など、今後の社会福祉をめぐる状況に対応し、必要な福祉 サービスの的確な提供と利用の一体的体制確保による社会福祉運営の整備が求められてきた。その議論は、2000年の社会 福祉法としてまとめられた。今後は、個人の尊厳と自立支援を基調とした質の高いサービスの多元的・効率的に供給する という、従来の組織管理方式から新たな社会福祉運営の展開が求められる。特に、福祉サービス水準とそれを提供する組 織構造の枠組みの在り方は、密接に関連している。地方自治体の地域福祉行政の組織構造は、サービス水準改善のために はいつまでも固定されたものであり得るはずがない。ちょうど、社会福祉サービスの特性が、個々人のニードに対応して 個別化されて提供されることにあるのと同様に、地域福祉行政の組織構造も社会の要請やサービス水準改善のためには柔 軟に再構築できるような特性を備えていなければならない(津崎 哲雄、『ソーシャルワークと社会福祉:イギリス地方 自治体ソーシャルワークの成立と展開』)。つまり、社会問題への対応と社会関係への対応を統合化する必要性が出てく ることである。この課題に関して、大橋氏は次のように指摘している。「日本の場合、1990年以降は市町村レベルにおい てメゾレベルで制度設計と対人援助ができるようになった。その環境が整うことによって、社会問題的対応と社会関係的 対応の統合化という問題がかなり現実的にやれるようになったのではないか。すなわち、コミュニティソーシャルワーク (以下、CSW)の視点は、社会問題への対応と社会関係への対応を統合化するというところにポイントがある」。
   したがって、本研究は、地域トータルケアの推進にあたって、CSW実践が展開できる組織構造の運営管理方法につい てパイロット研究であり、バランス・スコアカード(Balanced Scorecard;以下、BSC)という経営手法を用いてい る。また、本研究はA市社会福祉協議会などのご協力によりこれまで数回のBSC研究会を実施してきたが、未だ企画 レベルの研究であることもお断りしておきたい。

2.研究の視点および方法

 本研究は、当初、地域福祉計画の進行管理を中心とした評価手法及び評価尺度等の開発を目的に、社会福祉協議会 (以下、社協)における地域福祉活動計画の進行管理のためにBSCを使ったパイロット研究(2005年-2007年)を行ってきた。 しかし、研究が進む中で、社協を取り巻く環境の変化、そのうち、介護保険事業との並行・撤退課題、地域福祉の推進、 社協の基盤強化の課題が露呈された。これらの課題解決のためにBSC研究に関心を見せてくれたB市社協の協力を得て、社 協の運営管理を中心にした評価手法及び評価尺度の開発・実証研究を進めているところである。現在、ミッションとビジ ョンの確認、BSCサーベランス・チェックシート(社協版)の検討、SWOT分析など、その導入のための研修会を経て、今後 アクションプランの作成段階に入る。今回の発表は、これまでのB市社協におけるBSC研究から得られた結果に限定してそ の中間まとめを行う。

3.倫理的配慮

 この研究の研究目的及び方法は、学会研究倫理指針に則って行われている。今回の発表内容はB市社協の理解を得た うえでの中間まとめである。また、平成19・20年度科学研究費補助金(基盤研究(B))「コミュニティソーシャルワーク 実践の体系的なスキルの検証及び教育法の開発」に投稿した内容(第11章)の一部変更および追加内容が含まれ、その発 表時にその内容を明示する。

4.研 究 結 果

 まず、当初、BSCの作成過程は営利を目的とする企業のBSC作成手順を活用してきたが、非営利を目的とする社協にお いて、その作成に不具合がみられるように、勉強会や研修会等を積み重ねるなかで、BSC作成の手順の修正を行い、B市社 協向けに修正されたBSC作成プロセスを用意することができた。
   第2に、パイロット研究の初年度においては、SWOT分析を通じてBSCのサーベランス・チェックシートの開発に重点 を置いたため、SWOT分析を行うことができなかったが、2007年にB市社協のBSC研究時からSWOT分析を行うことができ、そ の分析の過程を通じて、社協の現状と将来について全職員が理解・共有でき、今後の戦略目標の設定において、特定の職 員だけではなく、全職員が考える手段として有効であることとわかった。その後、C市社協においても、社協の課題の明確 化、また職員同士の現状理解と組織全員参加による情報共有のためにSWOT分析が必要であうことがわかった。
   第3に、BSCという組織の運営手法は、この報告の初めに書かれたBSCの定義のように、全員参加による戦略的マネ ジメントの実行が成り立つためには、組織文化という新たな領域の理解が必要であることがわかった。非営利を目的とし ながら、地域、地域住民という多様性のある概念の操作的定義、また、業務施行の主体とする社協の性格や職員が所属す る社協組織の理解等を含めた社協組織の文化理解が並行して行われる必要であると思われる。今後の継続研究ではこのBSC を活用とする組織文化についての研究に力を注ぎたい。

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