自由研究発表方法・技術5  福島 喜代子

地域で自殺予防のゲートキーパーを養成する
-トレーナーズトレーニング(リーダー養成研修)のシステムづくりの試み-

 ○ ルーテル学院大学  福島 喜代子 (会員番号3144)
国立精神・神経センター精神保健研究所  小高 真美 (会員番号4702)
元神奈川県ソーシャルワーカー  岡田 澄恵 (会員番号6175)

キーワード: 《自殺予防》 《トレーナーズトレーニング》 《人材養成》

1.研 究 目 的

 世界的な不況の波が押し寄せ、日本社会においても、さまざまなひずみが顕在化している。地域社会における人々の つながりが希薄化し、経済的に困窮する人々の増加を受けて、自殺者のさらなる増加は避けられない情勢にある。わが国で は、1998年以降から年間3万人の自殺者が出ており、多くの人の命が失われ続けることは、日本社会の損失である。
   このような中、内閣府を中心に取り組みがすすめられ、2006(平成18)年6月には自殺対策基本法が制定され、2007 (平成19)年6月には自殺総合対策大綱が定められた。この自殺総合対策大綱では当面の重点施策として9項目が掲げられ、 「早期対応の中心的役割を果たす人材(ゲートキーパー)を養成する」ことも3つめの項目としてあげられた。その対象に は、介護支援員や民生委員・児童委員、そして社会的要因に関連する相談員なども想定されている。ところが、法律や大綱 制定以降も自殺者数は減少するどころか、増えているのが現状であり、2008年の自殺者総数は32,249人であった(警察庁「 平成19年中の自殺の概要」)。
   これまでの自殺対策として実際に行われてきたことは、自殺者の実態調査、啓発的なシンポジウムの開催、そして、 都道府県の職員等を主な対象とした、自殺者の実態、うつ病等をテーマにした知識伝授型の研修や遺族の体験談の講 演等が多い。地域の精神保健や福祉関係者がどのように具体的に自殺予防に取り組めばよいかについて、情報を得て、 スキルを身につけるような内容の研修は非常に少ないのが現状である。
   自殺者数を減らすためには、さまざまなレベルでの働きかけが必要である。地域で自殺予防のゲートキーパーを養成 することは、その中のほんの1つにすぎない。しかし、全国で地域ごとに、自殺に気づき、初期介入ができる人材を養成し ていくことは重要な課題である。年間3万人の自殺者に気づき、介入できる人材を養成するためには、国全体で年間数カ所、 数十人が対象となるような研修を開催しているだけでは間に合わない。
   研究代表者は、学内研究奨励金を得て、2007年度は自殺危機初期介入スキルについての研究を深めた。続いて、2008 年度は、自殺危機初期介入スキルのワークショップを開催し、その効果検討を行った。その結果、ワークショップに効果が みられることが明らかになりつつある。そこで、これらに引き続き、自殺危機初期介入スキルワークショップなど、地域で 研修を行う側(ワークショップのリーダー)を養成する、トレーナーズトレーニングシステムづくりのあり方とその内容を 検討することを目的に、本研究を行うこととした。

2.研究の視点および方法

 トレーナーズトレーニングのシステムについては、わが国の社会福祉の分野では、それほど多くのプログラムで行われ ていないが、例えば、主に精神障害者である当事者がピア(当事者仲間)に対して行う再発防止計画づくりプログラムの「WR AP」では、「トレーナーズトレーニング」のシステムが米国で開発され、日本でも導入が進んでいる。
(1)ワークショップの内容及び教材(テキスト)の開発
 ①自殺予防の基礎知識、②自殺に対する意識や考えの振り返り、③自殺のサインへの気づき、④自殺を考えている人への初  期介入に必要なスキル演習、⑤自殺のリスクアセスメント、⑥自殺のリスクのある人への対応方法の演習などを網羅できる  書き込み式のテキストを開発。
(2)ワークショップの視覚教材(DVD)の開発
 自殺危機初期介入の一連の流れについて把握できる視覚教材を開発、作成
(3)ワークショップの講師(リーダー)用教材の開発
 ワークショップの講師が用いることのできるマニュアルを開発
(4)トレーニングシステムの開発
 ワークショップ参加経験者のみ参加できるリーダー養成研修を計画し、募集。
参加者へ講師(リーダー)用教材を配布し、実際にワークショップのリーダーとして練習を行うシステムづくりを開発
(5)トレーナーズトレーニングシステムの検証
 リーダー養成研修について、自由回答によるアンケート調査を行い、その結果を検証。結果を受けて、さらに、講師(リーダー)  用教材の内容を更新。

3.倫理的配慮

 本研究はルーテル学院大学研究倫理委員会の倫理審査を受け、承認されている。

4.研 究 結 果

 2008年度に5回、「自殺危機初期介入スキルワークショップ」(定員20名)の開催を行い、全国の精神保健福祉センター、 保健所を中心に参加募集を行った結果、合計90名の参加が得られた。2009年度にも同ワークショップの開催を3回予定してい る。2008年度夏に1回、そして2009年度夏に1回、同ワークショップの「リーダー養成研修」を定員10名で2回募集したとこ ろ、2008年度に5名の参加を得られ、2009年度には定員10名に対して12名の応募が得られた。
  2008年度参加者のフィードバックをうけて 2009年度の講師(リーダー)養成研修のテキストを改訂し、2009年度の研修で 用いた検証結果を報告する。

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