ソーシャルワーク実践における成年後見制度の活用に関する基礎研究
-後見人等との連携・協働のための実践枠組みの検証-
○ 大阪市立大学大学院 鵜浦 直子 (会員番号5747)
大阪市立大学大学院 岩間 伸之 (会員番号1858)
キーワード: 《ソーシャルワーク》 《成年後見制度》 《連携・協働》
ソーシャルワーク実践における成年後見制度の活用は、単に後見開始等の審判の申立て支援をすることだけではない。
家庭裁判所から選任された後見人等が被後見人等である本人に対して効果的な後見活動を行うように働きかけていくことが
求められる。そのためには、後見人等との連携・協働によるソーシャルワーク実践が不可欠となる。
後見人等との連携・協働によるソーシャルワーク実践において大切なことは、ソーシャルワーカーと後見人等の持つ
各々の機能や役割に十分に配慮したうえで、連携・協働における役割分担を図っていくことである。とくに後見人等には
ソーシャルワーカーをはじめとする他の専門職にはない機能や役割を有している。こうした後見人等の機能や役割を効果的
に活用することで、クライエント本人の権利擁護はもちろんのこと、ソーシャルワークが本来もつ機能であるアドボカシー
の機能強化にもつなげていくことができる。
しかしながら、実際の実践現場をみると、ソーシャルワークと成年後見制度の機能や役割についての十分な整理や理解
がなされておらず、混乱が生じていることも少なくない。また、こうした視点でもってソーシャルワークと成年後見制度に
ついて取り上げた研究も十分には進められていない。
本研究は、ソーシャルワーク実践における成年後見制度の活用に関する基礎研究として、後見人等との連携・協働のた
めの実践枠組みを提示するとともに、連携・協働をめぐる実際の課題について検証するものである。
図1は、後見人等との連携・協働によるソーシャルワーク実践の全体像(全体枠組み)を示したものである。ソーシャル
ワーカー(A)及び後見人等(B)がそれぞれの役割や機能に基づき本人へ働きかけているなかで、ソーシャルワーカーが後見人
等と連携・協働しながら展開していく実践を矢印(C)で示している。
この矢印(C)に焦点を当てて、後見人等との連携・協働による実践枠組みを提示するとともに、連携・協働をめぐる実
際の課題について検証した。
研究方法は、民法や成年後見制度に関する文献等を用いた文献研究に加えて、後見人等との連携・協働による実践経験のあるソーシャルワーカーを対象にしたフォーカスグループインタビューによる調査を実施した。
調査を実施するにあたっては、関係者の承諾を得るとともに、十分にプライバシーに配慮した。また結果の公表にあ たっては、調査対象者・地域・団体等の匿名性が守られるように配慮した。
4.研 究 結 果1)後見人等との連携・協働による実践枠組み及びそのための視点の検討
文献研究では、後見人による後見事務に焦点を当てて、その事務の特性を分析し、後見人等との連携・協働による実践
枠組み及びそのための視点を明らかにした。
後見事務の特性として、①後見人以外の第三者では担うことのできない専有性の高い事務が多くあること、②原則、本
人が亡くなるまで後見事務は継続されることから、後見人は被後見人本人の生き方や人生と深く関わる存在にあるというこ
と、③身上配慮義務規定により、本人が望む生活を実現するための積極的な財産管理が期待されていることが明らかとなっ
た。
こうした特性を持つ後見人等との連携・協働による実践として、①本人を長期にわたって不利益な状況から守ることが
できる、②本人の心身や生活状況の変化に迅速かつ具体的に対応することができる、③本人の意向や希望を実現する可能性
を広げることができる、④本人の意向や希望を後見人と一緒に代弁することができる、⑤ソーシャルワーク本来の業務に専
念することができる、の5つの内容が明らかとなった。
2)後見人等との連携・協働による実践をめぐる課題の検証
フォーカスグループインタビューによる調査を実施し、後見人等との連携・協働による実践をめぐる実際の課題につい
ての検証を試みた。調査対象は、後見人等との連携・協働による実践経験のある5名のソーシャルワーカーとした。調査対
象の属性は、地域包括支援センターの社会福祉士、障害者の相談支援事業所の相談支援専門員、医療ソーシャルワーカーで
ある。調査は2009年1月に実施した。調査結果はコーディングとカテゴリー化により分析した。その結果は、次の4点に整
理できた。
(1)ソーシャルワークと成年後見制度の機能と役割の未分化が招く混乱
①両者の機能と役割に混乱がある後見人等との連携・協働は困難であること、②成年後見制度の申立支援をし、後見人
等が選任されると、その後の支援にかかわらないソーシャルワーカーがいること、③ひとりで抱え込む後見人等との連携・
協働は難しく、そのことが被後見人である本人に不利益をもたらしていることなどが明らかにされた。
(2)後見人等との連携・協働によってもたらされる波及的効果
①本人や家族だけでなく、地域や支援者も安心できるようになったこと、②後見人等と一緒に活動することで、地域の
人たちの意識が変わったこと、③本人の今後の生き方や人生のあり方に焦点を当てた援助に取り組めるようになったこと
などが示された。
(3)後見人等との連携・協働による実践上の葛藤
①本人保護と本人の意思尊重の間で後見人等と意見が食い違い悩むことがあること、②本人の望んでいない社会資源
の活用を後見人等に強制させられることもあるなどが明らかにされた。
(4)連携・協働に求められる技術・態度
連携・協働においてソーシャルワーカーに求められる技術・態度として、①本人の気持ちを代弁する技術、②後見人
等に権利侵害の気づきを促す技術、③本人の力に応じた支援を後見人等ができるように支援する技術などがあげられた。
そして、ソーシャルワーカーと後見人等の双方が両者の声に耳を傾け、お互いに協力し支援していく共通認識を持つこと
が大切であることが示された。
※本研究は、平成19~平成20年度科学研究費補助金基盤研究(C)の補助金を受けて実施した「ソーシャルワーク実践にお
ける成年後見制度の有効性に関する理論的研究」(研究代表者:岩間伸之)の一環として取り組んだ。