自由研究発表方法・技術5  畑 亮輔

ネットワーキング実践のプロセスに関する研究
-コミュニティソーシャルワーカーに対するインタビューを基に-

 ○ 大阪市立大学大学院後期博士課程  畑 亮輔 (会員番号6695)
大阪市立大学大学院後期博士課程  増田 和高(会員番号6310)
大阪市立大学大学院後期博士課程  朝野 英子(会員番号6314)
大阪市立大学大学院前期博士課程  豊川 美奈子(会員番号7558)
大阪市立大学大学院前期博士課程  裵 孝承(会員番号6310)
大阪市立大学大学院前期博士課程  金 銀静(会員番号7557)
大阪市立大学大学院  白澤 政和(会員番号769)
キーワード: 《ネットワーキング》 《コミュニティソーシャルワーカー》 《M-GTA》

1.研 究 目 的

 現代における様々な地域課題に対応するためには、専門職だけではなく、フォーマル・インフォーマル等、 多様な社会資源を含んだ広範にわたるネットワークが必要であるといえる。しかし、このようなネットワークの 必要性が指摘されているものの、ネットワーク構築のプロセスやその方法論については明らかにされていない。 このような現状において、地域に根ざして活動をしているソーシャルワーカーがネットワーキング実践に取り組 むにあたり、その指針となるマニュアル作りが早急な課題となっている。そこで本研究では、ネットワーキング 実践のマニュアル作りに向けて、ネットワーキング実践のプロセス、またその中で必要とされる専門職の実践等 を明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法

 調査対象者は、大阪府が定めるコミュニティソーシャルワーカー(以下、"CSW"とする)として就労している 者であり、事前アンケートにより、ネットワーキング実践の経験がある、あるいはネットワーキング実践に関心 があると回答した計11名に対しインタビューを行った。調査期間は2008年12月25日から2009年1月23日までである。 インタビューは先行研究・文献よりインタビューガイドを作成し、インタビューガイドに基づいた半構造化面接 を行った。インタビューはICレコーダーを使用して録音し、逐語録を作成した。分析はネットワーキング実践の プロセス、またその中で必要とされる専門職の実践や、その実践に影響を与える要因等に焦点をあてて、作成し た逐語録をもとにM-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)の手法を用いて行った。

3.倫理的配慮

 インタビューを行うにあたり、インタビュー対象者には、本研究の目的・主旨を説明するとともに、調査 協力は任意なものであること、対象者の個人を特定出来ないよう倫理的な配慮を行うことを説明した上で、同意 を得た。また、本研究の発表においても、インタビューに協力していただいた個人が特定できないよう倫理的な 配慮を行った。

4.研 究 結 果

 分析の結果、ネットワーキングに関する1つのコア・カテゴリーと、11のカテゴリー、37の概念を生成した。 その中で、CSWが関わっているネットワークには地域住民を巻き込んだ住民主体ネットワーク活動と、様々な地域 の課題に対応するための専門職のみで形成された専門職ネットワークという2パターンのネットワークが存在して いることが明らかになった。以下、カテゴリーを【】、概念を<>で示す。
  A.住民主体ネットワーク
  まずCSWは、住民主体ネットワーク構築にあたりに【地域に知ってもらう】ことと、【地域を知る】ための様々 な実践を行っていた。またCSWは、その実践の中で<地域との信頼関係の構築>するとともに、住民主体ネットワー ク活動のきっかけ作りのために<ネットワーク構築の啓発>を行っていることも示された。
  住民主体ネットワーク活動を継続するためには、<地域住民の主体的な意思>が必要不可欠であり、そのため CSWは<自発的な住民活動に対する側面的支援>や<住民活動の段階に応じた関わりの調整>といった【ネットワー ク推進のための専門職としての支援】により、住民の主体性を尊重してネットワーク活動を支援していた。このよ うな働きかけにより住民主体ネットワーク活動が定着した後は、<確立したネットワーク活動の拡充>や<確立し たネットワークをモデルとした他地域でのネットワーク展開>等、ネットワークを広げるために様々な実践を行って いることが示された。また、【住民主体ネットワークによる影響】として、<地域の要援護者の早期発見>や<住民 同士の結束の強化>等が示され、住民主体のネットワークが求められている効果を持っていることが明らかになった。
  B.専門職ネットワーク
  専門職ネットワークは、<個別ケースの対応・業務を通じた関係作り>から始まり、<地域福祉を推進するため の専門職間の連携>により確立されるプロセスが明らかになった。専門職ネットワークは、住民主体ネットワークに 比して多くのCSWが実践しており、比較的形成しやすいネットワークであると考えられる。
  さらにCSWは、地域全体を支えるために住民主体ネットワークと専門職ネットワークを連携させた地域全体のさま ざまな課題に対応するための地域福祉ネットワークの必要性を指摘しており、この地域福祉ネットワークの構築にあ たり、【住民主体ネットワークと専門職ネットワークの橋渡し】を行っていた。
  しかし、前述の通り専門職ネットワークの構築は、多くのCSWが実践していたが、住民主体ネットワークを構築 できている地域はまだ少ないという現状も明らかになった。地域に存在する様々な課題に対応するためには専門職 ネットワークだけでなく、住民主体ネットワークを構築し、それぞれのネットワークが相互補完することにより、 多様な地域課題に対応できる地域ネットワークとなり得るといえる。
  本研究では、ネットワーキング実践のプロセスを明らかにすることを目的とし、一定の道筋を示したといえる。 しかし、ネットワーキング実践のマニュアル作りの基礎資料となるような研究はまだ緒についたばかりであり、今後 さらに研究を進めていく必要がある。

   本研究は平成20年度文部科学省科学研究費補助金:基盤研究A(主任研究者:白澤政和)による研究成果の一部である。

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