自由研究発表方法・技術4  奥村 賢一

学校ソーシャルワーク実践におけるパワー交互作用モデルに関する研究
-学習支援活動を中心とした学校ケースマネジメント-

福岡市教育委員会 奥村 賢一 (会員番号6784)
キーワード: 《パワー交互作用モデル》 《学校ソーシャルワーク》 《学校ケースマネジメント》

1.研 究 目 的

 本研究は,学校ソーシャルワーク実践におけるパワー交互作用モデルの有効性について,学校ケースマネジ メントの手法を用いて支援を展開した複数事例の比較検討から明らかにしていくことを目的とする質的研究である.
  子どもたちの人権と教育及び発達を保障していく学校ソーシャルワークにおいて,子どもの「最善の利益」が主と して考慮されるものと明記されている「子どもの権利条約(以下,条約)」は最も重要な指針を示すものである.条約 には,子どもの「生きる権利」,「育つ権利」,「守られる権利」,「参加する権利」などが明記されており,スクー ルソーシャルワーカー(以下,SSWr)は,これらを拠りどころに学校・家庭・地域と協働して子ども達の支援を行う. そのなかにおいて「教育を受ける権利」も重要な一つであり,条約では,初等教育や中等教育での機会の平等などが示 されている.また,高等教育についても「すべての適当な方法により,能力に応じ,すべての者に対して高等教育を利 用する機会が与えられるものとする」としている.しかし,一部の子ども達はさまざまな家庭の事情により高校進学の 機会を得ることができず,中学卒業後は不安定な非正規雇用による就職などを余儀なくされている.その背景には,「 子どもが高校進学を希望しても,親がそれを認めない」,「親から家事や弟妹の世話などを任せられ,十分な家庭学習 の機会を与えてもらえない」,「親から最低限の学用品等を揃えてもらうことができない」など,家庭生活におけるさ まざまな問題が子どもの教育の機会を妨げる一因として存在している.そこには親から子に対する権威的・権力的な力 (パワー)関係が存在しており,このことが子どもの「状況改善の無力化」,「自尊心の低下」,「人間関係への不信 感」などを引き起こす要因となることが考えられる.
  そこで本研究では,人間の思いをパワー(=自己のニーズを充足するために他者や社会環境に働きかけていく能力) という概念で捉え,人間関係や社会環境の関係性に着目した門田(2000)の「パワー交互作用モデル」を基盤に据えて 学校ソーシャルワーク実践を行うことが有効であると考えた.また,良好なパワー交互作用を導き子どもの自己実現を 目指していくための手法として,学校ケースマネジメントを用いて支援を展開していく.

2.研究の視点および方法

 1)研究デザイン
   本研究では,質的調査法として個人あるいは一つの単位になっている人々の集団に対して適用することができる 研究デザインであり,それを取り巻く問題の諸要因の因果関係や社会状況の中での全体の関連性を明らかにし,それに ついて支援の時間的経過や変化を明らかにする方法として有効な研究方法である事例研究(case study)を行う.また ,学習支援活動を通じて対象生徒に実施したアンケート調査や半構造化面接記録については,KJ法A型を用いて対象生 徒の語りから状況改善に向けたパワーの変容過程を分析する.
   2)事例対象者
   某市A中学校に在籍する中学3年生のうち,高校進学を希望しながらも家庭におけるさまざまな事情により十分な 学習機会を得ることができていない生徒(4名)を対象とする。
   3)研究期間
   研究の対象期間は,X年7月下旬からX+1年3月までの約8ヶ月.
   4)支援方法
   本研究では,門田(2000)のパワー交互作用モデルを基盤に学校ケースマネジメントを展開していく.パワー交 互作用モデルでは,①アドボカシー活動,②グループワーク,③協働介入アプローチを中心的な支援方法としている.① アドボカシー活動では,個人や家族の権利や利益を保護するためのケースアドボカシーに重点を置く.②グループワーク では,夏休みから開始した学習支援活動を中心に取り組んでいく.③協働介入アプローチでは,学校(教師)・地域(学 生ボランティア,関係機関)と連携して支援を行う.
   学校ケースマネジメントでは,フォーマルサービスに限定した支援は行わず,インフォーマルネットワークなども 有効活用して主体者である子どもの自己実現を目指していく.

3.倫理的配慮

 本研究における対象生徒に関する個人情報の取り扱いについては,日本社会福祉学会が定める研究倫理指針に従っ た.また,個人が特定されないよう研修趣旨の範囲内で内容については一部加工を行った.

4.研 究 結 果

 パワー交互作用モデルを基盤にした学校ソーシャルワーク実践の結果,対象生徒である4名の高校受験が可能となり 全員が志望校に合格したことで支援の有効性が示された.
   また,目標(高校進学)への到達を促進する要因として,学力向上に加えて①生徒が個々に抱える課題(経済的困 窮,親の高校進学に対する無理解,家庭内不和等)の状況改善,②ストレングスの視点による肯定的フィードバック,③ 自己実現(高校合格)に向けたエンパワリング(empowering),以上の3点が良好なパワー交互作用をもたらす共通因子と して確認された.

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail:taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp