人と環境の相互作用に着目した精神障害者の就労をめぐる地域生活支援
- 支援ツールを活用したNPO法人活動を通じて -
関西福祉科学大学大学院 博士後期課程 御前 由美子 (会員番号7258)
キーワード: 《精神障害者》 《就労》 《ソーシャルワーク》
障害者自立支援法制定後、障害者の就労は、就労移行支援、就労継続支援ともに一般就労を目指した支援に焦点化
されるようになった。また、福祉的就労における賃金の低さから、平成19年度からは賃金底上げ戦略による賃金の向上が
目指されている。これらは、障害者の就労支援における自立概念が経済的自立を目指していることを表しているといえる。
しかし、疾病と障害の併存がある精神障害者の多くは、病気を再発させることなく地域生活を送ることを最優先にし
つつ、高賃金よりも生きがいのある仕事や普通のところで働きたいというニーズがある。このようなことから、精神障害
者は経済的自立のみではなく、生き生きとしたその人らしい地域生活のための就労を求めていることがうかがえる。
社会福祉の究極目標は、自立(律)である。そこで、精神障害者が実感のある地域生活を送ることを支援するために、
就労に焦点を当てたソーシャルワークによる支援方法の構築を目指し、本研究では、
(1)自立概念の再考
(2)精神障害者にとっての就労の意味
(3)支援ツールを活用したソーシャルワークによる精神障害者就労支援の実証的研究を目的としている。
本研究では、就労支援における人と環境の相互作用に着目し、以下のような手順で研究を行った。
(1)障害者政策と社会福祉における自立概念を整理する。
(2)先行研究、先行調査から、精神障害者にとっての就労の意味を整理する。
(3)環境のための就労場面であるNPO法人において、人に対する支援としての精神障害者就労支援ツールを活用し、
活動を通して事例研究を行う。
事例については、個人が特定されないように氏名、その他の個人情報に細心の注意を払う旨を利用者に説明し、了解 を得た上で用いた。
4.研 究 結 果 本研究において、以下のような結果が得られた。
(1)障害者政策において社会福祉政策の自立概念は、経済的自立に焦点が当てられているが、社会福祉理念におけるそれ
は、自立(律)であるため、社会福祉理念に基づく実践が必要である。
(2)一般就労が困難な精神障害者にとって、就労は目的ではなく地域生活を実感するための手段と捉え、支援すること
が必要であると考えられる。
(3)現在の就労概念は、一般就労に焦点が当てられているため、一般就労を目指した職業リハビリテーションによる支援
がなされているが、訓練のみではなく特性を引き出し、役割をもてるように支援することが重要である。
(4)そのためには人と環境の相互作用に着目し、生活を支援する活動であるソーシャルワークによる支援が必要であり、
人に対する支援としてのエコシステム構想における支援ツールの活用は、有効であると考えられる。
(5)一般就労が困難なために福祉的就労をせざるをえないという消極的な福祉的就労ではなく、選択肢の一つとしての積
極的な福祉的就労の場面を創り出すことも必要である。
今後は、以下を課題としたい。
(1)精神障害者の就労支援ツールを実践に用いた積み重ね
(2)精神障害者就労支援ツールの因子の検証、精緻化
(3)ソーシャルワークによる就労支援方法の構築
また、
(1)収益を一層向上させるための工夫
(2)地域住民を巻き込んでいく戦略
をNPO法人活動における課題としたい。