介護業界とニート・<ひきこもり>経験者の雇用のミスマッチに関する研究
聖徳大学短期大学部 檜垣 昌也 (会員番号4075)
キーワード: 《ニート》 《<ひきこもり>観》 《介護観》
介護福祉現場の離職率の高さや、就職希望者の現象は、ここ数年来指摘されてきたことである。われわれ介護福
祉職の養成校もその影響で希望学生の減少に悩んでいる。そのような状況下、いわゆる世界同時不況の影響で主に製造
業界での"派遣切り"や新卒者の内定取り消しなどが話題になり、日本社会は今、まさにこの問題に直面している。この
ような社会状況の中で取り上げられている、いわゆる"雇用のミスマッチ"に関しては、さまざまな言説がある。発表者
(檜垣昌也)はこの事項を「主に農業や介護現場と主に就労希望の製造業経験者とが"不適合"な状況であること」とし
て考える(もちろん本発表では介護現場に焦点を当てる)。
また発表者は、介護福祉士養成校での勤務の傍ら、支援者・研究者として、いわゆる<ひきこもり>やニート経験
者・当事者(以下便宜上「若年無業者」として表記する)と呼ばれる者たちに支援の場の提供と、他の現場のフィール
ドワークをおこなっている。
これまでの活動から感じることは、彼らは、就労に対して、まったく関心がないわけではない。しかし就労に至る
にはさまざまな障壁をかかえていることが見えてきた。
発表者と彼らとの関わりから、彼らの中に"介護"に対する興味・関心が少なからずあることもわかってきた。
1)研究の視点
介護分野の研究としては、介護現場における離職率の研究、介護職員のストレスに関する研究などがある。また発
表者は、介護職養成校の学生を対象に、専門職意識や、倫理的意識に関する研究をおこなってきた。
また、若年無業者に対する支援は、就労支援としてのニート対策、生活支援としての<ひきこもり>対策が、それ
ぞれ労働分野、精神保健福祉分野にて、実践を視野にいれた研究が多数なされている。しかし当該研究に関しては、現
在直面している問題であるだけに、研究成果として公開されているものは少ない。また、介護職現場に特化した、"雇用
のミスマッチ"に関する本研究の先進性・緊急性・重要性が提示でき、また、就労対象者として<ひきこもり>・ニート
といった、昨今若年無業者として、社会的に問題視されている者に絞ることで本研究はきわめて独創的な研究と考える。
2)研究の方法
調査対象は、①介護現場の就労担当者・研修担当者(デイサービス・訪問介護ステーション・特別養護老人ホーム
などの主要な介護施設を擁する団体)3名、②若年無業経験者で現在介護従事者、③若年無業者で介護職に関心が高い
者(就労・求職・研修・ボランティア経験有り)、④若年無業者で介護への関心が薄いものとして、居場所事業の参加
者やフィールドワークで知りえた者から、就労に対し、関心を示している者を対象者として選定(②~④で各1名)。
支援者側として、実際に訪問介護員2級等の就労支援をしている者や、生活支援の支援者を3名選定。
協力を得た対象者(各分野3名)への半構成面接による聞き取り調査にて、質的な把握に努めた。
調査対象は、介護現場の就労担当者・研修担当者(デイサービス・訪問介護ステーション・特別養護老人ホームな
どの主要な介護施設を擁する団体)3名を対象者として選定した。
本研究は当学会「研究倫理指針」G.25(学会で発表する場合は、その内容が時代の先端にあるか、独自性があるこ
との自覚のもとで行わなければならない)に相当する内容であり、<ひきこもり>支援の関係者にとっても、また、現
時点では施策を行なっていない福祉業界にとっても、一定の知見を提供し得ると考える。
いうまでもないが、本研究において「日本社会福祉学会研究倫理指針」の遵守を心掛けた。調査・インタビューに
際しては、B、C項の規定どおりに万全の体制を整え、調査対象者の理解の下に進めるべく慎重を期した。発表に臨むに
あたり、関係者との綿密な調整を心掛け、インタビューでの調査対象者の発言が各自治体の施策・サービスの円滑な施
行を妨げることにならないよう、ケースによっては匿名性をもたせているものもある。
得られた調査データから、次の事項が抽出できる。若年無業者からは、①本人の生き方・価値観等、②介護福祉
業務及び職場についての認識・希望等、③受けた支援の実態・課題、④就労を継続している理由や退職したり断念した
理由など)。介護施設関係者からは若年無業者への評価と課題(採用経験から得るものを含む)。支援者からは①介護
福祉業務及び職場についての認識・希望、②支援の実態と課題等、③若年無業者への評価と課題(支援から得るものを
含む)。
本研究が提示するデータは、今後、大規模な量的調査を行う場合の基本的なデータを示すことができるだろう。