自由研究発表方法・技術4  黒木 邦弘

認知症高齢者の社会関係の交差分析による量的・質的評価研究(1)
-「暮らしの行為者」の視点からの哲学的アプローチ-

 ○ 熊本学園大学 黒木 邦弘 (会員番号2757)
大分大学大学院  平塚 良子 (会員番号1140)
大分大学  橋本 美枝子 (会員番号2572)
西九州大学  滝口 真 (会員番号1862)
関西大学  窄山 太 (会員番号1499)

キーワード: 《認知症高齢者》 《エコマップ》 《社会関係》

1.研 究 目 的

 本研究は、認知症高齢者(当事者)の社会関係の性質を読み解くことにより、人間存在の実像に迫ることにある。 その基本的な仮説は、たとえ「ぼけ」を伴っていても、当事者たちは「暮らしの行為者」として、「語り」をもって生 きていることにある。
  具体的には、特別養護老人ホームや通所施設等を利用する認知症高齢者の「暮らし」という「生の過程」を「社会 関係の様態」として捉え、質的・量的評価を通じて認知症高齢者の医学モデル的人間観から「暮らしの行為者」モデル 的人間観への転換、ないしケアの質的向上に寄与することを目指す。
  本報告では、語りの60場面を捉え、これを「暮らしの中の語り」として位置づける。また、そこから見える本人なり の理屈、高齢者の主体性に関する基本的な特徴を明示することを試みる。この「暮らしの中の語り」は、認知症を伴って いても、当事者が主体として発し、安心して暮らしを構成する論理を読み解くことをさす。この読み解きにより、はじめ て、「暮らしの行為者」として生の過程を生きる認知症高齢者の実存に添い、応答するケアが成り立つと考える。

2.研究の視点および方法

 (1)研究の全体像・視点
  本研究では、認知症高齢者の「暮らし」が「人間:環境」という社会関係において成り立つという観点から、①認知 症高齢者本人(当事者)の発する「暮らしの中の語り」(暮らす行為)の分析を行い、利用者が多様な社会関係を生きる 様(さま)(生態)を表す図式、②エコマップ(ecological pictorial-map)と、③その評価尺度を用いた関係を分析する 方法をとる。すなわち、3つのタイプの分析方法を交差させることで、認知症高齢者の「暮らしの行為者」としての主体 的人間像が明らかになるとともに、同高齢者が結ぶ社会関係全体の性質がより鮮明になる。このことは前述のような人間 観の転換のみならず、認知症高齢者へのケア観の転換に結びつく。
  本報告では、特に認知症高齢者の「暮らす」という能動的な行為に着目し、非言語的メーッセージをも含む「暮らし の中の語り」を焦点化する。
  (2)研究方法
 1)調査対象とデータ(全体)
  調査先:入所施設・通所施設(福岡・佐賀・大分県下の5法人)
  調査数:30名       ※1名につき10場面(別に予備2場面)=300場面
  調査期間:6ヶ月(24週) ※一ヶ月当たり2場面
  データ作成者:ケアワーカーとソーシャルワーカーによる共同作成
  ①「フェイスシート」の作成:当該高齢者の基本情報である。入所・通所施設の型、性別、年齢、要介護度及び認知   症状、生活歴やADL及び意志疎通、経済的安定、家庭的安定、医療(病気)の有無、文化・娯楽、こだわり等を記入する。
  ②データ提供時のデータセット
  上記の基本情報とは別に、以下の三つのデータセットについて、現場と研究者・研究協力者のモニタリング方式により、   調査データの精査を行う工夫をしている。
  三つのデータセット:1「語りカード」、2エコマップ図、3エコマップ評価表
 2)今回の報告との関連性
  本報告では、第一次報告として、研究の経過状況を踏まえ、基本情報を活用しながら、30名の「語りカード」2場面、   計60場面から、認知症高齢者の「暮らしの中の語り」、「暮らしの行為者」像の抽出を試みる。

3.倫理的配慮

 本研究上の倫理的配慮については、日本社会福祉学会研究倫理指針に則り、事例を取り扱う。よって、研究協力者向 けの説明会では、事例提供時に匿名を依頼し、学会報告に際してその確認を行った。また、認知症高齢者を抱える家族向け には、研究目的等を記した文書を作成し、配布し調査協力への理解を求めた。

4.研 究 結 果

 本研究では、「暮らしの行為者」としての認知症高齢者の姿を認めることができ、かつ、本研究のケアへの活用可能 性を認めることができたが、それはあくまで語りの一部を取り出し、ある特徴を指摘するものである。30名の高齢者の多様 な場面の全数を分析しているわけではない。したがって、「暮らしの行為者」像の詳細な分析には至っていない。今後は、 ①語りの全数の分析結果、さらには②エコマップを基にした社会関係の性質の解明、さらには③これらのクロス結果を明示 することを課題としたい。

<詳細は、当日資料配布予定>

★本研究の協力者として、大隈ひとみ(大分大学)、下村恵美子(宅老所よりあい)、池上恭世(農協共済別府リハビリテ ーションセンター)、藤原有末(大分大学大学院生)がいる。
★なお、本研究は、(財)日本生命財団平成20年度高齢者実践的研究助成による。

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