自由研究発表方法・技術3  村社 卓

ケアマネジメント実践における介護支援専門員の業務特性研究(2)
 -「環境開拓」についての質的データ分析を中心に-

 ○ 岡山県立大学  村社 卓 (会員番号2119)
関西学院大学  大和 三重 (会員番号0258)
東海大学  小原 眞知子 (会員番号2601)
東海大学  西村 昌記 (会員番号4173)
関西学院大学  小西 加保留 (会員番号0983)
キーワード: 《介護支援専門員》 《業務特性》 《定性的(質的)コーディング》

1.研 究 目 的

 本研究は、ソーシャルワークの専門性の視点から、介護支援専門員の業務遂行に求められる能力についての研修ニーズを明確化し、 その職務に貢献できるものを取り入れた研修プログラムの開発を目的としている。
  そのために、ケアマネジメントの支援プロセスから抽出された33項目の業務をもとに、業務の困難度と重要度の関連性についての 基礎的分析およびケアマネジメント業務における自己評価に向けた多次元尺度開発のための予備的分析を行った。さらに、介護支 援専門員の研修に中心的に関わってきた実践者を対象とした定性的調査研究を行うことで、上記の予備的分析の結果をどのように 捉えるのか、どのような形で研修プログラム等に反映していくのか、についてより具体的に明らかにしている。
  本報告は、介護支援専門員の業務特性について、特に「環境開拓」の困難性に注目し、その実態について質的データ分析を行う ものである。介護支援専門員の業務特性を明らかにする本報告は、ソーシャルワークの専門性の視点からの介護支援専門員の研修プ ログラム開発に向けた基礎的作業である。

2.研究の視点および方法

 本研究では、定量的および定性的研究を併用して実施している。定性的研究は、定量的研究に先立ち,介護支援専門員の33項 目の業務内容を提示するために,また,定量的研究で得られた成果について、その内容を具体化するために用いられている。
  定性的調査研究は、定量的調査研究実施前の2007年7月に,また実施後の2008年11月および12月に、それぞれ介護支援専門員の 研修に中心的に関わってきた実践者を対象に、グループインタビューを行なった。データはテープ録音され、その後逐語記録化さ れた。分析方法は定性的コーディングを用いている。
  定性的コーディングの手続きは3段階に分けられる。①インタビュー調査等によって得られた原資料(インタビューの逐語記 録等)およびその文脈に関する情報から「定性的コード」(現場の言葉)を割り出す。②一般化を図るため「概念的カテゴリ ー」(理論の言葉)を生成する。③「概念的カテゴリー」を説明図式・分析モデルへと統合していく。この①から③の作業は   常に繰り返される。そして、定性的コーディングの作業では、「事例-コード・マトリックス」を使用している。

3.倫理的配慮

 本研究は、本学会の研究倫理指針に基づいている。特に、グループインタビュー調査については、研究目的・方法等を調査協力 者全員に説明し同意を得た。またその結果についても、調査協力者全員に確認してもらったうえで、発表の許可を得ている。

4.研 究 結 果

 「ケアマネジメント業務自己評価尺度」は、「環境開拓」「制度理解」「利用者受容」「ニーズ尊重」「情報活用」の5つの下位 次元から構成され、信頼性および妥当性をもつ尺度である。この5つの下位次元のうち、「環境開拓」の得点が他の次元と比べ著しく低 いことは、本研究の主題である「ソーシャルワークの専門性の視点」がケアマネジメント業務において、これまで十分に反映されてこ なかったことを示唆するものである。
  そして、グループインタビュー調査および質的(定性的)データ分析により、上記の「ケアマネジメント業務自己尺度」の妥当性 が確認され、さらに「環境開拓」が十分に展開できていない現状についても、具体的に明らかにすることができた。
  介護支援専門員の特徴は、「モチベーションの高さ」「給付管理の業務者」「マニュアル依存傾向」「アイデンティティの未確立」 「ニーズとアセスメントの分断」「質が問われない専門職」等であり、特に「環境開拓」の困難性に着目するならば、その業務特性は 次のように説明することができる。
  介護支援専門員の基礎資格は多様であり、彼らの多くは高いモチベーションでもってこの職種に就いている。しかし、介護支援専 門員は、給付管理中心といった「制度・法律」の影響を強く受けていることから、給付管理の業務者の位置づけに留まっている。さら に、業務上の制約の多さは、介護支援専門員を必然的にマニュアル依存傾向へと導いている。そのため、介護支援専門員は、専門職と してのアイデンティティが未確立な状態に置かれている。さらに、業務評価にみられるように、介護支援専門員に対してソーシャルワ ークの専門性が強く求められているとはいえない。したがって、「環境開拓」もその重要度の割には介護支援専門員にとって不得意な ままである。「環境開拓」の遂行は、それが必要とされる立場に介護支援専門員が置かれることや、介護支援専門員個人の資質による ところが大きいのである。
※ 本研究は,平成19年度厚生労働省老人保健健康増進等事業補助金、平成20年度文部科学省科学研究費補助金(研究代表者:白澤政 和)「ソーシャルワークの特性に関する実証的研究」の助成を受けて実施している。

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