介護支援専門員のチームアプローチに対する現状認識
○ 大阪市立大学大学院生活科学研究科前期博士課程 裵 孝承 (会員番号7556)
大阪市立大学大学院前期博士課程 豊川 美奈子(会員番号7558)
大阪市立大学大学院前期博士課程 金 銀静(会員番号7557)
大阪市立大学大学院前期博士課程 兪 秀娟((会員番号7555)
大阪市立大学大学院前期博士課程 畑 亮輔(会員番号6605)
大阪市立大学大学院前期博士課程 岡田 進一(会員番号1746)
大阪市立大学大学院前期博士課程 白澤 政和(会員番号0769)
キーワード: 《介護支援業務》 《チームアプローチ》 《現状認識》
近年、サービス利用者の課題やニーズを福祉・医療・介護などの専門職がチームで対応していくことの
重要性が指摘されている。しかし、現時点においては、チームアプローチの重要性の議論はなされているもの
の、実際には、チームごとでチームアプローチに対する認識に差があると言われている。先行研究においても、
チームアプローチの重要性を指摘している研究は多いが、介護支援専門員がチームアプローチについて、どのよ
うな現状認識をもっているのかについての調査を行った研究は数少ない。
そこで、本研究では、介護支援専門員のチームアプローチに対する現状認識についての構成要素を明らかに
し、その結果に基づいてチームアプローチを進めていく際の留意点を提言する。
調査対象者は、WAM-NETに登録されている大阪府下の居宅介護支援事業所400カ所を無作為に抽出し、そこに 所属する介護支援専門員400名と、WAM-NETに登録されている大阪府下の地域包括支援センター100カ所を無作為に 抽出し、そこに所属する介護支援専門員100名の合計500名とした。調査方法は、自記式質問紙による郵送調査とし、 調査期間は、平成21年1月14日から平成21年2月14日までであり、質問紙の回収率は54.4%(272票)であった。調査 項目は27項目を設定し、回答選択肢は「まったくそう思わない(1点)」から「とてもそう思う(5点)」の5段階リッカート スケールとした。また、回答選択肢に応じて1~5点を配点し、認識が高くなるほど得点が高くなるように設定した。調査 項目についてはエキスパートレビューにより内容妥当性を確認した。分析方法は、チームに対する現状認識の構成要素を 明らかにするために、因子分析(プロマックス回転を伴う主因子法)を行った。抽出された因子ごとに、内的一貫性 (信頼性)を確認するため、Cronbachのα係数を算出した。その結果、すべての因子で0.7以上の高い信頼性を確認した。 次に、抽出された因子ごとに平均得点(因子別得点の合計値を項目数で除した数値)を算出し、また、5因子間の関連を確認 するために相関分析を行った。
3.倫理的配慮本調査にあたっては、研究趣旨を説明する文章を依頼文に入れ、匿名性とプライバシーの保護を遵守すること、研究 目的以外で調査結果を利用しないことなどを明記して、調査票とあわせて調査対象者に郵送した。回収された調査票は、 すべてデータ化し、事業所および回答者の匿名性が確保されるように倫理的配慮を行った。
4.研 究 結 果 因子分析の結果、5つの因子が抽出された。第1因子を「チームメンバー間の役割の理解と相互信頼」、第2因子を「情
報共有の体制と方法」、第3因子を「カンファレンスにおけるコミュニケーション」、第4因子を「専門職の対等的な立場で
の協力」、第5因子を「所属機関でのチームアプローチに対する考え方」とそれぞれ解釈した。それぞれの平均点は、3.78点
(第1因子)、4.04点(第2因子)、3.73点(第3因子)、3.44点(第4因子)、2.90点(第5因子)であった。相関分析の結果、5因子間
に有意な関連が見られた(r=.387~.586,p<.001)。特に、「チームメンバー間の役割の理解と相互信頼(第1因子)」と「情
報共有の体制と方法(第2因子)」(r=.572,p<.001)、「カンファレンスにおけるコミュニケーション(第3因子)」(r=.568,p
<.001)、「専門職の対等な立場での協力(第4因子)」(r=.586,p<.001)、「所属機関でのチームアプローチに対する考え方
(第5因子)」との間にやや強い相関が見られた。また、「カンファレンスにおけるコミュニケーション」と「専門職の対等な立
場での協力」(r=.565,p<.001)との間でもやや強い相関が見られた。
本研究の結果から、チームアプローチを行っていく際には、介護支援専門員が「チームメンバー間の役割の理解と相互信
頼」についてよく理解し、その重要性を認識していることが重要であることが示された。そして、チームメンバーについ
ての理解や相互の信頼感を尊重していこうとする介護支援専門員の姿勢が「情報共有の体制と方法」、「カンファレンス
におけるコミュニケーション」、「専門職の対等的な立場での協力」、「所属機関でのチームアプローチに対する考え方」
などを促進していくことにつながることも明らかになった。さらに、福祉領域で強調されているパートナシップに関する
ことを介護支援専門員が意識することも、チームアプローチを行う上で必要となるカンファレンスにおけるコミュニケー
ションを促進させる要因となりうることが明らかとなった。
「所属機関でのチームアプローチに対する考え方」の平均値が他の因子より低かったことから、所属機関において
チームアプローチに対する理解が得られていないと感じている介護支援専門員が存在していると考えられる。このこ
とは、カンファレンスへの参加や情報の共有化などに時間を費やすといったチームアプローチを行うための基本的な活
動に対して、所属機関から理解を得ることの難しさを示していると同時に、介護支援専門員個人の業務努力だけでは、
チームアプローチを進めていくことができないことも示している。したがって、介護支援専門員が適切なチームアプロー
チに行っていくためには、チームアプローチに関して所属機関の理解が得られやすくなるように、カンファレンスの参加
などについて配慮がなされるような介護支援業務に対する介護報酬の見直しが必要であると考えられる。なお、本研究は、
平成20年度学術振興会科学研究費:基礎研究(A)(代表研究者:白澤政和・分担研究者:岡田進一)の研究の一部である。