在宅要介護高齢者End-of-life Care実践における生活情報のビジュアル化
と支援技術の意義
-エコシステム
構想を活用した在宅要介護高齢者End-of-life Care実践事例-
○ 中部学院大学大学院 松久 宗丙 (会員番号6214)
同朋大学 小榮住 まゆ子 (会員番号6307)
同朋大学 安井 理夫 (会員番号4944)
関西福祉科学大学 太田 義弘 (会員番号0010)
キーワード: 《エコシステム構想》 《End-of-life Care》 《生活情報のビジュアル化と支援技術》
「最期にありがとうと言って逝けること」を支援するために、支援者の「勘や経験」は重要であるが、その最期という
生活状況を理解し、共有できる方法を開発する必要がある。
そこで本研究は、エコシステム構想を活用し、(a) 最期を
構成する生活情報のビジュアル化、(b) それらを用いた支援技術の展開を目的に、在宅要介護高齢者へのソーシャルワーク
実践としてEnd-of-life Careに焦点化した考察を行なう。
本研究では、高齢者版エコスキャナーを用いることとし、先行研究から、以下の各5つの仮説にもとづき、その意図を具
体化する方法で支援技術の意義を考察したい。
生活情報のビジュアル化の意義
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Ⅰ-①エコシステム構想にもとづき、高齢者の最期を構成する固有な生活コスモスをとらえる枠組みがアプローチに生かせること(共通の視野と発想)。
Ⅰ-②高齢者の生活をビジュアル化することで、生活をコスモスとして多角的、動的に把握でき、共通理解が促進されること(共有)。
Ⅰ-③高齢者とともに最期の具体的な生活課題を考えることが可能になること(協働)。
Ⅰ-④それらを高齢者自身の実感と照合することによって、目標や支援内容の考察へと展開できること(実感との照合)。
Ⅰ-⑤説明が可能な具体的な支援活動の展開によって、高齢者の低迷しがちな士気が高まり、支援プロセスを通して、生きがいある生活が実感できること(自己実現)。
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Ⅱ-①他者に依存しがちな高齢者に対して、支援計画や支援内容に積極的に関心や課題意識をもってもらうことが可能であること。
Ⅱ-②利用者を中心とした支援コミュニケーションを通じて、主観的な現実と客観的データが照合され、ゆるぎない実感へと変容する体験過程の促進が可能になること。
Ⅱ-③体験に基づいて形成された気づきや実感を、実生活にフィードバックすることで新たな生活への意欲や価値が創造されること。
Ⅱ-④創造された価値から、新たな視野や発想で自らや生活課題、支援内容といった現実やとりまく環境(制度・政策、社会の価値観、 サービス内容)を問い直す(見つめ直す、とらえ直す)ことができること。
Ⅱ-⑤他者とのつながりや自己の生活コスモスを実感として体験することから、主体的に支援展開に参加でき、課題解決・自己実現へと協働することが可能になること。
3.倫理的配慮
日本社会福祉学会研究倫理指針にもとづき、本事例における個人名や施設名は、アルファベット表記や仮名とし、個人が特定できないように配慮している。
4.研 究 結 果在宅要介護高齢者End-of-life Care実践における生活情報のビジュアル化の意義
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・実践支援ツールを用いることで、普遍的な視野(枠ぐみ)で高齢者の固有な生活コスモス情報を分析できる。一方で、意識が曖昧になっていく局面において、
高齢者の参加と協働が次第に困難になり、高齢者の生活をコスモスとして多角的、動的に把握できるのは、ソーシャルワーカーであって、
高齢者との共通理解が促進されているとは必ずしもいえない。(Ⅰ-①、②)
・したがって、意識が曖昧になった場合に備えて、あらかじめ意識が明晰な状態のときに、支援ツールを用いて生活情報をビジュアル化し、 高齢者とともに具体的な生活課題を抽出、ならびに目標や支援内容を設定しておくことで、引き続き、家族の意向をも包括して支援を継続す ることが可能になると考えられる。(Ⅰ-③、④、⑤)
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・意識が曖昧になった場合、支援計画や支援内容の関心や課題意識について、高齢者本人の考えを表出すること、変容する体験過程を実感すること、
その実感をフィードバックすることは困難であったが、家族の生活には、その実効が反映されている。(Ⅱ-①、②、③)
・意識が曖昧になった場合、創造された価値から、新たな視野や発想で自らや生活課題、支援内容といった現実やとりまく環境(制度・政策、社会 の価値観、サービス内容)を問い直す(見つめ直す、とらえ直す)こと、さらに他者とのつながりや自己の生活コスモスを実感として体験することから、 主体的に支援展開に参加し協働することで課題解決・自己実現への過程を歩むことも困難であったが、家族の生活には波及効果が現れて いる。(Ⅱ-④、⑤)
終末の高齢者は、コミュニケーションに支障をきたすことが少なくないため、本人の参加と協働という価値の実現が困難となる場合
が少なくない。したがって、高齢者自身が、意識が曖昧になり、意思決定が困難になっていくという状況を受け止め、そうなった場合の
支援の方法について考えることがまず必要であろう。さらに、これまでの支援の経緯から、ビジュアル化されたデータをもとにして、そ
れらと家族の意向を包括した支援の展開方法を開発することも必要である。
今後の課題として、高齢者のみならず、家族も包括したEnd-of-life Care実践支援ツールを開発する必要があるとともに、エコシ
ステム構想を敷衍し、他(多)職種連携での地域生活支援体制を構築する必要があると考えられる。