自由研究発表方法・技術2  塩田 祥子

わが国におけるピアスーパービジョンのあり方に関する研究

○ 梅花女子大学(非常勤)  塩田 祥子 (会員番号3523)
 植田 寿之 (会員番号3222)
キーワード: 《ピアスーパービジョン》 《仲間》 《支持的》

1.研 究 目 的

 わが国では、福祉現場におけるスーパービジョンの必要性が強く求められているにもかかわらず、時間がない、スーパー バイザーになり得る人材がいない等、さまざまな理由が重なり、スーパービジョンが定着しない現実がある。利用者を支える ワーカーもまた、支えられるべき存在である。上司による個別スーパービジョンの定着化を求めると同時に、共に働く同僚間 のスーパービジョン、ピアスーパービジョンの定着化が求められる。スーパーバイザーがいないからスーパービジョンができ ないとあきらめるのではなく、今ある資源で可能なスーパービジョンを考えるのである。スーパービジョンを受けた経験が多 くない中で、より効果的なピアスーパービジョンを求めることは容易いことではない。しかし、ワーカーの多くが安心して思 いを吐露できる場(存在)を求めており、支えられる必要性を感じている。仲間同士で支えることの意義を感じる。
 わ が国においては、日常的に行われているケース・カンファレンスや、職場、職種を超えた事例検討会をピアスーパービジョン と呼ぶことが多い。その実態は、スーパービジョンを意識しての実践なのか、また、仲間同士がどれだけ支え合いができている かは定かではない。いわば、手探り状態でピアスーパービジョンを勧めている感がある。
 そもそも、ピアスーパービジョン とはどのようなものか。そして、仲間であることの長所と短所はどういったことがあげられるのか。どのような条件が整えば、 実践のためのピアスーパービジョンといえるのか。単純に、集うもの同士が同僚、仲間だから、それがピアスーパービジョンで あると括るのではなく、集うもの同士が、ピアスーパービジョンが成り立つ共通基盤をふまえ、あるべき方向性を見出していく ことが必要と考える。
 そこで本報告では、「ピアスーパービジョンとは何か」という原点となる問いかけから、ピアスー パービジョンの定義についての考察、さらには、ピアスーパービジョンの機能、逆機能についての考察を行い、わが国の実践に 生きるピアスーパービジョンのあり方について追究していく。

2.研究の視点および方法

 わが国の福祉現場の実情に即したピアスーパービジョンのあり方について考える。
 ①日米の先行研修を中心にピアス ーパービジョンの定義についての比較検討、②ピアスーパービジョンの機能、逆機能についての検討、③ピアスーパービジョン の研修実態状況について考察した上で、③それぞれの現場独自のピアスーパービジョンを展開していくための条件、方法を導き 出す。"手探り状態"のピアスーパービジョンから、実践に生きる(反映される)ピアスーパービジョンのあり方を導き出すもの である。

3.倫理的配慮

本報告は文献研究によって行う。特に文献引用の際には、自説と他説を峻別することに注意を払った。

4.研 究 結 果

①ピアスーパービジョンの定義
 さまざまな文献の中で定義にばらつきがあった。そもそも、何をもって"ピア"とするの かという定義がされていない。共通して言えることは、個別スーパービジョン(あるいはスーパービジョン体験)が前提にあって のピアスーパービジョンであり、支持的な雰囲気の形成である。わが国の実践現場の実情に応じたピアスーパービジョンのあり方 を提示する必要性を感じる。
 ②ピアスーパービジョンの意義と課題
 ピアスーパービジョンは、メンバーの実践経験を 相互に試し、相互に評価し合い、新しく得た知識を伝え合い、さらにはバーンアウトを防ぐという点において評価できる。スーパ ーバイザーが存在しないからこその自発性、自由度、責任は、メンバーの成長につながり、それがまた個々の成長につながる。そ のためには、相互の尊重や尊敬があってこそ成り立つものであり、集団の目的を共有し、協同して達成しようとする雰囲気が前提 になる。
 しかし、そうした前提がうまく成り立たない場合があることは否めない。グループにおけるリーダーシップや統制 において、競争心、防衛や衝突が繰り返されることが懸念される。また、快くグループに参加しないメンバーがいたり、相互に価 値を低めることもある。これらは、ピアスーパービジョンの逆機能といえる。こうした逆機能をいかに克服していくかということ が、ピアスーパービジョンを成り立たせる大きな課題である。
 ③ピアスーパービジョンが成り立つ条件
 ピアスーパー ビジョンの逆機能を克服し、よりグループとしての凝集性を高めるためにも、司会の役割に代表される"グループワーカーの存在" が必要となる。グループワークの専門技術を備えた人材が意識してグループの力を活用していくのである。そういった人材が不足 している場合は、グループワーカー用のマニュアルを提示するなり、輪番制にするなり、グループの力に合わせた実践が求められ る。
 さらに、支持的な雰囲気作りを個々が意識してつくり出していくことが求められる。理想的には、すべてのメンバーが 支持的な体験の経験者であればよい。それが望めない現実があれば、支持的体験の経験者が率先して、支持的な雰囲気を提供する。 グループワーカーがメンバーに支持的な雰囲気を提供することができれば、メンバーは支持的な体験をし、身につけることができ る。課題としては、グループごとの支持的な体験をしているメンバーの数のばらつきや支持的な体験をしたと思いこんでいるメン バーの勇み足である。
 何をもって支持的とするのか、支持的体験とはどう言ったことかを日頃の経験の中から常に意識する 必要性を感じるし、支持的体験がピアスーパービジョンにおけるメンバー間に浸透すれば、自ずと実践における援助関係にも反映 してくるものと思われる。
 スーパーバイザーではなく、仲間からの支持的体験が実際の援助関係にいかに反映していくか、 今後検討していく必要がある。そのためにも、ピア(仲間、同僚)の持つ力の独自性を提示していく必要がある。

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