自由研究発表方法・技術2  加藤 由衣

ソーシャルワークにおける現任教育の特徴(2)
 -研修とスーパービジョンの教育特性をふまえた教育方法 への視点-

京都府立大学大学院  加藤 由衣 (会員番号6935)
キーワード: 《研修》 《スーパービジョン》 《エコシステム》

1.研 究 目 的

 実践者の教育の現状は、大学等で行われるソーシャルワーク養成教育に対して、研修やスーパービジョンなど多様な 実施状況がみられる。しかし、その多様な実施の一方で、研究は、個別な実践の分析が中心で体系化されていないのが現状で、 そこに実践者教育の大きな問題がある。そこで、この問題意識のもと、ソーシャルワーク現任教育の研究を体系的に行うこと を意識しながら進めてきた。具体的には、まず、日本社会福祉学会 第56回全国大会 自由研究報告『ソーシャルワークにおけ る現任教育の特徴(1)-富山県3団体合同研修でのアンケート調査の分析から-』で、実践者への意識調査を実施し、その分 析・考察からソーシャルワーク現任教育の根底にある意味を明確にしてきた。特にその調査における考察では、①実践と不可 分の関係にある教育、②ソーシャルワークの実践特性と関連した教育、③実践の振り返りとしての教育、④情報の獲得から活 用への教育、が現任教育の特徴として明らかになった。
 このような現任教育の特徴をふまえると、次に、現任教育が具 体的にどのように展開され、ソーシャルワーカーの実践にいかなる効果をもたらすかを検討していくことは、体系的研究を進 めていくうえで大きな意義がある。そこで本報告では、現任教育の展開とソーシャルワーク実践への効果との関係を明確にす るために、現任教育の基礎となる教育特性とそこから見いだされた視点を整理し、現任教育の教育特性を実践に結びつける教 育方法について検討した。

2.研究の視点および方法

 まず、本研究では、現任教育のなかでも研修とスーパービジョンに焦点化し、先行研究からそれぞれの教育特性の整理を 行った。この2つの方法に特化する理由は、研修が実施頻度や多様なプログラムの設定という側面からソーシャルワーカーに とって身近な教育方法であることと、スーパービジョンがソーシャルワーク実践の過程展開を意識した教育で教育成果が実践に 反映されやすことにある。そのため、研修とスーパービジョンを、①目的、②焦点、③展開、④教育効果、から検討し、現任教 育の特徴や基盤となる要素を考察していった。また、そこから指摘できた現任教育の基盤をもとにしたソーシャルワーク教育の 考え方と、養成教育との比較考察をとおして、現任教育方法の構築にむけた発想や課題の整理を行った。

3.倫理的配慮

 本研究は日本社会福祉学会の定める「研究倫理指針」に基づき行った。また、本研究は文献研究が中心であり、報告にお ける文献の引用等の際には、著者名・出版年・文献・出版社・引用箇所を明示した。

4.研 究 結 果

 研究成果は、以下のとおり2つに分けて整理した。
 (1)研修とスーパービジョンにみられる教育特性
  まず①目 的をみると、研修では新たな情報や知識を獲得することとそれらを実践に活用していく能力を身につけることを重視している点、 スーパービジョンでは直接的な実践課題をとおして学ぶ点が、特徴であった。次に②焦点をみると、研修の焦点は研修主催者に よる参加者全体で共有する課題の提示にあった。一方でスーパービジョンの焦点は、スーパーバイジーの個別課題にあった。ま た③展開から、研修では演習を中心に事例検討などで支援場面を体験し、他者との意見交換から新しい発想や思考を生む効果が 期待できた。対するスーパービジョンは、過程展開をとおして成果を直接実践に反映させていく点が特徴であった。そして④教 育効果は、①~③の特性をふまえて整理を行った。その結果、研修では想像力や創造力、開発力、応用力などの向上につながり、 スーパービジョンは課題解決力や実践展開力の向上につながると整理できた。
  このように、研修とスーパービジョンの教 育特性の比較検討からは、両者がそれぞれ特徴的な要素を有していることが理解できた。そして、それらが相互に補完されるこ とが、現任教育の効果を高めることにつながると考えられる。そこで、この両者の特性を融合した現任教育の基盤の構築が必要 であると考えている。また、この展開特性の整理からは、エコシステム理解と結びついた現任教育の重要性も指摘できた。
  (2)エコシステム理解 への教育方法
   エコシステム理解を視野に入れた現任教育は、教育成果を実践に反映する展開が不可欠である。それこそが ソーシャルワーク実践と結びつく教育方法の構築につながっていくと考えられる。そして、この教育方法の構築の課題としては、 教育成果のフィードバックをも含めた現任教育を、一連の過程として位置づける視点を明確にすることがあげられる。
  ま た、利用者の生活エコシステムの理解では、利用者の生きざまをありのまま認識しようとする実存的姿勢の強調が理解できた。 こうした利用者の実存性に立脚した現任教育には、養成教育に比べ、ディシプリン志向の考え方や専門的知識・技術を利用者の 固有な生活支援に反映させる創造性を重視する教育方法が求められる。そして、この創造性を高める場としてのワークショップ の方法・展開が、ソーシャルワーク現任教育の方法構築への発想に導入可能であり、この点について深化させていくことが今後 の課題と考えている。

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