自由研究発表歴史2  浅井 純二

医療生活協同組合組織化と地域福祉実践
-伊勢湾台風被災地の名古屋市南区南部の事例から-

日本福祉大学  浅井 純二 (会員番号6774)
キーワード: 《地域福祉》 《医療生協》 《被災地》

1.研 究 目 的

伊勢湾台風の社会的背景をふまえ,被災地である名古屋市南区南部地域における医療生協の災害発災期から約2年間の 創立経過をたどり,被災住民と災害救援者がどのように相互の信頼関係を築いたのかを確認することである.そして,その 地域福祉実践が歴史的には地域福祉の源流の位置にあることを示すことである.

2.研究の視点および方法

過去の被災から今日の教訓を引き出す研究は,近年において注目されている研究方法であり、地域福祉実践を被災との 関連でとらえる点も新しい研究視点である。研究課題は,第1に,地域の特徴や社会的な背景をふまえ,医療を中心とした 救援活動の経過を明らかにすること.第2に,南医療生活協同組合(以下 南医療生協と表す)がどのような基盤にたって, どのような経過で創立されたのかを明らかにすること.第3に,以上の経過を地域福祉実践として考察し,地域福祉の源流 として歴史的な位置づけを示すこと,の3点である.研究方法は,第1は,救援活動に参加した団体に関する文献資料調査, 第2は南医療生協の創立期の文献資料調査である.これらを基に,活動経過,人的交流関係を分析する.特に,南医療生協 創立期は,1次資料をもとにして,医療生協活動発起人・設立賛成者等を分析する.

3.倫理的配慮

研究に1次資料を使用しており、報告は個人プライバシィ及び研究倫理に配慮して行う。

4.研 究 結 果

伊勢湾台風(1959年9月)は、死者は約5,000人,負傷者約40,000人の人的被害があった大きな災害である。この災害救援 活動に281,740人が参加し、学生の活動が顕著である。医療救援の面では、全国の医療生協が関わり、南医療生協の創立に関 わる人々もその中にあった。
  医療救援活動を行った保険医協会は9月28日に役員が協議し,当日から活動を開始し,受診者は70名であった.東京全日 本民主医療機関連合会(以下 民医連と略す)の応援で,10月2日から活動を2班にわけた.この時点から愛知県民主団体災害 救援委員会の活動に民医連の活動が合流した.4つ拠点をおいて,最大の被災地域である南区H地区などで医療救援活動を 展開している.南区H地区は大阪,南区D地区は東京,港区は京都の各民医連が担った. 4614人(1日平均122人)が治療を 受けている.この全国的な救援活動は11月10日をもって地元に引き継ぎ、避難所が閉鎖されるのを受ける形で,医療班の活 動も 12月6日をもって停止した.
  救援活動が一段落すると,地域医療の拠点建設に活動の中心を変えた.活動によって得られた設立賛成者300余名の方の 住所は,南区が約91%(地元対象地域はその94%)を占めており、設立賛成者全体でも86%を占め,地元に密着して組織化され ている。仮設住宅でも、その居住世帯のおよそ10%の賛成者を得ている。
  医療生協の活動は、自由に医療にかかれない人々のニーズなどが反映され、創立から約2年間の患者数は、月患者平均 数が40名から100名へと前進している.実践では,疾病をしっかり治して仕事に就く,そのために必要な費用がなければ社会 保障で負担という,社会保障制度を活用するソーシャルワークが展開されている.
  このような動きは,地域で自然発生的に起こった訳ではなく,地域の外からの働きかけによって,住民の主体的な力が 顕在化した.そこには,2つの力の存在が考えられる.
  1つは,医療従事者やその支援者がセツルメント活動として,この地域で医療活動を行なっていたことが伏線にある. このような地域とのつながりが,伊勢湾台風での医療救援活動に生きた。もう1つの力は,地域でのソーシャルアクション である.中心的役割を担った後の理事長Fは、活動開始時は30歳代前半で,組織者の経歴をもち,職業は自営であった.居 宅を南区へ変え,医療生協の理念・理想とそれを具体化する計画を具体的に住民に示し,熱心に働きかけた.医療従事者の 確保や資金確保など困難な役割も担った.
  これらを地域福祉実践として整理すると、生活問題・地域課題の顕在が組織者を介在していること.この地域での地域 福祉実践は,「住民の福祉活動を含む生活の共同化・社会化」として捉え,地域を外から操作し,内発的にあらたな質の地 域社会が形成された実践と捉える事ができる.地域福祉の要素である「主体」を意識した活動よりも,「命と暮らし」を守 るソーシャルアクションが際だっている.発展系譜からみれば,その意味で,地域福祉の要素を内包した,地域福祉の源流 の位置にあると考えられる.
  南医療生協組織化は,医療要求をもつ当事者運動であり,「地域・組合員」の変容が示されている.活動は、先駆性・ 開拓性・創意性・人権性を示している。このような活動を「政治活動」と受け止めるコンフリクトがあった.これは,社会 福祉の様々な分野の活動によって制度が確立するという時代の制約のためである。そして,南医療生協が発展していくため の課題であり,社会が成熟し進展するために克服する課題でもある.
  研究上の課題は、1つには,1次資料収集の範囲が限定的で、特定の資料に依拠しており一面的をもつと考えられる. 2つには,同一時期に活動する港医療生協と比較し,南医療生協の特徴を示すこと.また,同一地域で災害救援活動を行い ,同じ地域に建設された名古屋キリスト教社会館の活動と比較し,この地域の地域福祉の豊かさを示すことにある.
  伊勢湾台風被災50年目を迎え,災害を防ぎ,安心で安全な地域社会の確立が求められている.「日常的な共助,コミュ ニティ形成」活動に貢献できるよう研究を深める.

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