自由研究発表歴史2  宮本 教代

昭和20年代から40年代の小規模自治体における保健福祉活動について
-長野県の保健婦の活動を調査して-

○ 四天王寺大学大学院   宮本 教代 (会員番号7341)
四天王寺大学大学院   和田 謙一郎 (会員番号2672)
キーワード: 《地域性》 《小規模自治体》 《保健婦助産婦看護婦法(保健師助産師看護師法)》

1.研 究 目 的

戦後に著しくなる核家族化の進展は、家族主義的な高齢者の扶養の基盤を揺るがせ、高齢者の生活の不安定化をもたらした。 このような高齢者を取り巻く社会状況の変化と、長野県における在宅生活を支援する「家庭養護婦派遣事業」の取り組み、また 老人クラブの活動などから、高齢者の社会的援助を一般対策として行うための法制化に関心が高まっていき、1963(昭和38)年 に「老人福祉法」が制定され、高齢者を対象とした支援制度が形成されることになった。
  長野県において現在の訪問介護制度の前身である「家庭養護婦派遣事業」が、老人福祉法制定以前に始まったことは注目に 値する。この家庭養護婦派遣事業は、1956(昭和31)年に長野県が「長野県家庭養護婦派遣補助要綱」を告示し、わが国で初め てのホームヘルプ事業として実施された。やがて、この事業は各地に広がり、老人福祉法において「家庭奉仕員派遣事業」とし て国の制度となった。
  このような法形成過程において、専門職や地域住民の働きは大きいと考えられるが、福祉専門職の存在が充実していなかっ た当時の時代背景から、保健婦(現保健師 以下同様)の活動が地域住民に何らかの影響を与えたのではないかと推察し、研究 を試みた。
  この研究では、高齢者訪問介護サービス事業に関わった経験から、過去における事実が現在における何らかの示唆になると 考え、その原点といえる老人福祉法が制定された昭和30年代を中心として、昭和20年代から40年代の長野県における高齢者の保 健福祉活動の動向を明らかにすることを目的としている。そして、当時の状況を検証し、今後の地域に相対化して考察を行いた い。

2.研究の視点および方法

上記のような法形成過程において、福祉専門職の存在が充実していなかった当時の時代背景から、保健婦の活動が地域住民 に何らかの影響を与えたのではないかと推察していることについては前述したとおりである。
  公的機関等にも協力の依頼をし、長野県の二か所の地域において、当時保健婦として地域住民を見守ったという実在の人物 やその周辺の関係者を捜し、聞き取り調査を行った。さらに、公共機関に所蔵されている資料収集を行った。
  これらの聞き取り調査の結果や資料の分析によって、前述の研究目的を達成する。

3.倫理的配慮

個人に対する聞き取り調査であるため、個人情報を本研究以外には使用せず、適切に取り扱うことを伝え、承諾を得ている。

4.研 究 結 果

2008(平成20)年から、当時実際に活動をしていた実在の人物やその関係者に聞き取り調査を開始し、保健婦の活動が根付 いていたことが実証できた。今回、二人の保健婦から聞き取り調査を行った結果、保健婦の活動した年代や地域によって、地域 住民の福祉ニーズや社会資源、地域の特徴は異なっていたが、特に保健婦の専門職としての意識に違いがあることが鮮明になっ た。この意識の違いが、活動内容の相違に作用したと考えられる。
  では、その意識の相違はどのように生じたのであろうか。それは、保健婦資格を取得した過程が大きく影響したといえる。 1948(昭和23)年に現在の看護制度を樹立することとなる「保健婦助産婦看護婦法」(新法)以前の旧法令のひとつである「保 健婦規則」による保健婦資格取得であるか、新法の「保健婦助産婦看護婦法」による保健婦資格取得であるか、といえる。
  1942(昭和17)年に「保健婦規則」により保健婦の資格を取得したA保健婦は1945(昭和20)年にX村の保健婦として就職。 一方、「保健婦助産婦看護婦法」により保健婦の資格を取得したB保健婦は1959(昭和34)年Y市に入職している。
  保健婦規則と保健婦助産婦看護婦法の内容には大きな違いがある。都道府県試験による都道府県知事免許か国家試験による 厚生大臣免許かの免許制度の違い。基礎資格の基準の違い。新法は看護を専門職業とし、医療の一端を担う重要な職業と定めた うえで、看護とは生命を守り育てることであり、医療と看護の関係は、患者・診療・看護は一直線上に存在するのではなく、三 者が相互に作用・協力し目的を達するものとする二つの思想の上に法律が制定され、専門職の養成が行われていった(金子光『 改訂第46版保健婦助産婦看護婦法の解説』日本醫事新報社、1990.23頁~28頁)。このことは例えば、結核患者や高齢者に対する 対応の違いにみられた。一方は「保健指導」を主とし、他方は「看護」や「介護」を意識しながら自らも実践活動を行ったので ある。
  また、人口や人口密度の違い、地理的に開放的か閉鎖的な地域か等の諸条件に地域性の違いがあり、意識や活動に影響を及 ぼした。日本有数の豪雪地帯であるがその積雪の程度の違いは移動にも影響を及ぼしている。しかし、その時代の限られた社会 資源の活用という観点からすると、両者に差異はない。
  これらの活動をとおして、当時の専門職は地域住民に安心を感じさせてきた。現行「保健師助産師看護師法」等の下での専 門職はそれらの役割を十分認識し、地域住民が安心できる生活を見守るための保健福祉活動を実践する必要がある。研究結果と して、そのための価値ある先例と結論づけた。

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