自由研究発表歴史1  菊池 義昭

岡山孤児院の里預制における全里親のタイプ別実態の分析(2)
-専門的な里親の形成過程の基盤を探るために-

○ 東洋大学  菊池 義昭 (会員番号0095)
江戸川大学総合福祉専門学校  田谷 幸子 (会員番号7045)
キーワード: 《岡山孤児院》 《里預制》 《専門里親》

1.研 究 目 的

筆者等は、岡山孤児院の養護実践の体系化の形成過程を分析する一環として、同院の里預制の歴史的意義を検討 している。岡山孤児院の里預制の役割や意義を検討する基礎作業として、今回は約20年間の里預制における里親の地域 分布に着目し、地域において「専門的な里親を形成する基盤」が存在したかどうかを分析してみることにする。

2.研究の視点および方法

本研究では、下記の『里預児台帳』に全里預児と全里親の個別情報がほぼ記載されている可能性が高いと判断し、 これらの『里預児台帳』を分析することにより、全里預児と全里親の動向を確認することができると理解した。
 (1) 『明治三十九年十月 里預児台帳 岡山孤児院』
 (2) 『明治四十年 各村別里預児台帳 養育部』
 (3) 『明治四十一年一月改 各村別里預児台帳 養育部』
 (4) 『明治四十三年一月改 各村別里預児台帳 岡山孤児院』
 (5) 『大正二年一月 里預児台帳 養育部』
  なお、これらの『里預児台帳』には二重記載等が一部にあり、各『里預児台帳』の情報の整理にあたっては種々 配慮すべき点が多く、他の資料の記載内容と比較検討しながら行った。現時点においても、他の資料との比較検討を 継続して行っているところである。
  全里親の地域的な養育状況の変遷と特徴を分析する視点は、以下のとおりである。
  ① 里預児の里預けされた地域分布の分析
  ② 里預児の里預けされた地域別の期間の分析
  ③ 地区(大字)における里親の分布状況の分析
  ④ 地区(大字)における里親の里預児受け入れ状況と受け入れ期間の分析
  ⑤ 地域における里親の養育変遷と特徴の分析
  これらの視点から、上記の『里預児台帳』の内容を分析し、里親の地域的特徴などから専門里親が形成される基盤 が存在する可能性を探っていくこととした。

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会の「研究倫理指針」を基に、以下の倫理的配慮を行った。
  ① 里預児と里親の個人名はすべてデータ化(記号化)し個人情報を保護する。
  ② 今回の発表では、里親の地域別分布を中心とするため、地域名は○町(村)大字○までとし、それ以下につ   いては記載しない。

4.研 究 結 果

これまでの里預児の年齢を中心とした分析では、以下のことが明らかになっている。
  1905(明治38)年の初期の里預児は0歳児であったが、1906(明治39)年から1907(明治40)年は東北三県凶作 での貧孤児を救済する必要性から5歳から6歳の里預児が中心となっていた。その後、安定期に入る1908(明治41) 年からは、0歳から2歳の乳幼児を中心として里預けされ、1912(大正元)年には里預児の約半数が0歳児であった。 減少期の1915(大正4)から1919(大正8)年には里預児の年齢がばらけており、救済の緊急度の高い孤児を優先し た結果と推定でき、その後は受け入れが急減していった。
  今回は里親の地域的特徴に着目して分析した結果、以下のことが理解できた。
  岡山孤児院における里預制は、約20年間で岡山県内の1市2町39村の42地域で実施されていた。最初は、赤磐郡 西高月村に1905(明治38)年に委託されたことから始まっている。1906(明治39)年には、16村が里預児を受け入れ ている。里預児を受け入れた市町村は、全体的に岡山県の北東部に位置している。最初に里預児を受け入れた赤磐郡 西高月村は、岡山孤児院のある岡山市に隣接していなかったが、その後は西高月村を中心として東西の方向に拡大 していった。このことから、岡山孤児院のある岡山市にただ近いという距離的な条件を重視していたのでなく、里親 の生活する地域環境を重視して、里預け先(地域)を選定していたということが推定できる。
  また、約20年間の里預児を受け入れた市町村の推移を見ると、里預児の延べ人数が多い市町村は長期間にわたり 継続して里預児を受け入れ続けている。一方、里預児の延べ人数が少ない市町村の場合は、数年で里預制を終了して いる。このことから、里預児を受け入れた市町村は一時拡大し、その後また減少しながらも、ある一定の市町村に里 預制が定着していったことが理解できる。さらに、里預児を受け入れた市町村のうち、里預児の延べ人数が多い市町 村の大字(地区)別の分布を見ると、ある特定の地区に収斂している。例えば、西高月村においては、里預児の延べ 人数が多い和田地区、牟佐地区で長期間にわたり継続して里預児を受け入れている。このことから、各市町村の中に おいてもすべての地区(大字)ではなく、ある特定の地区(大字)に里預制が定着していったことが理解できる。
  このように、一定の市町村内の特定地区に里預制が定着し収斂する地域的特徴が理解でき、そのような環境条件 の中で里預児を受け入れる風土や里親のネットワークが形成され、専門里親が醸成されていった可能性がうかがえる。 なお、詳細な報告は当日に行う。

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