自己実現概念の構成要因の研究
-在宅高齢者の人生の進み方に関する考察-
ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科 清重 哲男 (会員番号1709)
キーワード:《理論》《哲学》《自己実現》《社会福祉》
本研究は、自己実現に関する先行研究を調査分析し、自己実現の概念に関する構造や要因を明らかにすることを目的
とした研究である。自己実現は、古典的にカント(1785)が提唱した自律した人格の完成であると解釈されてきている。1)
その後、ヘーゲル(1820)により、他者からの「承認」を必要とし社会性が付与されてきたとされている。2)
今日の福祉実践においては、福祉制度を活用し、統制された画一的な政治的実践の枠組みの中で、日々「充実した生」
の実現に向けて、一定の価値観を超えて、自己のありのままの生活を実現させ、個人性(individuality)3)を
発揮して生きることが求められている。在宅高齢者に焦点を当て、福祉国家の枠組みの中で障害者や児童、ホームレス等を
含めて、すべての福祉対象者に適用が可能な普遍的な自己実現概念の構成要因を研究したものである。
本研究の先行研究論文は国会図書館所蔵のNDL-OPACの雑誌記事索引に登録されている論文等を対象とした。「自己実現」 を題名として2000~2009年の10年間の論文等を検索し、該当する513件の論文等から自己実現概念の内容に有効であると筆者 が操作的に判断した42件を分析した。主に、自己実現の概念の把握の視点、及び個人の生活との関係性を多面的な視点から 調査した。42件の論文等の分野別分類を図-1に示した。福祉実践、福祉理念、スケール概念考察、教育、哲学、政治哲学
、社会学、心理学、文学、一般産業の11の分野にまたがっている。そこから更に、自己実現の概念を理念として直接的に論 じられていると思われる19文献を抽出し、自己実現の概念整理を行った(表-1)。自己実現を主に個人、人生、社会、国 家の役割に関連させ、対象者が一人の人間であることを前提におき分析した。研究の方法は、ポリツィアーノ、J.G.フィヒテ カント、ヘーゲル、T・H・グリーン、G・H・ミード、ギデンスA・ホーネット、ユング、ゴールドシュタイン、マズロー、 ロジャース、フランクル、ゼッターバーグ、フリールの作品、Tennessee Williams の作品、西田幾多郎、室生犀星、成瀬仁臓、 の日本人3人を含む世界的に著名な19人の思想を根源として自己実現概念を分析した。表-1 自己実現に関する先行研究調査文献一覧
本研究は、倫理的に個人情報に配慮し、使用する先行研究論文等は著作権の保護に適切に従った方法で使用し、自己実現 概念の研究調査以外の目的に使用しないことを誓約いたします。
4.研 究 結 果ポリツィアーノの書簡(1480)に示された自己表現に関する思考が最も古く、言葉による自己表現について論じている。
最も新しい概念は、スウェーデン型福祉国家のゼッターバーグ(2000)の福祉の目標は自己実現であるとの概念である。
図-2 自己実現の全体概念図