宗教と社会福祉1
-教団と福祉活動の類型化-
吉備国際大学 松原 浩一郎 (会員番号2890)
キーワード: 《宗教社会学》 《社会貢献》 《類型化》
宗教と福祉とのかかわりは古い。「近代以前においては、ほとんどの公益的、非営利的社会教化活動や慈善事業は 宗教団体の積極性、自発性、創意生、奉仕性、宗教性に委ねられてきた」1 という中垣の主張は異論のないところであ る。しかし、近代以降「宗教」と「社会福祉」は必ずしも親和的に結びついているとは言えない。それは、宗教と社 会福祉の理論のレベルばかりではなく、現実の実践場面においても、あるいは運営の場面においても言えることであ る。つまり社会福祉にとって宗教があるいは反対に宗教にとって社会福祉が逆機能をはたすことがある。しかし宗教 も社会福祉も社会の中で生成発展しているのであるから、相補的に結びつき、社会を統合する機能を持ち、社会生活 における諸問題解決に特定の役割をはたすはずである。それも単に対個人的な機能のみを有する(心を癒すなど)ば かりではなく、社会的な機能をもはたす。しかし従来の研究の多くは、特定の教団(教派)(以下「教団」とのみ記 述するが「教派」も含む)があるいは宗教者が実践してきた福祉活動を歴史的に概観し、教団の教義と福祉思想の関 連を考察し、実践内容を明らかにすることがおもなテーマで、宗教の対社会的機能に目を向ける視点が弱かった。そ こで本研究は、宗教学と社会福祉学を社会学で繋ぎ、その連続性や関連性を明らかにするものである。宗教社会学に おいては、宗教を社会現象と位置づけ、個人的な働きのみならずその社会的な機能へも目を向ける。社会福祉も社会 的ニーズをかかえる者とそれを援助する者との相互行為によって構成される社会現象である。
2.研究の視点および方法研究の方法として、宗教社会学の知見から宗教教団の類型化と福祉活動の類型化を行い、その教団にとって福祉
諸活動がどのような意味を持つのか、あるいはどのような福祉活動を志向するのかということを考察し、現実に行
われている当該教団の福祉活動の分析をとおして検証する。なお、宗教教団の類型化については、三木の宗教集団
の展開モデルを援用する。2 このモデルは従来のようにキリスト教的ニュアンスが濃厚ではないことを特徴として
いる。くわえて宗教集団の成員の志向性と集団指導層の志向性を基準にしているため、教団が主導して行う福祉活
動と信者や個々の教会・寺院が行う福祉活動の分析に利用できる可能性を持つ。三木のモデルは、縦軸を権威志向
と自律志向とし、横軸を組織運営とネットワーク形成とする。すると第一象限は権威志向型組織となり第二象限は
権威志向型ネットワーク、第三象限は自律志向型ネットワーク第四象限は自律志向型組織となる。さらに三木は、
宗教集団の発展をこの四つの象限間の移行現象と捉える。したがって第一象限から第二象限へ移行するあるいはそ
の逆といった組み合わせで12のパターンになる。本論は、それぞれの教団が属する象限と移行現象を明らかにし
て、この移行のファクターに福祉活動を位置づけることを試みるのである。
次に宗教教団の福祉活動の類型化をどうはかるのかということを述べる。本論においては宗教教団の福祉活動
を宗教の社会貢献の一部とみなし「宗教と社会貢献に関するプロジェクト研究」の所論を参考にする。同プロジェ
クトによる「宗教の社会貢献」の定義は「宗教者、宗教団体、あるいは宗教と関連する文化や思想などが、社会の
様々な領域における問題の解決に寄与したり、人々の生活の質の維持・向上に寄与したりすること」3 である。この
定義に従えば、社会貢献に福祉活動を包含しても問題はない。くわえて社会貢献の構成要素を「主体」「対象」な
ど7つあげている。宗教の福祉活動もこの構成要素から分析する。またこの研究の意義を代表の櫻井は「それは①
誰が、どのような観点で何を評価するのかという論争的な主題をもうけることで、独善的救済ないし御利益・効用
の一方に偏らない社会的価値や公共的問題を考察することができる。②公共宗教・Engaged Religion、Faith based
NPOという宗教の新しい動向を扱える。(③は省略)」と述べている。くわえて櫻井は「現代は、宗教が宗教とし
て存在するだけでは社会にとってどのような便益をもたらすのかが問われる社会になったと」いう。言い換えると
「宗教教団組織がそれ自体として価値を認められないという意味でもある」4 という。宗教と社会貢献とはこのよう
な問題意識のもとで研究が進められているのである。この問題意識からいうと、宗教教団の福祉活動もまさに宗教
教団がそれ自体に価値を認められない状況において実施されているものとみなすこともできる。
本論および発表に関しては、学会の倫理規定を遵守して、適正に処理している。
4.研 究 結 果ここでは、誌面の都合で一部を述べる。たとえば天理教の場合、三木の分類からいうと第3象限から第1象限へ
移行した教団とみなすことができる。従って教団指導層としては、福祉活動はあくまでも権威志向にプラスになる
必要があり、活動の主体は教会本部が中央集権に効果的な活動になるように展開されるということになる。(以下
詳細は、発表において明らかにする)
_______________________________________________________
1 中垣昌美(1998)『仏教社会福祉論考』法藏館、7頁
2 三木英(2009)『宗教集団の展開モデル』宗教と社会学会第17回学術大会発表レジメ
3 稲場圭信(2009)「宗教の社会貢献活動の諸相」宗教と社会学会編『宗教と社会』第15号163頁
4 櫻井義秀(2009)「宗教の社会貢献活動」宗教と社会学会編『宗教と社会』第15号、161-162頁