自由研究発表理論2  末道 大作

社会的排除概念におけるスティグマの意味
-福祉教育実践における学習素材の検討-

兵庫県社会福祉事業団赤穂精華園  末道 大作 (会員番号7263)
キーワード:《社会的排除》《スティグマ》《福祉教育》

1.研 究 目 的

 社会的排除概念は、1990年代後半以降にヨーロッパを中心に誕生した。日本では、厚生労働省による 「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会の報告書」(2000)において注目 を浴び始めた。ただ、この概念は、概念自体が不明確であり、それは同時に社会的排除問題を抱える対象者が 定まっていないことも意味する。よって、その対応策を明確に示せない。この概念の形成過程において一定の 影響力をもった相対的剥奪概念は、経済的貧困層に注目し、経済発展の中で生じてきた「社会的諸問題」を 対象としており、貧困層の出現する原因を分析するための枠組みである。しかし、貧困層の出現背景は、 経済面のみから考察できるほど単純なものではなく、差別・偏見、教育水準、障害、疾病、家庭環境、 文化的対立、移民、宗教等の理由を伴っている。そこで、相対的剥奪概念を発展させる形で社会的排除概念 が誕生した側面がある。このような概念形成の過程から、現在においても社会的排除問題対応策としては、 就労対策、社会保障制度の整備、が中心となっている。しかし、社会的排除概念は、ノーマライゼーション の理念をもちながらもノーマライゼーションに投げかけられる「何がふつうか」という問に対して"異なる形 でのつながり"を明確化し、さらに、その理念を実現するための実践的な原理を提供するものであり、本来、 社会的排除問題は、幅広い問題を包括的に取り扱うものであって、対策は困難とならざるを得ない。つまり、 制度政策面からのアプローチのみでは対応しきれない。そこで、制度政策的アプローチに加えて、人間の 主体性・自省性の形成とかかわる福祉教育実践(学校教育、生涯学習、ソーシャルワーク機能としての教育 機能等)に着目して、社会的排除問題への対応策を考察したい。本研究の目的は、社会的排除問題の解決の 糸口を探ること、そのための福祉教育実践のあり方の考察、にある。

2.研究の視点および方法

 社会的排除概念におけるスティグマの意味を考察することで、①社会的排除が生じる心理的メカニズム を解明し社会的排除概念の明確化に貢献する。それは、社会的排除概念に"人間性"を取り入れることであり、 ②制度政策的アプローチとは異なる対応策を示す。その対応策は、実生活において生じる"目の前の生活困難" として社会的排除問題を意識させることとなり、本研究においては③社会的排除問題を学習素材として取り 上げ人間の主体性・自省性の形成へとつなげるというアプローチ(福祉教育実践)で社会的排除問題対応策 を示す。なお、文献を研究素材の中心とした理論研究を行った。

3.倫理的配慮

 本研究発表は、原則として公開されている資料・文献を使用しており、日本社会福祉学会研究倫理指針 を遵守している。

4.研 究 結 果

スティグマをキーワードとして、人間の心的内部における課題(社会的排除問題の要因)として、心的内 部に生じる差別・偏見、あるいは無視・拒絶、結果としての恥意識の強化等といった排除作用、パワーレス 作用、類型化・同化作用を示した。

  社会的排除状態となる過程は、まず対象となる人(集団・地域を含む)に①社会的役割へのマイナスの 「烙印」があり、それが結果として②その人らしさの喪失(パワーレス)をもたらした場合、③社会的排除が 生じる、という側面がある。つまり、社会的排除問題への対応策としては、①多様性の社会的承認や協同経験 による相互理解(社会的役割に対するマイナス評価への対応)、②排除される個人・集団・地域へのエンパワ メントによる自己覚知・自己実現、が考えられる。そこで、仮に、制度政策が立案・実施されたとしても、上 記のようなメカニズムで生じる社会的排除へは対応しきれない。なぜなら、制度政策的アプローチは、画一的 になりやすく、自動的(実行者の意図により)にアプローチが展開しやすい。そこでは、人間の内面へと働き かけていく、長期の取り組みが欠如する。よって、対策としては福祉教育実践のように①障害をもつとされる 人や、高齢者、乳幼児・児童等、さまざまな人とかかわる機会を提供したり、②過去・現在の事実として社会 福祉問題を学習したり、③ソーシャルワークの各種機能の習得、といったことも求められる。
  以上、現実に、福祉教育実践は各所で展開しているが、社会的排除を考察した場合、その福祉教育実践の 役割の一つが明確になる。

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