自由研究発表理論2  直島 克樹

社会福祉理論に関する研究
 -科学性からみえる社会福祉の専門性への考察と新たな理論的展開-

川崎医療福祉大学  直島 克樹 (会員番号6815)
キーワード: 《科学性》 《専門性》 《全体と部分》

1.研 究 目 的

 社会福祉そのものに関する問いは、実践を特に重視する社会福祉にとって、その専門性の問題を喚起するもの である。現在、社会福祉は専門職として、必ずしもその専門性が明らかにされているとはいえないのではなかろうか。 政策においても実践においても、その不明確な専門性は、社会福祉の曖昧さに繋がってしまうと考えられるのである。
  南と武田(2004:6)は、「『人権尊重』『権利擁護』『社会正義』等に依拠し、問題解決と変革に焦点をおいた実践者」 としてソーシャルワーカーを位置づける。しかし、それは社会福祉、あるいはソーシャルワークにとって必要不可欠な視点で はあるが、それが必ずしも社会福祉の専門性の根拠となるとはいえない。なぜならば、この人権尊重などに基づいた議論は、 他の専門職にも当てはまることであると考えられるからである。社会福祉の専門性を明らかにするためには、他の領域との 「関係性」から議論しなくてはならないであろう。現在"福祉"という用語の乱用も著しく、他の領域との「関係性」を観点 とするためにも、より本質的な議論を要すると考えられるのである。
  そこで本研究では、専門性=科学性という視点に着目し、社会福祉の専門性に対して考察を加えていきたい。専門的で あることと科学的であることは密接に結び付けて考えられている。科学的な側面から専門性を明らかにすることは、社会福祉 そのものに対して検討することとも結びつくと考えられる。以上のことを踏まえ、社会福祉の専門性のモデルを示すことに よって、社会福祉の新たな理論的展開を図ることを目的としたいと考えている。

2.研究の視点および方法
  本研究では分析に際し、文献研究の方法を用い、専門性=科学性という視点に着目していきたい。特に、この科学と いうものに着目し、その中でも全体と部分に対する観点から議論を展開していきたいと考えている。社会福祉は常に人と 社会との関係を説明しようとしており、その観点から社会福祉の専門性を考察し、理論的展開を図ることには一定の意義 があると考えている。

3.倫理的配慮
  文献研究に関し、先行業績としての他説と自説との峻別を明確にするよう注意を払った。   

4.研 究 結 果
  近代の科学とは、要素還元主義として発展していくわけであるが、それは近代社会を構築していく原動力となった。 同時に、近代社会の構築は、科学の分化を促進し、そのことが専門職としての地位を向上させていくことにもなった。 科学と社会のあり様は、密接に結びついたものとして捉えなければならない。また、システムの発想は、要素還元的な 物事の考え方に対し、全体性を考慮に入れた洞察形式を導いた。近年の自己組織性などの関係論への着目は、この科学 における全体と部分に対する一つの力動を説明しようとするものでもある。そこでは、全体と部分との相補性が考察さ れるのである。
  これまで社会福祉の研究において、例えば岡村は、社会関係の専門分化と全体性に関する考察を行い、その点から 社会福祉の独自性と専門性について理論化している。また、嶋田にしても、社会福祉は個別に分化した科学のどれか一つ に収斂するものではなく、個々の科学の要素が明らかにする相互連関こそが、社会福祉に求められる基本的な視点である ことを考察している。それは、統合的な視点にこそ、社会福祉の独自性があるということでもあろう。社会福祉は、あら ゆる科学を統合していく意図を持った学として考えていかなければならないのである。
  社会福祉には、科学の分化と統合の流れが同時に生じることとなる。これが学としての一つの独自性である。同時に、 社会福祉学とは、様々な学としての洞察形式の統合的原理に自らの科学的根拠を置き、現実の行為へと結び付けていく ものなのである。その行為がソーシャルワークである。そこでの対象は細分化の傾向にある。そのため、対象者ごとの 実践モデルが構想されようとしている。この細分化は、ニーズ概念への関心と共に、今後も進展していくものとして考え られるのである。
  しかしながら、そういった細分化の流れと同時に、常に統合を意識した方向性もある。この方向性は、ソーシャル ワークの共通基盤を明らかにし、原理や原則を導くものとして考えられよう。また、近年の介護保険制度や障害者自立 支援法などは、その分野に対する統合的な意図をもった制度として捉えることができる。つまり、実践同様制度におい ても、一般的な施策化が進むと同時に、より分化した方向性も同時に生じるということが、社会福祉の理論を考える上 で重要な原理となると考えられるのである。
  「学」としての社会福祉学においても、制度として、また実践としてのソーシャルワークにおいても、常に二つの 流れが同時的に生じている。それは、この二つが切り離すことができず、結びついたものとして考えられなければなら ないということである。なぜならば、「学」としての社会福祉のみならず、そこから実践・制度をも生み出す構造こそ が「社会福祉学」であるべきだからである。すなわち、「学」としての社会福祉の方向性(つまり近代の科学化とは 逆の方向性)が、専門性の確立という名のもとに連続的に細分化していくということ、逆に実践・制度の統合化過程 の方向性と、「学」としての分化が連続的に展開するという構造に、これからの社会福祉理論の展開があるのである。 この流動性に専門性を打ち立てるのが社会福祉であり、この流動性を捉えていくことが社会福祉における理論のモデル となると考えられるのである。

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