自由研究発表社会福祉教育・実習3  大塩 まゆみ

社会福祉士の専門性向上への大学・大学院の教育課題
-北陸3県の社会福祉士への質問紙調査報告-

龍谷大学  大塩 まゆみ (会員番号1935)
キーワード: 《社会福祉士》 《専門性》 《大学・大学院教育》

1.研 究 目 的

社会福祉士の国家資格制度化後、20年以上の年月がたち、福祉系大学・大学院の数も増えた。しかし、社会福祉士が社会的に認知されているとはいいがたく、その一因が、これまでの大学教育のあり方だと考えられる1)。平成21年度から社会福祉士養成の新カリキュラムが施行されているが、旧カリキュラムやこれまでの大学での社会福祉教育のあり方を全国的に検証して改定されたのではない。また、現場の社会福祉士の大学教育に対する声を反映したものともいえない。一方では、少子化による大学入学者確保問題があり、特に福祉系学部学科は、増設ラッシュ時の一時的ブームは冷め、善後策を講じなければならなくなっている。このような情勢下では、大学・大学院教育のあり方を再考し、量から質へ、資格取得から専門性向上へと教育目標や教育内容を刷新する必要があるのではないか。そこで、ことに定員充足問題が深刻な地方エリアの社会福祉士を対象として調査を行い、福祉系大学・大学院の潜在的な教育ニーズを探り、今後の専門教育のあり方を検討するデータとした。

2.研究の視点および方法

福祉職また福祉系大学の人気凋落のもう一つの要因として、福祉労働者の待遇の悪さがある。同時に、社会福祉士に関しては、「社会福祉士」としての職名で職につくための法制度基盤が未整備であることも関係しているのではないか。そこで、大学・大学院教育での実力アップというソフト面と共に、社会福祉士が専門職として働ける条件整備(ハード面)をも視野に入れて社会福祉士の意識や就労実態を質問紙調査で明らかにし分析した。
 ◇調査対象と方法:福井・石川・富山の北陸3県の社会福祉士会所属の社会福祉士を対象に「郵送調査法」で実施。各社会福祉士会が会員への郵便物を発送する際に、調査票と依頼文・返信用封筒を同封し、返送は、各人が直接、封入し投函する方式による。
 福井県社会福祉士会:288人(調査時点での会員登録者数)
 石川県社会福祉士会:350人(同上)
 富山県社会福祉士会:294人(同上)  合計 932人分発送。
 ◇調査期間:2008年2月6日?4月31日。福井県は2月6日、富山県は3月28日、石川県は4月10日に発送し、それぞれ約1ヶ月後までに返送を求めた。

3.倫理的配慮

調査目的・方法等を各社会福祉士会理事に説明して調査への協力を依頼し、各理事会で調査票案を検討していただき承諾を得、修正(追加)をした後に実施した。各県の会員に各社会福祉士会事務局から調査依頼文と調査票等を発送し、回答後の調査票の返送をもって合意とみなした。自由回答を文章化する時には、本人が特定されないよう、あえて県別・男女別以外の基本属性ごとの分類を示さないことにした項目もある。

4.研 究 結 果

1)回収状況:調査票を発送した3県の会員登録者合計932人のうち返送271、無効1で、有効回答数は270。全体の回収率は29.1%。各県ごとの会員登録者(発送数)のうち有効回答者の比率は、福井県37.2%(288人中107人)、石川県23.7%(350人中83人)、富山県27.2%(294人中80人)であった。
 2)県別回答者:回答者全体に占める各県の回答者数・比率は表1・図1のとおり。
                 

表1 県別回答者数
 
図1 県別回答者数      (%)

3)主な調査結果
 ①全般的に勤務年数の長い人が少なく、特に女性の勤務年数が短い。
 ②「社会福祉士」の職名で働いている人が少なく、50種類以上の多様な職名が記載された。
 ③「今の職場で仕事をしていて満足できない点」として多いのは、「自分の力量不足」と賃金等の労働条件である。
 ④「社会福祉士としての専門性が発揮できている」と思っている人は半数近くあるが、「他職種から専門職として存在意義を認められている」と思っている人は少ない。
 ⑤知的障害者福祉施設や社会福祉協議会では、勤務年数が長い人が多いが、「社会福祉士としての専門性が発揮できている」と思っている人や「他職種から専門職として存在意義を認められている」と思っている人が少ない。
 ⑥大学で受けた社会福祉教育が不十分だと感じたことが「ある」人が42.2%で、「ない」人の約6倍である。
 ⑦「大学でもう少し勉強しておけばよかったと思うもの」や「さらに高めたい専門性」として多いのは、援助技術である。
 ⑧χ²検定の結果、職場種類により「大学でもう少し勉強しておけばよかったと思うもの」や「さらに高めたい専門性」に有意差があり、病院(MSW)では、「医学知識」や「法律の知識」「アセスメントの方法」「社会資源の情報・知識」が求められる。
 ⑨χ²検定の結果、「職場での満足感」と「大学でもう少し勉強しておけばよかったと思うもの」や「さらに高めたい専門性」は有意差があり関連性がある。
 ⑩病院や地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・高齢者福祉施設に勤める社会福祉士は、特に専門性を高めることへの関心が強い。
 *詳しい調査結果とその分析・考察については、当日、資料を配布し報告する。
 参照文献:星野信也(2000)『「普遍的選別主義」の可能性』海声社、同(2002)「社会福祉学の失われた半世紀-国際標準化を求めて」『社会福祉研究』第83号。

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