自由研究発表社会福祉教育・実習3  永嶋 昌樹

介護福祉教育従事者の「介護福祉士の専門性」意識の検討
-KJ法による比較から-

○ 聖徳大学  永嶋 昌樹 (会員番号6855)
新潟青陵大学  田中  清 (会員番号6408)
埼玉県立大学  嶌末 憲子 (会員番号3901)
大妻女子大学  川廷 宗之 (会員番号0301)
キーワード: 《介護福祉士》 《専門性》 《KJ法》

1.研 究 目 的

 2006年(平成18年)1月に、厚生労働省社会・援護局長の私的懇談会として設置された「介護福祉士のあり方及びその養成プロセスの見直し等に関する検討会」では、介護福祉士制度の施行から現在に至るまでの高齢者介護や障害者福祉を取り巻く状況の変化を踏まえ、高齢者及び障害者に対する新しいケアに対応できるような、これからの介護福祉士の養成に当たっての目標についての整理が行われた。その報告書では、「求められる介護福祉士像」として12の項目が挙げられ、この「求められる介護福祉士像」を実現していくことが人材養成の最終的な目標であるとされた。これを受けて、2009年(平成21年)4月より、介護福祉士養成の新カリキュラムが開始されたところである。
 しかしながら、「求められる介護福祉士像」の根拠となるべき「介護福祉士の専門性」については、社団法人日本介護福祉士会による「介護福祉士の就労実態と専門性の意識に関する調査」等の先行研究による報告があるものの、現状ではいまだに社会的なコンセンサスが得られていない。介護保険制度の介護報酬では、身体介護が重視される傾向にあることなどから、一般的には身体介護を専門とする職業と思われていると推測される。
 このような状況を踏まえ本研究では、介護福祉教育の研究者・介護福祉士養成施設の介護教員・介護福祉士実習施設の実習指導者等、介護福祉教育従事者の「介護福祉士の専門性」意識を探るとともに、「介護福祉士の専門性」を導き出していく過程について検討することとした。

2.研究の視点および方法

 介護福祉教育従事者(介護福祉教育の研究者、介護福祉士養成施設の介護教員、介護福祉士実習施設の実習指導者、指導的な立場にある介護福祉士)29名を対象に、「介護福祉士の専門性(知識・技術、機能・役割、価値・倫理など)」に関する考えや思いを尋ねた。29名を4,5名ずつの6グループに分け、各グループでブレインストーミングの手法を援用し、回答の記述を求めた。得られた6グループ分の回答は全てをひとまとめとし、3名の介護福祉教育研究者それぞれがKJ法による分類を行なった。

3.倫理的配慮

 回答は、個人を特定できないようにすべて無記名とした。対象者には、本研究への協力如何によって、何ら不利益を受けないこと、個人並びに組織のプライバシーを守り、個人情報保護には細心の注意を払うこと、得られた情報は研究の目的のみのために使用することを説明した。また、参加協力の同意後においても、いつでも対象者となることを、不利益を受けずに随時撤回できるものとした。

4.研 究 結 果

 対象者29名より計188件の回答が得られた。得られた回答はKJ法により整理し、類似のもの同士をまとめ(小項目分類)、表札づくりを行なった。次に関連する小項目をひとつの島にまとめた(中項目分類)。介護福祉教育研究者3名による中項目分類の結果、項目数は研究者Aが24項目、研究者Bは17項目、研究者Cは20項目であった。
 研究者Aは職種に対する固有性から、「専門的な介護の技術・知識を有している」等の中項目を【介護福祉士に特有な専門性】、「コミュニケーション能力がある」「エビデンスに基づいた援助ができる」等の中項目を【関連職種に共通する専門性】、「状況に応じた判断ができる」「自己研鑽をすることができる」等の中項目を【介護福祉士および関連職種のみに限らない専門性】と、さらに3つの大きな分類に分けている。
 研究者Bは、介護福祉士の専門性に関する意見について、理念、介護者としての姿勢、介護(支援)実践の大きく3つに分け、その中でも介護(支援)実践については、利用者・家族等に対する理解と実践に分けてカテゴリー化し分類整理を行なった。また、理解と実践については、それを行う際の視点と方法の2つの観点から分類整理を行った。その結果、専門性として多くの意見があげられている領域を、「介護者としての姿勢が確立している」「情報収集からアセスメントすることができる」「利用者に対する実践力がある」の3つとした。
 研究者Cは「家族や社会に働きかけることができる」「利用者の多面性・全体性を捉えた支援ができる」等の中項目を【利用者や理念・目標に焦点をあてた支援】、「生活特性をふまえた支援のあり方を指向できる」「利用者との相互作用を意識した関係性を図れる」等の中項目を【援助行為・実践のあり方に焦点をあてた支援】、「マクロの視点を持ち職場のマネジメントができる」「学生や後輩への教育・指導ができる」等の中項目を【介護福祉士・職場・政策】と、小項目および中項目同士の相互の関連性に重点を置いた3つの領域に分類している。
 これら3者による分類は、いずれも意図的になされたものではないが、その分類の過程において各々の特徴が現れる結果となった。しかしながら、小項目のいわゆる「表札」には共通点が多く見られることから、3者間の差異は「介護福祉士の専門性」に対する意識の違いというよりも、ラベル(介護福祉士の専門性についての質問に対する回答)を全体的に俯瞰する視点の相違であろうと考えられる。

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