自由研究発表社会福祉教育・実習3  金井 直子

エイジズムを克服するための方法の研究
-社会福祉教育の場に立って考える-

日本福祉教育専門学校  金井 直子 (会員番号6301)
キーワード: 《エイジズム》 《社会福祉教育》 《高齢者の尊厳》

1.研 究 目 的

 『2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立~』においては、「戦後のベビーブーム世代」が65歳以上になりきる2015年までに、「高齢者が、尊厳をもって暮らすことを確保すること」が最も重要であるとし、高齢者の尊厳を支えるケアシステムの構築が急務であるとしている。また、それらのシステムの基盤には、高齢者が社会のなかで価値ある存在として認められ、一人の尊厳ある人として認められることがなくてはならないとしている。しかし、現代社会においては、高齢者は必ずしも尊敬の対象とはならず、むしろ、高齢者であるがゆえに差別され、社会的な不利をこうむることがみられる。高齢者の尊厳を支えるケアの確立のためには、このような社会に存在している高齢者や加齢に対しての様々な差別的な制度や意識を是正し、社会全体として「エイジズム」の問題に正しく対処することが必要である。そのため本研究においては、社会福祉教育の場における教育の果たす役割と課題について考えることを目的とする。

2.研究の視点および方法

 本研究においては、社会福祉教育の立場から、バトラーが定義するエイジズムの視点をもとに、福祉・介護を学ぶ学生の高齢者に対するイメージを明らかにし、その現状と克服のための課題を考察する。そのための具体的方法は、わが国おけるエイジズムに関する先行研究の整理や高齢者像の変遷を明らかにすることと、福祉・介護を学ぶ学生を対象にした高齢者のイメージ調査を通して行う。

3.倫理的配慮

 調査にあたっては、本研究の趣旨を説明し、学会にて報告することについて了承を得るとともに、発表においてはその個人が特定されないように配慮した。また、データの管理を厳格に行うとともに、発表終了後は元データについては速やかに廃棄する。

4.研 究 結 果

 福祉・介護を学ぶ学生が高齢者に抱くイメージについては、肯定的なイメージを持っている割合が多く評価できる。高齢者の大半は衰えるという見方は否定されつつある。特に現在、祖父または祖母(健康状況が年齢の割に元気である)と同居している者については、肯定観が強く表れている。しかし反面、高齢者の大多数は記憶力が衰えていると思う者が依然として少なからずいる。そしてまた、高齢者の性格を固定的にみる見方が根強いことなど否定的なイメージも強く、これを放置すればエイジズムにつながる危険がある。
 福祉・介護を学ぶ学生の多くは、特別養護老人ホーム等の高齢者福祉施設における実習を通して、高齢者との交流を体験している。また授業においても、一般の学生よりも高齢者に関する専門科目を学んでいる。しかし、実習や教科の学びの対象者像は、多くの場合さまざまな支援を必要とする高齢者であり、自立している高齢者像ではない。それゆえに、否定的でステレオタイプ化した高齢者像がイメージされやすくなる可能性がある。このような状況を打開するためにも、また、介護保険法が理念とする自立支援を重視するためにも、自立した高齢者像がイメージされる必要があり、そのためには、元気で自立した高齢者との交流体験が必要であろう。
 このように学生個々人のエイジズムに関する意識を高めるためには広く学校教育等の教育の場において正しい高齢者観を学ぶ機会を提供することであり、まずは社会福祉教育の場からはじめていくことが必要である。また、これらと併せて、就職後における高齢者福祉施設や機関などの専門職に対するエイジズム教育や、地域における高齢者のプロダクテイブな活動への支援などが求められる。
 高齢者の尊厳を支えることは、施設であっても在宅であっても、その人の日常生活における自由な自己決定が保障されることであり、それは、介護が必要となっても、介護を受けるために自分の生活や自由を犠牲にすることなく、自分らしい生活を続けられることである。しかし、日本における高齢者福祉の流れは、社会保障支出を抑制する環境の中で、高齢者のパワレスな問題状況に対して充分な対応がなされたとは言えない。エイジズムの問題は、私達一人一人の高齢者に対する否定的な固定観念だけの問題ではなく、福祉と財政負担のあり方をはじめとした社会保障のあり方までも含んだ社会的な問題であると考える。
 そしてこれらを克服するためには、社会福祉教育の場において、ミクロとしての個々人の意識改革を促進する学びやメゾとしてのさまざまな組織や地域における実践事例からの学び、また、マクロとしての社会の風潮や制度・政策の領域からそれらの問題を考えていくことが重要となる。
 尚、社会福祉教育におけるエイジズム克服のための方法については、さらなる研究が必要であり、今後も継続して取り組んでいきたい。

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