ボランティア活動に関する小・中学校の教師の理解
-ボランティア活動推進自治体と非推進自治体との比較-
金城大学社会福祉学部 岡村 綾子 (会員番号3446)
キーワード: 《ボランティア活動》 《理解》 《小・中学校教師》
ボランティア活動は、1995年の阪神・淡路大震災の際に注目されるようになった。1997年の福井県沖で起きたタンカー沈没による重油流出事故の際に、ボランティア活動が再燃し、この事故が日本においてボランティア活動を定着させたとも言われている。阪神・淡路大震災や福井の重油流出事故を契機として、ボランティア活動に対する考え方が変化したと言える。このような状況の中、当時の文部省が1998年4月に告示した教育改革プログラムのなかに「ボランティア活動の促進」を図るための課題として、「学校における『ボランティア教育』の充実」を掲げた。
小・中学校においてボランティア活動を行う場合、児童生徒たちに特別な人に特別なことをするのではなく、ともに生きることを狙いとして理解させることとその意図を明確に説明することが望ましい。この点が曖昧だと、指導する教師やボランティア活動に参加した児童・生徒のボランティア活動に対する理解の仕方に違いが生じる可能性がある。
そこで、本研究はボランティア活動推進自治体とそうでない自治体の小・中学校教師のボランティア活動に対する理解について調査した。
学習指導要領の中に「ボランティア活動」「社会体験」「社会奉仕」「体験活動」など色々な言葉が使われている問題や「ボランティア活動に参加する」ことと「ボランティア活動を体験する」ことの違いなどが明確にされていない問題などがあるように思われる。いずれにしろわが国では、「ボランティア活動」の意味・内容が的確に理解されていないように思われる。そのため児童・生徒たちにボランティア活動を通して理解させることとその意図を明確にすることが難しく、児童や生徒の理解は実際に指導に当たる教師の理解の仕方によって異なると考えられる。そこで、小・中学校の教師のボランティア活動に対する理解について調査を行った。
調査対象:ボランティアの活動を推進する取り組みを特に行っていないA市内の全小・中学校32校(小学校20校・中学校12校)に勤務する全教師685名(小学校417名・中学校268名)とボランティア活動を推進する取り組みを行っているB市内の全小・中学校39校(小学校27校・中学校12校)に勤務する全教師813名(小学校512名・中学校301名)を対象とした。
調査方法:調査用紙を各学校長を通して各教師に配布し、留め置き法で調査を行った。回答済みの用紙の回収にあたっては、学校ごとに一括して返送してもらった。そして調査対象者には、研究の趣旨と内容、得られたデータは研究目的以外には使用しないことについて文書で説明し、質問紙の返送をもって研究協力受諾とした。
調査期間:A市内の小・中学校の教師を対象とした調査は2007年7月中旬より9月下旬の間に調査用紙を配布・回収した。B市内の小・中学校の教師を対象とした調査は2008年6月初旬から9月下旬の間に行った。
調査内容:教師になる以前及び教師になってからのボランティア活動についてのイメージ、教師になる以前及び教師になってからのボランティア活動への参加経験及び参加頻度・内容、学校教育の中でのボランティア活動の位置づけ、授業の中でのボランティア活動に関する指導例、ボランティア活動の効果、ボランティア活動と奉仕活動の違い、などについて調査を行った。
回答済みの用紙の回収にあたっては、各教師が回答後、調査用紙に添付した封筒に各自入れて封をし、各学校ごとに一括に返送してもらった。これにより調査依頼者以外の者の目にふれることなく、各教師の考え方を直接聞くことができると考えた。
4.研 究 結 果 回収は、A市内が小学校255名、中学校159名、計414名(回収率60.4%)、B市内が小学校307名、中学校220名、計527名(回収率64.8%)であった。
教師になるまでのボランティア活動のイメージでは、A・B両市ともに「奉仕活動」「自発的におこなうもの」「無償の活動」「人に役立つこと」「社会奉仕」「社会に役に立つこと」があげられ、教師になってからのボランティア活動のイメージでは、A・B両市ともに「自発的におこなうもの」「奉仕活動」「人に役立つこと」「無償の活動」「社会に役に立つこと」「社会貢献」「社会奉仕」があげられていた。
また、「ボランティア活動と奉仕活動は違う」と回答している教師が教師になってからのボランティア活動のイメージでは、「自発的におこなうもの」「無償の活動」「奉仕活動」「人に役立つこと」「社会に役に立つこと」「社会貢献」がA・B両市ともにあげられていた。
学校教育におけるボランティア活動の扱われ方については、「奉仕体験」「思いやりについて考える行動」「みんなのために働く活動」があげられていた。
ボランティア活動を推進している自治体とそうでない自治体の小・中学校の教師のボランティア活動に関する理解について差異があると想定していたが、著しい差はみられなかった。