自由研究発表社会福祉教育・実習2  林 典生

医療・福祉現場における園芸活動の情報共有に関する研究
-南九州大学における取り組みを事例にして-

南九州大学  林 典生 (会員番号5404)
キーワード: 《園芸活動》 《情報共有》 《フィールドノーツ》

1.研 究 目 的

 演者は一昨年度より医療・福祉現場において、学生が利用者や職員などの関係者と協働して園芸活動の実践研究を行ってきた。さらに本学は都城市に出来た新しいキャンパスで、しょうがいの有無を問わずに地域住民が学生や教職員と協働しながら、誰もがすみやすいまちづくりの軸となるヒーリングガーデンを設け、地域住民に根ざした園芸活動を行う事が求められている。
 しかし、その研究の中で、園芸活動を行ったことのない現場で活動を立ち上げるのに苦労している事例や園芸活動を開始したのは良いが、学生や職員の担当者変更や障害者自立支援法などの制度変更で、利用者の方々には喜ばれているものの、活動継続をするのに困難が伴う事例が見られた。
 本研究は活動立ち上げや継続を困難にする原因を明らかにしつつ、誰もが活動を開始し、継続できる方法を探るために、演者や学生が介護保険施設、知的障害者福祉施設、精神科病院、児童養護施設、高齢者デイサービスの協力を得て園芸活動実践活動を行いながら検討した。本研究はその中で3つの活動現場の事例を基づいて、活動記録に基づいて分析と改善を試みた。

2.研究の視点および方法

 園芸活動を媒介にして利用者がよりよい生活を送るために一つの重要な視点として、園芸活動を実践している学生と利用者の日常生活を支援している職員との情報共有であると仮定した。その中で、①昨年度に旧制度から新制度へ移行準備し、対象となる利用者が現在の就労移行・就労継続から生活介護の対象者へと変更した知的障害者授産施設A、②一昨年度に担当職員の部署変更により、対象となる利用者が統合失調症や気分障害の方々から認知症の方々へと変更した精神科病院B、③昨年度より学生の要望より実践活動を開始した同一敷地内にある小規模児童養護施設Cおよび高齢者デイサービスDの3つの事例について、利用者中心の視点に立ちながら、学生や職員とが園芸活動で協働していく中で情報共有のあり方について検討を試みた。
 研究手法として、質的および量的調査に関する書籍を参考にしながら、利用者・施設職員および学生を対象にした行動観察およびインタビューを行うとともに、施設職員および家族の方を対象にしたアンケートを実施した。さらに、これらのデータを基にして、演者が学生と一緒にフィールドノーツを作成した。さらに、行動観察、インタビュー、アンケートおよびフィールドノーツを基にしながら園芸活動を全く知らない利用者の家族や施設職員でも情報共有できる方法や様式を検討し、検討した結果を用いて改善策を作成した。さらに作成した改善策を実際に行い、これらの結果について、同様の方法を用いて、さらに改善策を提案する方法を実施した。

3.倫理的配慮

 この研究を実施するに当たり、南九州大学倫理委員会に研究計画及び成果物について審査を実施して、了承が得られたものである。この研究は個人情報保護の視点から、利用者、職員、家族などの関係者および学生に対して説明を行い、同意が得られた方のみを対象に参加記録の作成と写真撮影を行うとともに、行動観察、インタビュー、アンケート調査を実施した。

4.研 究 結 果

 本研究は現在進行中であるが、今のところ出てきた状況は以下の通りである。
 ①知的障害者施設Aの事例において、新制度に移行し、利用者が変更した中で学生や施設職員が就労支援から利用者が楽しむための園芸活動を変更していく中で、利用者の対応方法や活動手順など改善することができた。さらに園芸活動内容について学生が活動記録および絵入りの手順書を作成して、情報共有の方法を提案し、利用者の家族や施設職員よりわかりやすいとのお話をいただいた。今年度は決められた園芸活動日以外に、学生が訪問して、利用者と一緒に野菜を育てている姿が見られるようになった。
 ②精神科病院Bの事例において、学生の提案により、病棟内の匂い環境改善および認知症の方々へ季節感を認識するために、アロマや炭を用いた活動や当事者の方を外出支援する活動などを展開した。その展開に関する職員や家族向けヒヤリング及びアンケートの結果、施設職員が持っていない新しい発想を実現させて、施設環境の向上になっている等の回答が見られた。また、職員間の意思疎通がうまいこと行かない結果、学生が活動に参加できない状況を生み出したが、演者および職員との話し合いを交えながら、学生が活動に参加できる状況になるように支援を行い、最終的に再び活動に参加できるようになった。
 ③小規模児童養護施設Cおよび高齢者デイサービスDの事例において、学生が主体的に野菜を栽培する活動を実施する中で、訪問時以外の日常的に園芸活動を実施して利用者と一緒に楽しむために学生や演者に質問する職員が現れた。その職員と学生との情報交換により、現在では学生らが訪問する時以外にも園芸活動を楽しむ姿が見られるようになるとともに、園芸活動を契機に、学生が園芸活動以外に両施設に訪問して、利用者と学生との日常的な交流する姿が見られるようになった。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp