自由研究発表社会福祉教育・実習2  占部 尊士

福祉学生のもつ援助観形成とレクリエーション実践との関係性について
-高齢者施設におけるレクリエーション実践前後の比較-

 ○ 長崎ウエスレヤン大学・久留米大学大学院  占部 尊士 (会員番号7130)
久留米大学  大西  良 (会員番号6793)
久留米大学大学院  村岡 則子 (会員番号7131)
久留米大学比較文化研究所  藤島 法仁 (会員番号6873)
キーワード: 《専門職養成》 《援助観》 《レクリエーション》

1.研 究 目 的

介護福祉士制度の施行から現在に至るまでの間に,高齢者や障害者の福祉を取り巻く状況は大きく変わってきている.
 高齢者福祉の分野においては,2000年(平成12年)からの介護保険制度の施行とその後の見直しの中で,個室・ユニットケアの特別養護老人ホーム,要介護状態になっても住み慣れた地域での生活を継続できるような小規模多機能型居宅介護等の地域密着型サービス拠点など,個別ケアや認知症ケア等の新しいケアモデルに対応できるサービスの構築が進められてきている.また,障害者福祉分野では,2003年(平成15年)の障害者支援費制度の施行及び2006年(平成18年)の障害者自立支援法の施行の中で,障害者に対するケアにおいて利用者本位のサービス体系への再編が進められる中で,地域生活支援,就労支援といった側面をより一層重視したケアが求められるようになってきている.
 このような状況を踏まえ,介護福祉士養成課程における教育内容等の見直しも行われ,様々な課題に対応できる専門性をもった介護福祉士の養成が進められてきている.
 そこで本研究では,介護福祉養成課程の新カリキュラムにおいて専門的には位置づけられていないレクリエーション教育のあり方を検討すべく,施設体験学習におけるレクリエーション実践を通して学生が学ぶ援助観について調査し,レクリエーション実践教育の効果と生活を支えるレクリエーション活動の重要性について言及し,福祉学生における対人援助職の資質向上に資することを本研究の目的とした.

2.研究の視点および方法

 福祉専門職である介護福祉士を目指す専門学校1年生60名(男性17名,女性43名)に対し調査を実施した.調査時期としては,実習前調査を2008年6月下旬,実習後調査を7月上旬に実施した.
 基本的情報として,所属学科,学年,性別,年齢などの属性とレクリエーションに対する意識,そして高齢者や障害者を中心とした援助対象者に対する関心度,援助希望,学習内容に関する質問項目を設定した.
 その他の調査内容として,援助に対する規範意識を測定するために箱井・高木の援助規範意識尺度,他者への注意の向けやすさや注意を向ける方向を測定するために辻の他者意識尺度,個人の自己や社会に対する価値観を測定するために板津の生き方尺度を用いた.
 これら援助規範意識尺度,他者意識尺度,生き方尺度については先行研究を参考に下位因子を抽出し,基本的情報としての各項目と各下位因子の実習前後での変化をみるために,対応あるサンプルのt検定を行った.
 なお,これら一連の集計および解析では,Microsoft Excel 2003,Windows for SPSS 11.0jの統計ソフトを用いた.

3.倫理的配慮

 調査対象者に対して,調査への協力依頼文書の中で,この調査はレクリエーション実践力の向上に向けての取り組みと福祉教育をより効果的に行うための調査である旨を伝えた.また,本調査はあくまでも任意であり,成績や実習評価とは一切関係のないこと,回答結果はコンピュータ処理され,個人の回答が外部に知られることはなく,結果は学術的な目的以外には使用しないことを明記した.

4.研 究 結 果

 体験実習によるイメージの変化について比較的良い印象をもった項目は「高齢者施設のイメージ」が最も多く,次いで「介護職のイメージ」,「高齢者のイメージ」,「ソーシャルワーカーのイメージ」,「認知症高齢者のイメージ」の順であった.今回の体験実習を通して,福祉学生は「福祉施設」,「福祉専門職」,「援助対象者」に対して好印象をもっていた.そして,体験実習における学習効果について比較的学習効果のあった項目は「利用者との関わり方」が最も多く,次いで「福祉施設の実際」,「レクリエーション実践」,「施設職員による話」の順であった.今回の体験実習を通して,福祉学生は「利用者との関わり方」,「福祉施設の実際」,「レクリエーション実践」,「福祉専門職」について学んでいた.さらに,体験実習における利用者との関わりについての回答は,次のような結果であった.体験実習による利用者とのコミュニケーションについて福祉学生は「難しいと感じた」が90.00%であった.その一方で「学びたいと思った」が98.33%であった.今回の体験実習において,福祉学生は利用者とのコミュニケーション場面で能力不足を感じており,このことが前向きな向学心に繋がっていることがわかった.
 実習前後での変化をみるために,まずは福祉学生のもつレクリエーション意識についてt検定を行った.その結果,「レクリエーションを実践することは不安」において有意差が認められ,実習後に不安が高くなっていた.その他,「レクリエーションについて学びたい」,「レクリエーションを実践することは楽しい」についての有意差は認められなかった.次に,福祉学生のもつ援助対象者への関心について実習前後での変化をみるためにt検定を行った.その結果,「認知症の高齢者」,「身体障害者」,「知的障害者」,「精神障害者」において有意差が認められ,実習後に関心が高くなっていた.その他,「ホームレス」,「児童」,「高齢者」についての有意差は認められなかった.さらに,福祉学生のもつ援助活動の希望について実習前後での変化をみるためにt検定を行った.その結果,「認知症の高齢者」において有意差が認められ,実習後に援助希望が高くなっていた.その他,「身体障害者」,「知的障害者」,「精神障害者」,「ホームレス」,「児童」,「高齢者」についての有意差は認められなかった.そして,福祉学生のもつ援助対象者に関する学習希望について実習前後での変化をみるために,t検定を行った.その結果,「認知症の高齢者」において有意差が認められ,実習後に学習希望が高くなっていた.その他,「身体障害者」,「知的障害者」,「精神障害者」,「ホームレス」,「児童」,「高齢者」についての有意差は認められなかった.また,福祉学生のもつ福祉職への就職希望について実習前後での変化をみるためにt検定を行ったが,有意差は認められなかった.
 福祉学生の援助規範意識を尋ねる項目のうち,実習前後の変化に有意差を認めた項目についてみると,「人が困っている時には,自分がどんな状況にあろうとも,助けるべきである」,「人から何かを贈られたら,同じだけお返しをすべきである」,「恩人が困っている時には,自分に何があろうと助けるべきである」はそれぞれ実習後に意識が低くなっていた.一方,「社会的に弱い立場の人には,皆で親切にすべきである」については実習後の意識が高くなっていた.箱井・高木による援助規範意識尺度の下位概念である「返済規範意識」,「自己犠牲規範意識」,「弱者救済規範意識」について実習前後での変化をみるためにt検定を行った結果,全ての因子において有意差は認められなかった.そして,福祉学生の他者意識を尋ねる項目についての実習前後での変化をみるためにt検定を行った結果,全ての項目において有意差は認められなかった.辻による他者意識尺度の下位概念を参考に抽出した「内的他者意識」,「外的他者意識」,「空想的他者意識」についての実習前後での変化をみるためにt検定を行った結果,全ての因子において有意差は認められなかった.また,福祉学生の生き方に対する態度を尋ねる項目のうち,実習前後の変化に有意差を認めた項目は,「努力をおしまずに,自分の出来ることに向かって完全燃焼する」であり,実習後に高くなっていた.板津による生き方尺度の下位概念を参考に抽出した「能動的実践態度」,「自己の創造・開発」,「自他共存」,「こだわりのなさ・執着心のなさ」についての実習前後での変化をみるためにt検定を行った結果,全ての因子において有意差は認められなかった.
付記 本研究は,課程認定校研究連絡会議および(財)日本レクリエーション協会の連携事業である平成20年度レクリエーション研究助成事業の援助を受けた.

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