自由研究発表社会福祉教育・実習2  高谷 よね子

地域社会・地域住民との協働型社会福祉専門職教育
-たまりば・居場所から地域の燈台へ-

西南学院大学  高谷 よね子 (会員番号2582)
キーワード: 《たまりば》 《ネットワーク》 《協働学習》

1.研 究 目 的

地域社会という存在の希薄化とともに、世帯人数の減少、独居世帯の増加などにあわせて家族機能の弱体化が今後もさらに進行していくと思われる。これまで保持されてきた生活を構成する多様な機能の社会化は皮肉なこと生活機能の脆弱化を促進し、人びとの社会化への欲求を一段と高める。介護の社会化を担う介護保険制度の将来を懸念する声が早くからささやかれる中で、「介護保険制度を『介護』しよう。さもないと制度そのものの存続もきびしくなり、社会化それ自体の今後が険しいものになるのではないか」ということから、社会福祉の専門性向上を意識する学生が地域社会と協働型の地域福祉実践活動にどう着手し、どう地域社会の資源へと発展させていくことができるかに着目しつつ、地域社会・地域住民との協働型社会福祉専門職教育モデルの開発を研究目的とする。

2.研究の視点および方法

 以下は2001年4月~2005年3月の学生の主体的な実践学習の概況である。
 (1)介護保険制度と地域社会の現状と課題を検討し、介護保険を介護するための方策を考える。
 両者の現状と課題を検討するなかで、地域住民のふれあいのば「たまりば」をつくり、フォーマルサービスでは提供されないであろう地域社会のぬくもりを育てていこうということになった。たまりばは地域住民であることを共有し合える環境でもあり、そのようなひとときを共に過ごす「ば」としてのたまりばである。陽のあたりにくいところにふれあいの光を送り、孤独・孤立状況の改善・解消をめざす。さまざまな状況からの一時避難所でもあり、これからの地域社会の在り方をめぐって方向性を探求し、方法や手段を試行する場所でもある。これらをもとに新たな資源を開発するとともに、存在するさまざまな資源との密度の高いネットワークを創出する。
 (2)伝統的な地域社会にアクセスし、草の根レベルから地域住民および学生の地域福祉実践力の醸成をめざす。
 たまりばの理念は、この地域にかかわりのあるすべての人、居住しているかどうかを問うのではなく、この地域に「わたし」という存在を出現させている人のたまりば、その人らしく参加できる場を創るところにある。年齢、性、障害の有無、要介護度認定の状況など一切かかわりなく、だれもが地域住民として参加できる。これまでの伝統的な社会では地域社会の構成員として認知されない、時にはよそ者として扱われるなどその排他性に疎外感や孤立感を味わってきた人も少なくない。そこで誰もが地域社会の一員として受容し合えるたまりばをつくり、地域社会のコア的存在として草の根レベルからの協働型地域福祉実践力醸成の環境づくりをめざした。
 たまりばでは以下のような活動に取り組んできた。
 ①すべての人が参加者であって、参加者として主体的に活動する。サービスの授受関係は存在しない。
 ②活動の自立の基本は運営上の自立にあると考え、できるだけ公平に参加費を負担する。
 ③活動費の使途をはじめ、運営の状況などについて、透明性を図るために、活動状況などを毎週発行する広報やホームページで報告する。
 ④たまりばをコアとして、人的資源を中心に、地域社会の資源の開発に努め、資源間のネットワーク化をはかる。
 ⑤地域社会・学生・教員の三者協働による地域福祉実践力の醸成
 (3)地域社会の燈台を創る。
 たまりばに参加できない人にも、ふれあいの灯を届けたい。つながりを失いがちな人にこそ、洩れることなく灯りを送ることができる地域社会の燈台をつくっていきたい。

3.倫理的配慮

 研究目的・方法など、いずれも学会研究倫理指針に則って行った。

4.研 究 結 果

 活動開始後4年目には、この活動は文部科学省の「こどもの居場所づくり」の委託事業となり、活動の継続・発展が嘱望されていたにもかかわらず、担当教員の定年退職により一時幕を下ろすことになった。地域社会から「今後は自分たち地域住民でたまりばを引継いでいきたいが、学生に代わる人材の確保がむつかしい」、「大学の使命には責任もって地域社会に貢献することも含まれるのではないか」といった声が上がった。民生委員らによるより身近な範囲内でのミニたまりばが誕生し、たまりばの誠心は受け継がれている。
 フォーマルサービス中心のケアの社会化の推進は人とサービスのつながりの強化になり得ても、共に生きるという感性の脆弱化を招きやすい。インフォーマルサービスを支えるフォーマルサービスという発想の転換も必要なのではないだろうか。インフォーマルサービス担い手に子どもや若者をどう案内するか、とくに福祉を学ぶ学生が地域福祉実践学習のまたとない機会として、福祉コミュニティの創出にむけてどう意欲的にかかわっていくかが課題といえよう。  昨年度より、地域福祉実践活動をカリキュラム(前期 2単位 1~4年生)に取り入れ、いくつかの手法を混在させながら地域社会のふれあいづくりを意識した実践学習を開始した。
 現時点での検討課題は、在宅訪問診療をおこなう医師・看護師・薬剤師・社会福祉士をめざす学生の連携によるinter-professional educationである。地域貢献、社会貢献についても地域社会・地域住民との協働型社会福祉専門職教育において問うていきたい。

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