自由研究発表社会福祉教育・実習1  添田 正揮

ソーシャルワーク教育におけるエスニシティとヒューマン・ダイバーシティ

日本社会事業大学  添田 正揮 (会員番号7092)
キーワード: 《ソーシャルワーク教育》 《エスニシティ》 《ヒューマン・ダイバーシティ》

1.研 究 目 的

 ソーシャルワークの専門職は、「人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人々のエンパワーメントと解放を促していく」とソーシャルワーカーの倫理綱領において示されている。国境を越えて移動する人々と地域に住んでいる人々とが日常生活での関わりを通じて創りだされている多文化・多様化社会に存在しているソーシャルワークとその教育は、どのような理論や方法等を構築してきて、さらにこれから構築しようとするのであろうか。
 本研究は、ソーシャルワーク教育においてエスニシティやエスニック・リアリティがどのように受け止められてきたのかを解明すると共に、それらに対応するために生み出された価値や理論等を明らかにすることを目的とした一連の研究作業の第2報である。前回(第56回大会)の報告(第1報とする)では、エスニックマイノリティが社会的排除を受けている人々を包含したanti-oppressive practice等の幅広い枠組みの中で論じられてきており、全米ソーシャルワーカー協会(以下、NASW)「Indicators for Cultural Competence in Social Work Practice:ソーシャルワーク実践における文化的専門能力の基準」において、Multi Cultural Competenciesという指標を提示していることが明らかとなった。それらの指標と教育内容との連動性の有無等が課題として残った。
 本報告(第2報)においては、第1報の課題を踏まえ、北米のGeorge Warren Brown School of Social Work, Washington University in St. Louis(以下、Brown School)及び実習施設を訪問し、多文化やエスニシティに関わる理念や指標などが、教育現場においてどのように教授されているのかを明らかにすることを目的として行った研究結果を報告する。

2.研究の視点および方法

 エスニシティや多文化に関わる理念や指標などがどのように教授されているのかという視点から主に5つの調査を実施した。(1)Brown SchoolのMSWコースの訪問・聞き取り調査(調査内容:①教育カリキュラム、②シラバス、③テキスト、④実習プログラム、⑤実習配属のプロセス、⑥実習施設・機関の種類、⑦実習施設の実習指導者の資格及び役割等)。(2)実習施設・機関の訪問・聞き取り調査。(3)科目「Human Diversity」の担当者への聞き取り調査。(4)実習指導クラス(Foundation Practicum Integrative Seminar)に参加。(5)留学生への聞き取り調査。

3.倫理的配慮

 引用にあたっては日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守し、必要に応じて日本社会事業大学研究倫理委員会に指導を受けプライバシー等、人権侵害がないよう適切に進めた。

4.研 究 結 果

 研究結果の要点は以下のとおりである。
(1) ソーシャルワーク教育協議会の認定基準と多文化に対応したカリキュラム
 ソーシャルワーク教育協議会(CSWE)の認定基準に基づき多文化カリキュラムを編成し、シラバス等を作成している。CSWEはソーシャルワーク教育のスタンダードの構築と維持を目的としてソーシャルワーク教育者、専門機関及び組織、学際的機関によって設立された組織であるため、日本のソーシャルワーク教育にエスニシティを包含した多様性の観点と多文化に対する視点の導入及び教育方法やカリキュラムの整備に活用することができる。
(2) エスニシティを包含するHuman Diversityのソーシャルワーク教育における位置
 Brown SchoolのMSWコースに設置されている科目「Human Diversity」ではoppression、privilege、social class、disability、sexual orientation、poverty、bias、stereotypes、 obfuscation、institutionalize violence、social construction of difference、discrimination、 economics of raceなど、幅広いテーマを扱っていることが明らかになった。これら「多様性」を構成する具体的要因をソーシャルワーク実践のエビデンス(evidence based practice)として教授している。エスニシティは多文化ソーシャルワーク教育の一部である。日本における多文化を視野に入れた教育内容と教育方法を構築する上で重要である。
(3) NASW「Indicators for Cultural Competence in Social Work Practice」とソーシャルワーク教育との連動性
 第1報では、NASWの「Indicators for Cultural Competence in Social Work Practice」がエスニシティを含めた人の多様性に対応することが可能な人材養成をするための教育のツールであり、枠組みであるという結果を導き出した。しかしながら、今回の調査を通じて、実習教育指導において意識されていないことが明らかになった。しかしながら、文化的コンピテンスの把握と向上のための自己覚知トレーニングマニュアルを作成し、訓練を実施するなどの取り組みも確認された。
 以上のことから、職能団体が作成したコンピテンスなどの指標や教材の活用方法が課題になることが明らかになった。今後、日本においてhuman diversityを包含した教育教材の開発ならびに現場と教育との連携体制や方法の構築につなげていくことができよう。
 付記:本研究は平成20年度文部科学研究費補助金(若手研究B)〈課題番号:19730370〉の研究成果の一部である。

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