自由研究発表社会福祉教育・実習1  岸野 靖子

社会福祉士実習生の共感疲労及び危機管理対策の実態
-社会福祉士実習生の共感疲労及び危機管理対策に関する
  アンケート調査報告-

 ○ 日本社会事業大学  岸野 靖子 (会員番号6366)
日本社会事業大学  宮島  清 (会員番号6344)
日本社会事業大学  添田 正揮 (会員番号7092)
日本社会事業大学  黒川 京子 (会員番号7186)
キーワード: 《社会福祉士実習》 《共感疲労》 《危機管理》

1.研 究 目 的

 少子高齢化が急激に進み、世界的経済危機の中で、失業者やホームレス・うつ病や自殺者の急増が社会的な問題となり、即戦力となる実践力を有する社会福祉士の需要が現場からますます高まってきているが、一方で、最近の学生の動向として、福祉現場に就職しない学生が急速に増えてきており、実習教育指導の内容が社会的に大きく問われてきている。特に社会福祉士及び介護福祉士法の法改正によって新カリキュラムが2009年度4月から新たにスタートしており、実習指導の質の向上や実習指導体制の充実が課題とされてきている。
 実習教育指導の実態調査については、平成13年度長寿・子育て・障害者基金福祉等基礎調査『社会福祉専門職における現場実習の現状とこれからのあり方に関する調査報告書』や平成14年度『社会福祉専門職による現場実習教育に関する研究』(厚生労働科学研究費補助金政策科学推進事業)が取り組まれてきているが、実習前後のスーパービジョン体制や学生の評価システムについて調査分析したものである。実習生の声に焦点をあて、共感疲労などの実習でのストレス・心身の不調や危機管理対策について、実習生・実習先・養成校の三者の立場から調査結果を分析した論文はみあたらない。
 本研究では、社会福祉士実習生・養成校・実習先による三者のアンケート調査の分析から、社会福祉士実習生における実習中の共感疲労などの実習疲労と危機の実態を明らかにし、実習教育指導と個別支援の課題について考察することを目的とする。

2.研究の視点および方法

 実習生・実習先指導職員・養成校教員に、実習中の共感疲労などの心身の不調や危機について、自記式の調査票を作成し、アンケート調査を実施した。分析は、自由記述分についてはテキストマイニングを使用した。
 ◆社会福祉士実習生アンケート調査
 本学社会福祉学部及び専門職大学院における社会福祉士実習生(236名)に、アンケート調査(別紙1)を2008年12月実施し、有効回答228名(回収率約96%)だった。
 ◆実習先アンケート調査
 2009年1月~2月、本学が社会福祉士受験資格取得のための実習依頼をしている社会福祉施設(児童、障害、高齢者福祉等の入所及び通所施設)及び相談機関(福祉事務所、児童相談所、市区町村社会福祉協議会)の100ヶ所に調査票を送付し、71ヶ所の実習指導職員より回答あり、回収率は71%だった。
 ◆養成校アンケート調査
 2009年1月~2月、全国の社会福祉士養成校の現場実習担当教員191校にアンケート調査を行い、有効回答75件(回収率39.2%)だった。

3.倫理的配慮

 調査の際は、調査対象者に協力依頼文書にて回答の強制を行っていないこと、プライバシーの遵守、得られたデータは本研究の目的のみに使用することなどを約束し、無記名で回収した。

4.研 究 結 果

 実習生のアンケートの結果からは、「実習を行った際、このままでは実習が続けられないと思ったことがあった・少しあった」学生は21.7%であった。その内容は、「実習先の指導者との関係」が最も多く33.3%、次いで「自分自身のこと」21.4%、「利用者との関係」15.5%、「業務内容そのもの」13.1%だった。職員と関係では「職員が多忙で指導してもらえなかった」、「一方的に否定されて自信を失った」等の回答が見られ、実習生の気持ちや思いと指導職員との間のズレが影響していることが示された。また、指導職員との関係悪化をあげている実習生の中には、「居場所がない」、「利用者とのコミュニケーションも図れなかった」などの複数の要因が重なって悪循環を起しており、不安や悩みを指導職員に相談できずにいたことが示された。一方で、指導職員や教員に相談できた学生は問題が解決していた。
 実習先のアンケートでは、危機の発生があったのは16.4%だった。その理由としては、主には実習生本人に関するものだった。実習生と利用者との関わりで共感疲労・バーンアウトなどの心身の不調やストレスは22.7%であり、原因としては、コミュニケーション能力の低下や利用者理解の弱さが課題としてあげられた。事後対応としては、実習指導職員が利用者との関わりについてふり返り、スーパービジョンを丁寧に行ったり、養成校教員の巡回時のフォローで危機を乗り越えた例が多く記入されていた。
 養成校アンケートでは、実習中断・中止や個別支援の主たる要因は、①メンタルヘルス、②職員との関係悪化、③実習生の意欲低下、④疾病・怪我だった。実習生の共感疲労などの心身の不調の内容としては、目的意識が不明確な学生やメンタル面で課題を抱える学生が増えてきており、深刻化してきていることが強調されていた。実習教育の課題としては、①危機予測として学生の心身状態の把握、②事前学習での目的意識の明確化、③利用者理解やコミュニケーションの能力の向上、④実習指導者との密な連携と調整、⑤学生同士のピアサポートの育成が考察された。

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