自由研究発表社会福祉教育・実習1  笠原 千絵

社会福祉専門職養成教育における学びを深めるためのサービスラーニング
-導入と振り返りの方法に焦点をあてた3年間の取組みの分析-

関西国際大学  笠原 千絵 (会員番号4591)
キーワード: 《サービスラーニング》 《振り返り》 《ルーブリック》

1.研 究 目 的

 学生の学力や就職意欲低下といった日本の高等教育の課題は,社会福祉専門職養成教育にも様々な形で現れている.日本社会福祉士養成校協会は新カリキュラム導入にあたり,演習・実習教育の充実を目指しながらも,「学生の知識面での水準については,社会福祉士試験で担保されており,試験に合格できる人材を育成していくことが各社会福祉士養成校及び本協会の一つであるといえる」として,教育水準の向上を課題としている.一方国家試験に耐えうる知識獲得を意識した授業運営は,受験勉強のための専門教育といった極端な認識を招くリスクも伴う.また厳しい経済状況も影響し,社会福祉を学ぶ学生もボランティア等の体験よりアルバイトを,そして職業も社会福祉以外の業種を選択することが増えている.
 そこで本研究では,近年注目を集める教育手法の一つである「サービスラーニング」(以下SL)に着目する.SLは学生のボランティア活動を正式にカリキュラムに取り入れ,学生が社会活動に積極的に参加し,地域社会から学び社会に対する責任の一端をになうことができるようにすることを目的とし(佐々木 2004),その本質は「市民性の育成」,「省察」,「知的能力の開発」の3点に集約される(中留・倉本2001).学生が進路選択時の動機を維持し,福祉「現場」のリアリティを理解しながら学習に主体的に取り組むための方法としても有効と考える.

2.研究の視点および方法

 報告者が2007年度から2009年度にかけて試行したSLを取り入れた授業について,(1)授業のカリキュラム上の位置づけ,(2)サービス活動の内容,(3) 振り返り(省察,リフレクション)の方法,(4)成績評価の方法,(5)学生による評価等の観点から比較を行い,SL導入に向けた課題を明らかにする.
 なお2007年度と2008年度は,それぞれ「専門演習Ⅱ」(3年),「専門演習Ⅰ」(2年)というゼミで,卒論執筆に向けた研究方法と地域生活支援の理解を目的とし,参加型調査を取り入れた「障害児者の防災教育プログラムの開発」に取組んだ.また2009年度は,「社会福祉援助技術演習」(3年)において,利用者の特性に応じたコミュニケーションの理解を目的とし,学外のボランティア活動を演習の学びの視点から振り返ることに取り組んだ.いずれの授業もSL活動の位置づけ,評価方法,配点等をシラバスに明記した.

3.倫理的配慮

 受講者名やSL活動の協力者・機関名を特定できないように配慮する.

4.研 究 結 果

 SLの導入に向けた課題の第1に,SL活動の時間や回数,活動先といった方法や学生の動機付けを含めた授業全体の構造がある.例えば授業,アルバイト,クラブ活動等で多忙な学生の活動時間の確保は難しい.そこで2007年度は学生の希望も取り入れ,ゼミの時間も活用してSL活動を行ったが,課外活動では参加者が減り,事前説明にも関わらず「ゼミでこんなことをするとは思わなかった」との意見もあった.一方2008年度は,課外活動にも関わらず学生はほぼ全ての調査活動に積極的に参加した.具体的な進め方については学生同士の話し合いを通じて,自分たちで考えるように促したことが改善と成果につながった可能性がある.2009年度は,シラバスに示した活動の期限と回数を最低条件とし,内容や場所の選択は学生に任せ,活動での学びを授業のテーマと結び付けて振り返る方法とした.しかし消極的な学生も多く,学期の途中で活動先のリストを提示することになった.
 参加が形式的に留まるのは,与えられた課題を個々の関心に照らして一般化するに至らない場合や,既に専門科目への関心を失っている場合などがあり,活動を「やらされているもの」と感じているからと考えられる.単位付与や成績の条件という外発的動機付けによる方法は,SLにおける「市民性の育成」の観点からは課題が残るが,消極的な学生の活動を促すためには有効であり,初年次からのSLの導入,学年進行に伴う構造化の度合いの変化等工夫が必要であろう.
 課題の第2に,学習成果を得るためにどのような「振り返り」を組み込むかということがある.2007年度の振り返りの方法は「ディスカッション」,「話す」が中心だった.比較的手軽に,かつ体験の記憶が新しいうちに気づきを素早く言語化できたが,文章化まで求めなかったため,学びの内容を形に残すには至らなかった.この反省をふまえ,2008年度は「レポート」,「書く」を導入した.話すことに比べ,レポート作成は時間をかけて自己と向き合う作業である.課題としての強制力がなかったこともあってか提出者は半数に留まったが,各自の観点から学びを深めることにつながった.2009年度は学習目標や振り返りの視点は事前に伝えておくほうが効果的であるとの観点から,振り返り,すなわち学びの視点と達成度を点数化した評価基準である「ルーブリック」を導入し,ほぼ毎授業後ワークシートまたはミニレポートを提出させた.
 ジェネリックスキルの習得に比べて効果があまり見られなかった専門知識の深化については,振り返りの方法に課題があったと思われる.とりわけ参加型調査の場合,振り返りには,唐木(2004)の指摘する「話す」,「書く」に加え「為す」という方法を取り入れることになったが,不足していたのは「理論的学習者」に特に有効とされる「読む」という方法だったのである.「知識面での水準」の向上には,講義科目へのSLの導入と,授業で使用する文献教材の活用が有効であると考える.

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