自由研究発表地域福祉1  大河内 雅司

住民参加の段階を上げていく手法の研究(その2)
-4つの手法の実践的な研究-

アルパック㈱地域計画建築研究所 大河内 雅司(会員番号6709)
キーワード: 《地域福祉計画》 《住民参加の段階》 《住民参加の手法》

 

1.研究目的
 地域福祉計画において、住民主体による計画策定やその実践が問われている。
 そこでは住民主体実現に向けた参加のデザインが求められているが、「住民参加の段階(成熟度)を測る評価スケールがない」「アセスメントに基づく手法の選択ができていない」といった問題があった。そこで、これまでの研究において住民参加を測る6段階のスケールを提案し、事例でスケールの妥当性を検証した1)

 表 住民参加の6段階スケール

 一方で地域福祉計画の手法については、さまざまな先行研究や文献があり2,3,4)。筆者も直接・間接参加の視点で論じたことがあるが5)、手法論が一人歩きしており、住民参加の段階を上げていくという視点でそれらの総合的な効果分析が求められているのではないか。
 このことからこの論文では、住民参加の段階を上げていく主な手法について、実践的な視点から整理し、それらの効果や課題について概観することを目的とする。

2.研究の視点および方法
 筆者がその実践を支援してきた事例から、経験的に有効と思われる手法を抽出した。計画策定及びその実践過程を5つの要素で捉え、それぞれの手法を位置付けた。

 表 手法の目的と位置付け
   

 手法によって住民主体の形成が進み、参加の段階が上がるものと仮説をたてて、活動の節目に実践にあたる住民を対象にアンケート調査を実施し、取り組み(手法)に対する評価を求めた。


 表 住民参加の段階を上げていく手法

 

3.研究結果
(1)住民が主催する懇談会
 住民が主催する懇談会は、参加の呼びかけから運営まで住民自身が行い、生活課題を把握する手法である。成果として、参加者を通じて人のつながりが広がるとともに、課題の共有が解決に向けたエネルギーとなることが期待できる。一方で、

世話役への負担を軽減することや、出された意見を実践へつなげていくことが課題となる6)。

(2)資源マップづくり
 資源マップづくりは、人・もの・金などの地域福祉に関わる資源を住民ならではの視点で収集、マップ化する手法である。課題解決に活用できる資源を客観的に整理、共有することができ、足らずの資源が明らかになる。「「敬老会で配布できてよかったです。」「見える所に貼っている。」「民生委員さんがわかっていいわ。」と声をかけられたので、役に立っているのではと思いました。」といった声がある一方で、「個人情報保護が大きな壁になっている。」「身近な人が利用しているように思われない。どこかにしまっているように思う。」「マップづくりをどう生かすかが課題。ひとつの通過点。またメンテをどのようにするか(いつ誰が、そして広報)?」といった意見にみられるように、広報や普及、データの更新、問題解決につなげていくこと等が課題視されている。
(3)住民によるアンケート調査
 住民によるアンケート調査は、テーマを絞り込んだ課題について実態やニーズを把握する手法である。住民自らが動くことによって課題をPRでき、配布回収や調査費の支援などの際に自治会等の協力を得ることで人がつながっていく。「全世帯対象にアンケートをお願いし、回答世帯も多く関心をもってくれた。」「アンケート結果を住民に返すことが出来ました。」といった意見が

ある一方で、マップづくりと同様に問題解決につなげていくプロセスづくりが課題視されている。
(4)地域劇仕立ての情報発信
 地域劇仕立ての情報発信は、高齢者や子どもなどに地域課題を分かりやすく伝える手法である。顔なじみが劇に登場することで参加の輪が大きくなり、課題の共有が広がっていく成果が期待できる。一方で、シナリオの作成や演出など一部の人への負担が大きくなりがちで、無理のない継続が課題となる。

4.結 論
 計画策定やその実践において住民参加の段階を上げていく主な手法について、実践的な視点で整理した。今後の研究において、①それぞれの手法の有効性を掘り下げて検証することとあわせて、②住民参加の状況に応じた手法選択(しくみ)の検討について、研究を進めていきたい。

5.倫理的配慮
 研究倫理指針に基づき匿名性を守ること等の配慮について説明し、A市、S町の担当者に研究発表の承認を得た。


1)「計画策定にとどまらず実践を支える住民参加の研究 ―住民参加の6段階スケールの提案と検証―」大河内雅司 日本地域福祉学会第22回大会 2008
2)「地域福祉推進のための住民ワークショップガイド」 横浜市社会福祉協議会 2003
3)「参加型実習指導ワークブック NO.9社協ワーカーへの途」 牧里毎治・加山弾・高杉公人 関西学院大学出版会 2005
4)「ワークショップ 住民主体のまちづくりへの方法論」 木下勇 学芸出版社 2007年
5)「これからの地域づくり」とはどうあるべきか 第4回「福祉の計画づくりにおける住民参加の挑戦」 アルパック㈱地域計画建築研究所 大河内雅司 ひょうご自治2003年7月号
6)「住民参加の段階を上げていく手法の研究(その1) ―住民が主催する懇談会の研究―」大河内雅司 日本地域福祉学会第23回大会 2009

 

 

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