ポスターセッション障害(児)者福祉  柳沢 君夫

身体障害者施設における地域交流
 -児童館・保育園児への影絵公演をとおして-

○ 弥生福祉作業所  柳沢 君夫 (会員番号6940)
キーワード: 《身体障害者》 《地域》 《影絵》

1.研 究 目 的

X施設地域活動支援センター(身体障害者デイサービス)の利用者による影絵劇団は、2006年度に近隣児童館2回、保育園児に1回、計3回の影絵公演を実施した(2009年第57回大会発表)。2007年度の影絵劇団は、新メンバー2名が加入し、地域の児童館で、X施設内で保育園児に、計8回の公演を実施した。2年目の活動を通して、地域の子ども達との交流の促進、演者である身体障害者のエンパワメントの向上が認められたと思われた。本報告ではこの実践を検討し、上記2つの点について明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法
(1)劇団員紹介
   Aさん:男性27歳 1種1級 頭部外傷による機能障害
   Bさん:男性27歳 1種2級 疾患による機能障害
   Cさん:男性46歳 1種1級 脳出血による機能障害
   Dさん:女性38歳 1種1級 脳出血による身体機能障害
   Eさん:男性36歳 1種1級 脳出血による身体機能障害・失語症
(2)影絵の題材及び演じ方
  影絵の題材は、子ども向きの絵本から採用した。筆者が影絵を製作し、その影絵をOHP上で操作し、スクリーン上に投影する方法を取った。さらに演者は、筆者が絵本を参考にして作成した台本に書かれた台詞を影絵の動きに合うように言うことにした。 

3.倫理的配慮
  5名の劇団員には研究の趣旨を説明し、発表について文書にて承諾を得ている。 

4.結 果 

日時 公演場所 対象児 演目
2007年7月 X施設 F保育園3・4・5歳
約50名
「おにのふんどしちょいとぬえるかい」
「おむすびころりん」
「どろぼうがっこう」
2007年7月 G児童館 小学校1~3年生
約30名
「おにのふんどしちょいとぬえるかい」
「おむすび ころりん」
「どろぼうがっこう」
2007年9月 H児童館 小学校1年~4年生
約40名
「おむすび ころりん」、「じゅげむ」
「どろぼうがっこう」
2007年11月 I児童館 小学校1~3年生
J保育園児
地域の幼児と保護者
約60名
「おにのふんどしちょいとぬえるかい」
「たべられた やまんば」
「どろぼうがっこう」
2007年12月 X施設 F保育園・K保育園児
約100名
「かさじぞう」、「ももたろう」
「じごくのそうべい」
2007年12月 G児童館 小学校1~3年生
幼稚園児と保護者
約30名
「かさじぞう」、「ももたろう」
「じごくのそうべい」
2008年2月 I児童館 小学校1~4年生
約60名
「ももたろう」、「ないたあかおに」
「モチモチのき」
2008年3月 L児童館 小学校1~3年生
約30名
「ももたろう」、「たべられたやまんば」
「おにのふんどしちょいとぬえるかい」

5.考 察
(1)影絵公演による子ども達との交流の可否について  

8回に及ぶ影絵公演の様子から、子ども達が、「ももたろう」の歌を自発的に演者と一緒になって歌う行為がみられた。さらに、「じゅげむ」の影絵における「じゅげむ」の名前を演者と子ども達が一緒に言うことや、「どろぼうがっこう」の「生徒」の掛け声「はーい、へーい、ほーい」も子ども達が一緒になって言っていた。また、影絵のお礼としてF保育園児による踊りと歌のプレゼントは、演者達を喜ばせた。そして児童館側からの影絵公演のオファーがあったことと、3つの保育園が影絵公演の誘いを受けたことは、児童館と保育園側が、この影絵公演を子ども達に面白いものであると同時に、身体障害者との交流の機会として子ども達に必要なことであると認識していたと考えられる。事実、各児童館のお知らせには、影絵公演の日時だけでなく、身体障害者と子ども達の交流の大切さを掲載していた。以上より、この影絵公演は、X施設を利用する身体障害者と地域の子ども達との交流に有効な手段の一つとして示されると考えられた。

(2)演者のエンパワメントについて  

AさんとBさんは、今まで子ども達との関わりはなかったが、影絵公演前後には、必ず子ども達が彼ら二人に集まり、子ども達の人気者になった。Cさんは、閉じこもり傾向があったが、演者になって以来、積極的に地域の児童館を回り、影絵公演の説明と公演打診をしてくれるようになった。Dさんは、影絵劇団参加を契機に、子ども達との関わりの楽しさを表明し、子どもに対するボランティア活動をしたいと表明するようになった。Eさんは失語症のため、人前で話すことを嫌っていたが、自ら影絵劇団入団を希望した。しかし練習中では台詞を上手に言うことはできなかったが、Dさんと一緒に自主練習を重ね、本番では、台詞をきちんと言えるようになっていった。このように影絵劇団の活動と影絵公演を通じて、演者5名が変化を示し、彼らのエンパワメントを高めたと考えられた。 

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