知的障害者の自立を支える支援・制度・政策の関係について
-カナダ マニトバ州の取り組みから-
○ 東洋大学大学院 木口 恵美子 (会員番号6371)
キーワード: 《地域生活》 《個人予算》 《サポートネットワーク》
障害をもっていても、適切な支援や配慮があれば障害を持ちつつ地域で自立して生活することは可能である。常時介護や見守りを必要とする障害者が、地域では必要な支援を受けることが困難なため、生活の場を選択できない境遇に置かれることはやむを得ないことであって、差別ではないのだろうか。障害を持つ人が当たりまえに地域生活を送ることに対する壁や差別は、家族や親族、行政、地域、福祉関係者、就労先、周囲の無理解や偏見、資源の問題等、様々な問題が複雑に絡み合っているため、差別を行う側を明確にすることが困難で、配慮を要求する相手、対象、範囲等を特定しにくく、解決も困難である。国連障害者の権利条約第19条には、障害を持っていても地域社会で生活することを権利として認め、障害を持つが故に施設等に生活することが、義務として正当化されてはならないことを示している。日本も批准に向けて、知的障害者の自立した地域生活への取り組みを検討する必要があると思われる。
2.研究の視点および方法これまでにも、カナダ マニトバ州の法律や事業に着目し、知的障害者の地域生活について検討を行ってきた。今回は、マニトバ家庭サービス局から出されたダイレクトペイメントの試行事業の報告書をもとに、あらためて、支援と制度及び政策(法律)の関係についての考察を行う。このことで、障害者が地域社会で自立した生活を送るために必要な支援や配慮、それらを確保する上での行政の役割等が明らかになるであろう
3.倫理的配慮現地NPO代表者より事業・資料等公表の了解を得ている。日本社会福祉学会研究倫理指針に基づいて行った。
3.研 究 結 果
(1)知的障害者の地域での自立生活を支える要素
・資金
行政から個人予算に基づいた個人への資金提供のしくみがある。これは"In the Company Of Friends(ICOF)"という名称の事業であり、現在はNPOが運営している。
・人間関係
① ポートネットワーク:家族や友人等無給のボランティアからなるチームで、ICOFを利用するためには、複数人のサポートネットワークを持つことが条件とされている。
② 介助スタッフ:直接介助を行うパーソナルアシスタントで、障害を持つ本人と雇用関係を持つ。リーダーは、サービス全体を把握し個人計画に沿ったサービスを提供する。本人の日常生活に重要な役割を持つ。
③ リソーススタッフ:ICOFを運営しているNPOの事業所のスタッフで、個人のニーズに基づいた個人予算計画の作成、行政への申請、モニタリング、行政への報告、サポートネットワークの構築と維持、個人計画作成の支援、介助スタッフの研修等、多岐にわたって本人の生活全般に関する相談支援を行う。
(2)知的障害者の地域での自立生活を支えるシステム
ICOFは、州の家庭サービス消費者局(Family Services and Consumer Affairs)の生活支援事業(Supported Living Program)の中に、居住サービス、デイサービス、送迎、レスパイト、危機介入、医療サービス等と共に、選択可能なself-directed serviceとして位置付けられている。これらのサービスの利用者は、「知的に障害を持つ傷つきやすい人の法律(The Vulnerable Persons Living with a Mental Disability Act)」に定められたバルネラブルな人とされている。法律はサポートサービスについて、家庭サービス消費者局を通して提供されるサービスやその他のサービスを提供することを定めている。この法律は、サポートサービスと共に代行決定や虐待からの保護も定めた、権利を擁護する法律であり、地域生活を権利として位置付けていると考えることができるだろう。そして、個人予算は生活を全体として捉えて支える仕組みとして捉える事が出来る。
本研究では、平成22年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業):障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究-諸外国の実態と制度に学ぶ障害者自立支援法の可能性-における研究協力者として研究費の補助を受けている。