障害のある人の健康増進支援のあり方に関する研究
-福祉施設管理者および行政機関に対する聞き取り調査結果-
○ 東北福祉大学 千葉 伸彦 (会員番号6188)
東北福祉大学 三浦 剛 (会員番号1684)
東北福祉大学 富樫 亜紀子 (会員番号4635)
東北福祉大学 阿部 一彦 (会員番号3623)
キーワード: 《障害のある人の健康》 《ポジティブヘルス》 《社会参加》
ICF(国際生活機能分類)において、活動制限や参加制約と障害、健康との関連性が明確に示され、障害がある人の健康と社会参加の関係は一層深いものとなっている。健康に関する概念も、病気にならないという視点から、社会活動への参加、「元気」といったポジティブヘルスへ展開してきた。加えて「健康日本21」には、「社会全体としても個人の主体的な健康づくりを支援していくことが不可欠」と述べられており、各地域における健康づくり支援のための環境整備が推進されている現状がある。
障害がある人への健康増進のための支援は、これまでもその必要性は述べられてきたが、ニーズや支援の実態に関する詳細な研究は少なかった。
このような背景から、本研究は、障害がある人への健康増進支援のためのニーズとそれに対応する支援方策を検討するために、障害がある人の健康増進のための直接的な支援者および施策担当行政機関からのヒアリング調査を実施した。具体的には、利用者の健康に関するニーズをどのように把握しているのか、また支援の現状と問題点を整理し、実態を把握することを目的とした。
対象は、A県B市の障害者福祉に関わる①支援管理者(障害当事者支援団体会長A、知的障害者福祉施設長B)、②行政機関(4機関)を対象としてヒアリング調査を行った。調査期間は平成22年1月27日~3月25日、各1回2時間程度で、各施設・各機関にてヒアリングを実施した。
支援管理者には個別ヒアリングを実施し、「障害者の健康について」「障害者家族の健康観について」「健康と社会参加の関連性」「自己管理チェックリストの活用と利点について」「制度上、健康増進支援サービスとして不足している点」等について尋ねた。また、行政4機関にはグループインタビューを実施し、「これまでの健康増進サービス利用者およびニーズの変化と対応状況」「健康増進ニーズに対する現状(具体的対応)と課題」「関連機関・施設との連携の現状と問題点」について尋ねた。
日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守し、本研究を実施した。なお、支援管理者および行政機関には、本調査で得たデータを研究で使用することについて事前に了承を得た。
4.研 究 結 果
それぞれの立場からの語りを重視するという観点から、ヒアリング内容を逐語記録として作成し分析を行った。直接支援に携わる支援管理者、そして支援行政を担当する4機関からの聞き取り結果は以下のようにまとめることができる。
(1)「健康」ニーズのとらえ方
利用者のニードを病気予防のみならず、「活動への参加」のニードととらえる。
(2)健康増進のための支援の現状とあり方
①現状において、あるいは(1)のようなニードに対応していこうとしたとき、その情報の集約、提供を中心とした支援システムが必要である。
②参加する活動、社会関係資本の整備が必要(「地域」という単位での見直し)である。
③量的にも不足している部分、移動支援のサービスや施設における余暇メニューについては強化していくことが必要である。
④(1)と関連して、社会参加、「元気」を指標とした健康管理ツールの必要性と利用可能性についても一定の結果が示され、今後検討を続けていく必要がある。
(3)健康増進サービスの具体的方策
具体的方策として、「健康増進サービスに関する 情報の集約、提供」、「関係機関、施設のコーディ ネート」、「健康増進サービスの「拠点づくり」」の 必要性がある。図に示したように、「健康増進サー ビスの情報提供およびコーディネート機能」と、 「健康増進サービスの提供・実施」は階層的特徴 を持ったシステムを構築する。
具体的には、障害者支援に関わる行政機関が、健康増進サービスに関する情報を集約・加工し、障害者およびその家族のニーズに応じたパッケージングを行い、情報の発信・提供を行っていく。また、健康増進サービスに関わる相談対応(情報提供、紹介、連絡調整、連携等)等のコーディネート機能を併せ持つ拠点としての役割を担う。健康増進に関する情報の一元化と健康増進相談のワンストップサービスのシステムを構築する。実質的な健康増進サービスについては、既存の健康増進に関わる機関や福祉施設・諸事業所等が提供・実施する。今後は、利用者側のニーズ調査を実施し、より具体的な健康増進支援の方策を検討し、行政機関と協働で健康増進システムを構築する計画である。〔本研究は、東北福祉大学感性福祉研究所における文部科学省の戦略的研究基盤形成支援事業(平成21年度~平成23年度)による研究の一部である。〕