障害者福祉における知的障害者支援のオリジナリティの探索
-自立生活運動による「自立」との比較-
○ 和歌山大学 古井 克憲 (会員番号5149)
キーワード: 《知的障害者》 《自立》 《自立生活運動》
障害者自立支援法において、身体障害・知的障害・精神障害の3障害共通の障害程度区分認定調査が行われるようになった。この調査に対して知的障害者の支援現場からは次のような批判が起きた。日常生活動作を中心に構成された106項目のアセスメントでは、身体機能に制約の少ない知的障害者の希望や生活上の困難を把握できない。結果的に知的障害者の障害程度区分は低くなるため、各々に十分な支援を提供することができなくなる。このような実践上の問題から、知的障害者に対して必要な支援を提供するためには、障害者福祉における知的障害者支援のオリジナリティについて検討することが重視される。最近では、寺本晃久ら(2008)が『良い支援?―知的障害/自閉の人たちの自立生活と支援』において、身体障害者支援と比較して知的障害者支援のオリジナリティについて取り上げている。
日本の障害者福祉の制度上では、支援費制度にみられるように、身体障害と知的障害とは同じ枠組みでサービス提供がなされてきた。障害者福祉における支援の考え方は、自立生活運動から生まれた自立概念の影響を大きく受けている。「親元や施設ではないところで生活すること」「地域で、自ら介助者をコーディネイトして、自分が望む生活を送ること」「自己決定権の行使によって自己選択をすること」である。これらの自立概念と比較して、先述の寺本ら(2008)も知的障害者の自立とその支援について論じている。
以上のように、自立生活運動による自立概念は、知的障害者支援のオリジナリティを比較検討する上での一つの視点として用いられている。しかしながら、比較される際の障害者観や、両者の支援の共通点や相違点について十分に検討されているとはいえない。
したがって本研究では、自立生活運動による自立と比較した知的障害者支援の内容について分析し、障害者福祉における知的障害者支援のオリジナリティについて検討することを目的とする。
知的障害者の自立やそのための支援について論じた文献(例:寺本ら 2008・西村2005・西原 2006など)から、自立生活運動による自立概念と比較して、知的障害者支援について論じている箇所を抜粋する。抜粋箇所から、身体障害者観や知的障害者観、両者への支援の共通点や相違点を分析する。
3.倫理的配慮本研究は主に先行文献の整理・分析を行なう。先行文献、引用等については日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を遵守する。
4.研 究 結 果(1)〈知的障害者の「自立」=自立生活運動による「自立」の延長上+「支援」〉
自立生活運動を担うような全身性身体障害者や知的障害者は、親元や施設生活で著しく制限され、管理された生活を余儀なくされている。ゆえに、知的障害者の自立とそのための支援は、自立生活運動による「親元や施設ではないところで生活すること」という自立とそのための支援と共通している。自立生活運動による自立の延長上に、〈自己決定が困難な知的障害者〉には「支援」が必要であると捉えられている。ただ、自立生活運動による自立は、身体障害者の単身生活を想定しているが、知的障害者はグループホーム・ケアホームでの生活も自立生活に含めて論じられている。
(2)〈自己決定可能な身体障害者〉と〈自己決定が困難な知的障害者〉との対比
近年、障害者福祉において、自己決定至上主義への批判論が提起されている。そこでは、自己決定を自立の要件とすることが、〈自己決定が困難な知的障害者〉を自立から排除する恐れがあると論じられている。これらの論の中には、〈自己決定が困難な知的障害者〉と対比して、「先の見通しをもつことができる」「自分で介助者をコーディネイトできる」といった〈自己決定が可能な身体障害者〉イメージが内在している。
(3)自立生活運動による自立と比較して知的障害者支援のオリジナリティを問うことの限界
分析の結果、知的障害者支援のオリジナリティは、障害者福祉における〈自己決定が困難なケース〉に対応することであると整理することができる。
しかしながら、杉野(2009)は、〈自己決定が困難なケース〉は、身体障害者にも見られるため、障害種別や障害の有無にも関わらない普遍的な課題であると述べている。このことからして、自立生活運動による自立と比較して知的障害者支援のオリジナリティを模索することは、〈自己決定が可能な身体障害者〉に身体障害者のイメージを固定したうえで成立するという限界をはらんでいる。