ポスターセッション障害(児)者福祉  加瀬 進

発達障害者を対象とした相談支援事業のあり方に関する研究Ⅰ
 -発達障害版相談支援事業振り返りシートの作成を中心に-

○ 東京学芸大学  加瀬 進 (会員番号1993)
キーワード: 《発達障害》 《相談支援事業》 《振り返りシート》

1.研 究 目 的

障害のある方が地域で安心して自立生活を送っていくためには、障害のある方が日々の暮らしの中 で抱えているニーズや課題にきめ細かく対応し、必要応じて適切なサービス等に結び付けていくため の総合的な相談支援を行う体制の整備が喫緊の課題である。しかし、この中では、昨今相談件数が増 え、かつ困難事例も多い発達障害者の支援について、具体的な方策は提示されていない。そこで、本 研究では、支援を必要とする発達障害者をどのような窓口で受け止め、どのような機関が連携して支 援を進めればよいか検討し、地域の相談支援体制に発達障害者支援を組み込むモデルを提示すること ための基礎作業として、相談支援業務のプロセスに応じ、特に発達障害者の相談支援を行う際に留意 すべき事項を明らかにすることを目的とした。 

2.研究の視点および方法

(1)「発達障害版振り返りシート(暫定版)」の作成
 日本相談支援専門員協会版の「相談支援振り返りシート」のうち、「Ⅰ個別ケースに対する相談支援」 5項目(インテーク・アセスメント・個別支援会議の開催・個別支援計画の作成・モニタリング)及び「Ⅱ地域全体をデザインする相談支援」4項目(地域のニーズ把握・ネットワークの構築・地域診断・社会資源の改善/開発)合計9項目の細項目それぞれについて、「発達障害ゆえに特別に留意・配慮すべき事項」の検討欄7 領域(①本人の受容、②家族の受け止め、③支援の順序・組み立て、④障害特性への配慮、⑤相談支援へのチャンネル(掘り起こし、連携)、⑥相談継続への配慮、⑦その他)を設け、研究協力者にたたき台となる第一次シートの作成を依頼した。この第一次シートをもとに研究協力者に10 項目7 領域を分担し、書き込みを依頼し、集約~協議~担当者を変えての再書き込み~協議というブラッシュアップ作業を行い、「発達障害版振り返りシート(暫定版)」を作成した。
 (2)「発達障害版振り返りシート(暫定版)」の妥当性に関するアンケート調査
  暫定版を全国79カ所の発達障害者支援センターに対して照会をかけ、項目・内容の妥当性についてアンケート調査を行った。なお、アンケート調査は「発達障害版振り返りシート(暫定版)」に意見をいただく欄を設けた調査シートと回答者の基本情報を記入いただくシートで構成した電子ファイルを作成し、これを研究代表者のHP からダウンロード頂き(依頼文は別途郵送)、電子ファイルで回答を送付頂くという手順をとった。調査期間は2010年2月1日~2月12日で、全国の発達障害者支援センター79箇所に送付し、25 箇所から回答を得た。回収率は31.6%である。 

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会・研究倫理指針の「第2 指針内容」の「C 調査」に記された諸事項を踏まえて、本調査を実施した。 

4.研 究 結 果

アンケート調査結果を踏まえて修正を加えた「発達障害版相談支援振り返りシートVer.2009」における「発達障害ゆえに特別に留意・配慮すべき事項」の概要は次の通りである。
(1)個別ケースに対する相談支援
 1)インテーク
  中項目の①相談支援事業所の基本姿勢については発達障害者向けパンフレットの工夫と彼らとのアクセスポイントになっている就労支援機関への配置、たらい回し感をもっている当事者への寄り添い姿勢が、②相談支援専門員の基本姿勢としては、「時間やルールを決めて相談する」といった障害特性への配慮が、③場所・手段・方法についても「本人ルール」の確認と尊重が指摘された。
  2)アセスメント
  中項目の①相談支援専門員の基本姿勢については発達障害の特性に習熟しつつ、面接技術を高める必要性が、②情報の収集と整理と③客観性の担保については、いずれも本人への丁寧なインフォームド・コンセントを心がける重要性が明らかになった。
  3)個別支援会議の開催  
  中項目は①トータルな生活支援における個別支援会議の開催という1 点であるが、細項目の「ⅰ:相談支援事業所による主体的開催」、「ⅱ:会議における必要なサービスや社会資源の明確化」、及び「ⅶ:利用者ニーズの共有」にかかわって「本人なりのルールや独特の認識の仕方がある」点を理解し、尊重すること、「ⅲ:会議の随時開催」、「ⅴ:臨機応変な参加者体制」にかかわって「予定変更の苦手さへの配慮」の大切さが指摘された。
  4)個別支援計画の作成  
  中項目の①相談支援専門員の基本姿勢については発達障害の特性に応じた計画作成となるが、特に②利用者の尊重については、「言葉は巧みだが実は自分の意見や要望を言えていない」、「他人に言われたことを自分の考えと勘違いしている」等の障害特性の理解と配慮が極めて重要になる。また③関係機関との連携では、まず第一に、本人と家族の障害の開示および受容の程度を配慮し、どこまでに伝えてよいのか、誰までには伝えてよいのかを把握する必要がある
  5)モニタリング
  中項目は①個別支援計画におけるモニタリングの実施、②個別支援計画の実施状況の把握の2 点いずれについても共通して、インフォームド・コンセントと障害特性に配慮した実施が必要ということになる。本人の受容の状態に基づき、訪問すべきかどうかを的確に判断する、実施する場合の時間帯や話すべき内容に配慮する、計画の変更に対して本人の同意を得る、なぜ変更が必要なのか、計画を変更した場合の理由を順序立てて本人がわかる方法で説明する、等々個別の配慮が求められる。

(2) 地域全体をデザインする相談支援
  1)地域のニーズ把握
  中項目の①地域の埋もれているニーズへのアプローチは、どこに発達障害のある方がアプローチしてくるか地域アセスメントをしながら、ひきこもりやニート支援のグループ、子育て支援センター等の地域の関係機関のネットワークに参加し、発達障害の知識と理解を関係する機関にわかりやすく説明することが求められる。②把握したニーズへの対応としては発達障害としての特徴を理解することのメリット(学校で必要な支援を求める際に有効、就職に向けた練習や環境整備を依頼するときに有効など)を本人・家族双方に具体的に伝えながら、インテークにはじまる相談支援の流れに沿って丁寧な支援を進める必要がある。     
  2)ネットワークの構築
  中項目の①地域におけるネットワーク構築の取り組み、②ネットワーク構築における個別支援会議の活用の2 点ついては、ネットワークをつくることが何故、必要で重要であるか、これまでにも繰り返し指摘してきたように、丁寧に説明する必要はあるが、発達障害特有の留意点が多く存在する領域ではない。ただし、埋もれているニーズへのアプローチとも関わって、センター的機能を果たす特別支援学校や力量ある特別支援教育コーディネーター、ニート対策系の事業所、不登校・ひきこもり支援系の事業所などとのチームアプローチを視野に入れておく必要はある。   
  3)地域診断
  中項目は①地域診断のための情報収集、②地域の課題の整理・報告の2 点で、この点については、発達障害の支援がまだ発展途上にあるため、先駆的事業や支援の方法についての情報収集をできているか、他の障害や生活困難な方の支援で活かせるものがないか、など柔軟な発想が必要となる。
  4)社会資源の改善・開発
  中項目は①新しい資源づくりの1 点であり、達障害特有の課題というよりは、発達障害を明確に位置づけた地域づくりを進めようとしているか否かが問われるといえよう。 


付 記:本研究は厚生労働省「平成21 年度障害保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)」の指定を受けて行われたものである(採択番号:1/発達障害者を対象とした相談支援事業のあり方に関する研究、研究代表:加瀬進)。研究協力頂いた諸氏・諸機関に心から御礼申し上げます。 

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